

2010年4月、SiCパワーデバイス製造部が発足。12月にはSiC-DMOSFETの量産化が開始された。いうまでもなく「世界初」の快挙である。ロームがSiCパワー半導体の開発に着手してから10年、三浦の主導で最初の試作品が動作してから8年の年月が経っていた。
一つできれば無数の展開が可能になる。SiCには、600V、1200Vだけでなく1700V以上など、Siでは優れた特性を実現しにくい領域での活躍が期待できる。
今般、世界中が欲している、「エネルギー分野」への挑戦だ。今後はモジュール製品にも力を入れ、一気呵成に拡販を進めていくことになる。


そこで重要なのは、お客様先へのプレゼンだ。こうした高機能半導体の場合、ただ製品を納めればいいわけではなく、使い方をお客様に提案しながら、共同開発に近いかたちでどんどん改良していかなければならない。
とにかく成果をお客様にぶつけ、あれこれ相談して、初めて気づくことも多い。研究者と研究者が膝を付き合わせることで、どれだけ新しいアイデアが生まれたか計り知れない。
これこそが、「どこよりも早い商品化」故に成し得た成果なのだ。


商品化に対する意識の高さは、ロームの企業文化として全社員一人ひとりに浸透している。研究開発者も、基礎研究の段階から商品化・信頼性を意識し、プロセス像を想起しながら研究を進めるのが当たり前のようになっている。こうしたメンバーがチームを組み、一丸となって高品質なデバイスの量産化を実現した。
ロームの成功は、業界に大きな衝撃を与えた。他社も指を加えて見ているはずがなく、激しい戦いが始まることは必至だ。SiC維新と言っていいだろう。
それぞれが、次の目標を定める。中野が今、心血を注いでいるのは、次世代のTMOSだ。「素子のオン抵抗を低減する為には単位セルの微細化が有効です。今、DMOSの次世代機種として、表面に溝を形成しその中にゲートを埋め込むことで単位セル面積を縮小するTMOS(トレンチゲート型MOS)の開発に従事しており、商品化は目前です。」


「世界初」をものにした三浦は、研究姿勢について頼もしい考え方を説明する。「研究者はこう考えればいい。お客様が何に困っていてそれを解決してあげるために何をしなければならないのか?どうやったら実現できるのか? と」
川本が付け加える。「研究者にはそれぞれ仕事の進め方の個性や流儀があり、研究開発のブレイクスルーにとってはこれが大事です。同時に、商品化して世に貢献するまでしっかり見届けるという責任感も強く、これぞロームの社風だと思うのです」
ロームの、SiCパワーデバイスへの取り組みは、まだその端緒についたばかりだ。


量産化の実現によって、まちがいなくロームは、SiCパワーデバイス界の中核企業となりました。世の中に広く使っていただけるよう働きかけ、省エネに貢献したいと思います。一方個人的には、SiCとまったく別の柱となるようなデバイスの開発にも野心を燃やしています。そんな自由な発想を支えてくれる会社が、ロームなのです。

「SiCパワーデバイスを使うと、効率が劇的に改善された」というお客様の声をいくつも聞きます。世の中で注目され、投資の大きなプロジェクトを若いうちから経験できて、とても良い経験になりました。ロームは、やる気があれば若くても責任の重い仕事ができる会社。それを望む人には、たまらなく魅力的な会社です。

開発はスタートを切ったばかりで、まだまだSiC本来の実力は出し切れていません。ウエハ大口径化やデバイス高性能化、SiCを活かすモジュール技術の開発など、課題は山積みです。目標は、SiCでシェア世界一を獲得すること。そんな仕事を任せてくれるロームという会社を、誇りに思います。
