社員インタビュー
商品開発[ディスクリート設計]の仕事
商品開発[ディスクリート設計]の仕事
ヒットすれば、月に百万個単位で売れるパワーデバイス。

ディスクリート生産本部に所属し、パワーMOSFETと呼ばれるトランジスタの一種の開発を担当している。これは、電子機器内の電圧を制御するパワーデバイスとして、自動車からスマートフォンまで大小問わず、あらゆる電子機器に必ず組み込まれている半導体部品である。

たとえばノートPCなら、家庭用コンセントから供給されるAC100Vの電圧を機器に内蔵された数十個のパワーMOSFETが高速でON/OFFのスイッチングを繰り返すことで、CPUをはじめUSBポートやDVDドライブなどの機能部ごとに最適かつ無駄のない電力を供給している。特に近年は、機器の低消費電力ニーズの高まりとともにパワーMOSFET需要は増加しており、ヒット商品となれば、ひとつの製品だけで1カ月にミリオン(百万)オーダーが出荷されるものもある

こうしたトランジスタやダイオードなどのディスクリート製品は、パワーMOSFETに限らず「高性能・低価格・極小化」をテーマに、時代のニーズを捉えた新商品をタイムリーに市場へ投入すべく、ロームでは周期的に開発が行われており、常に全世界に向けて販売されている。

担当しているパワーMOSFET製品群も約2年でリニューアルされており、その都度、前世代の製品とは比較にならないほど高性能な新商品が市場に投入されている。

プロセスライン設計から一貫して開発を進める。

新商品の開発の鍵となるテーマは大きく二つある。一つ目は、新商品を造るためのプロセス(製造)ラインの設計である。パワーMOSFETを作るプロセスラインは、微細加工、熱処理、洗浄など100〜200の工程で構成されており、高機能かつ多機能な装置が複雑にからみ合っているのだ。製造工場に配備された複数の製造装置を用いた最適なラインを試行錯誤しながら、どの程度の微細化を可能にするか、また、どう組み合わせてよりコストのかからない製造ができるか、次世代の製品を製造するためのラインづくりから、彼らの開発はスタートする。

「難しいのは、2年後に求められる性能と価格に見合う製造ラインを設計しなければいけないということです」と語る。今はどんな機器が売れているのか、他社はどんな製品を出しているのか、今後どんな製品が市場に登場するのか、常に、営業サイドからの情報や、他社製品を解析することで、市場と製品のNEXTを予測し、開発に反映している。

たとえば、2年後にはノートPCのほとんどがタブレットに置き換わっているかもしれない。そう予測されるなら、そこに焦点を絞った製造が可能なラインの構築を行わなければならない。「技術革新のダイナミックなスピード感をいかに捉え、それを次期商品に反映できるか、当たればミリオンオーダーの売れ行きとなる商品だけに、非常にスリリングで面白い世界です。エンジニアとしては、大きなやりがいを感じられる部分ですね」。彼の言葉から、熱が伝わってきた。

仮想ライン上で、1,000通りのシミュレーションを実施。

そして第2のテーマとなるのが、実際の新商品の開発である。製品(デバイス)の設計は、専用のシミュレーションソフトを使ってコンピュータ上で行い、この条件でこういうものを作ったらどんな特性が出るのか、を検証している。これはいわば仮想実験室といっても過言ではない。コンピュータ上でプロセスラインを再現することにより、実際のラインで実験すると1カ月かかる工程が、僅か数時間でその特性の確認まで行うことができるからだ。

シリコン基板の不純物を何にするか、ゲート酸化膜厚をどの程度にするか、イオン注入される物質や回路の配線サイズなど、入力する条件としてのプロセスのパターンは多岐にわたる。「インプットするパターンはほぼ無限大のため、私自身、時間が許す限り考えられる範囲はすべて行っていると言ってもいいほどです」と説明してくれた彼によると、一つの商品開発につき1,000通りは当たり前、多い場合は2,000通り以上行う場合もあるという。その中から特性の傾向を分析し、ターゲットの特性に合致する傾向を元に、より高い性能が出るプロセス及びデバイス構造をさらにシミュレーションで導き出している。最終的に10〜20点に絞った上で、実際のラインを使ってプロセスの最初から最後まで流す実験を少なくとも約100回は実施、各方面の評価を経て、プロセスラインでの量産となる。

「こうしたシミュレーションが面白く、夢中になれるのは、今ある技術の延長だけでなく、今までにないまったく違った方向からアプローチしてものを作るチャンスがあるから」。たとえば、工程数を劇的に減らしたり、今までの材料とはまったく別のものに置き換えて性能アップを図るなど、いろいろな可能性にチャレンジできるからだ。夜、退社する前にシミュレーションをスタートして、翌朝、出てきて一番に結果を確認する。思っていた通りの結果が出ている場合もうれしいが、何か新しいことや、思っていたものと反対の結果が出ているとか、予想しなかった結果が出ると彼はワクワクする。なぜなら、アイディアを思いつくのは、失敗した時が一番多いから。実験に失敗してその原因を追究し理由が判れば、またそこから新しいアイディアが生まれる。原因追求は常にイノベーションに結びつく可能性を秘めているからだ。次世代の新製品を作るというのは、まさにそういうことだと実感している。

ロームには全社あげて技術に対するこだわりがある。それはやはり、ロームのエンジニアはみんな、そんなワクワクする気持ちを持って働いているからだ。