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モータドライバの絶対最大定格

今回は、モータドライバの絶対最大定格についてです。「モータドライバの」というタイトルではありますが、絶対最大定格の定義はモータドライバに限らず、他の半導体デバイスに範囲を広げても同じです。今回、このテーマを取り上げたのは、絶対最大定格の定義や意図するところを正しく理解してトラブルを避けるためです。

絶対最大定格とは

念のため、最初に絶対最大定格と言う用語の定義を確認しておきます。半導体デバイスに関しては基本的に、「JIS C 7032 トランジスタ通則」の用語の定義を拠り所としており、その定義は「瞬時たりとも超過してはならない限界値で、どの2つの項目も同時に達してはならない限界値」とされています。平たく言うと、「絶対最大定格にあるどの項目の値も、どんなに短い時間でも絶対に超えてはいけない」という解釈になります。

モータドライバの絶対最大定格

モータドライバの設計において、出力電流にインパルス状、つまり短時間のスパイクのような電流が流れ、この電流値が一瞬絶対最大定格を超えてしまうが問題はないかと聞かれることがあります。答えは明らかで、上記で確認した絶対最大定格の定義から「不可」です。絶対最大定格には、許容差や一瞬(時間が規定された項目はある)といった議論はありません。

実際に、モータドライバICの絶対最大定格の例を見てみましょう。これは、ロームのDCブラシ付きモータ用Hブリッジ 回路内蔵タイプのデータシートからの抜粋です。

モータドライバICの絶対最大定格の例

この例では、出力電流の絶対最大定格は3.0Aなので、基本的にこの値を超えてはいけませんが、その下に「出力電流(ピーク)」という項目があり、注記のNote 2を加味すると、パルス幅が1ms以下でデューティサイクルが20%のパルスであれば4Aが絶対最大定格になっています。前述のインパルスがこの規定内であれば許容されますが、いずれにしても超えてしまうと許容できません。ちなみに、この例では時間規定がある出力電流の項目がありますが、すべてのモータドライバICにあるとは限りません。絶対最大定格の項目も、メーカーや機種によって一律ではありません。

また、出力電流の絶対最大定格3.0Aには、「Tjmax=150℃を超えないこと」という注記Note 1が付いています。これは、出力電流だけの観点では3.0Aまで許容できますが、実際に流せる電流はTjmaxが150℃になるまで、ということを言っています。絶対最大定格の定義では、規定のあるどの項目も超えてはいけないので、この様に電流と発熱といった相関関係がある項目は、絶対最大定格値に至らなくてももう一方の項目により制限される場合があります。

絶対最大定格を超えた場合

絶対最大定格を超えると、一般的には特性や耐圧の劣化や破壊が生じる可能性があり、その直後に異常が認められなくても動作寿命が短くなることがあり得ます。わずかに超えただけですぐに破壊に至る項目がありますが、そうでもない項目もあります。だからと言って「一瞬だから」という考えは許されません。時々、「電流値は守らないと危険だけど、温度は多少なら大丈夫」といった話が聞こえてくることがありますが、何の根拠もないどころか、絶対最大定格の定義と趣旨を理解していない典型的なケースです。

したがって、設計において絶対最大定格を超える状況がある場合には、それを絶対最大定格内に収める設計、もしくは対策を行うか、それを許容できる絶対最大定格のデバイスや部品の使用を検討することになります。

絶対最大定格と推奨動作条件および規格値の関係

データシートには絶対最大定格の他に、「推奨動作条件」や「規格値」が提示されています。絶対最大定格の理解に関して定義に次いで大事なことがあります。それは、「絶対最大定格の値は与えても許容できる値であって、動作や特性値が保証される値ではない」ということです。

これは、同じモータドライバICのデータシートに示されている「推奨動作条件」です。

モータドライバICの推奨動作条件の例

出力電流(連続)に関して言えば、推奨動作条件は最大2.4Aとなっており、絶対最大定格の3.0Aより少なくなっています。これは、規定された特性値や期待される信頼性を確保しつつ使用するための条件です。

電源電圧の例では、絶対最大定格が-0.2V~36.0Vなのに対して、推奨動作条件では8V~28Vになっています。例としては、こちらのほうがわかりやすいかもしれません。最小値が8Vなのは、このモータドライバICが電源電圧8V以下では正常動作しない可能性を示しています。もちろん、5Vや3.3Vなどを電源に印加することは何ら問題ありませんが、おそらく動作しません。ちなみに、電気的特性の規格値の電源電圧条件は、推奨動作条件の標準値である24Vが基本条件になっています。

まとめます。絶対最大定格は単純かつ厳格で、決して提示されている値を超えてはいけないものです。これは、モータドライバICに関わらず、半導体デバイスでは共通の認識となります。設計・評価の際には様々な条件を想定した実動作をチェックして、絶対最大定格以内であることはもちろん、大原則として推奨動作条件に則っているかを確認する必要があります。特に、パルス状の電圧・電流は要チェックです。