ステッピングモーター|基礎編
2相バイポーラステッピングモーターの駆動 その2
2019.07.16
この記事のポイント
・Slow DecayはFast Decayに比べ電流リップルが小さいのでノイズが小さく、平均電流が大きくなるので発生トルクを大きくすることができる。ただし、高速パルスレートでは不利。
・Fast Decayは逆にノイズ、トルクに関しては不利だが、高速パルスレートに対しては有利。
・Mix Decayは、Slow DecayとFast Decayの組み合わせで波形の最適化が可能。
前回の「2相バイポーラステッピングモーターの駆動 その1」では、2相バイポーラステッピングモーターの基本的な駆動回路例と駆動波形を示しました。今回は「その2」として、同じく2相バイポーラステッピングモーターの駆動における電流回生時のDecay:電流減衰について説明します。
2相バイポーラステッピングモーターの駆動:Decayとは
ステッピングモーターの駆動では、Decay:電流減衰の制御が必要です。Decayはモーターへの電流供給をオフした時の電流を減衰させる方法で、Slow DecayとFast Decayの2つの方法が基本となります。
以下は、前回示したステッピングモーターの駆動波形の一部です。出力電圧OUTはPWM信号であることから、出力電流はPWM信号に連動してオンオフした平均電流になります。駆動するのがコイルであるため、出力電流の波形はPWM電圧出力の方形波ではなくノコギリ波になります。図には出力電流の拡大波形が示されています。
青色の波形がSlow Decay時の波形で、減衰の傾きが小さいので電流減衰速度は遅く、PWMオフ期間の電流減衰も少なくなります。したがって、オン時の設定電流値までの到達時間も短くなっています。
赤色はFast Decay時の波形で、傾きが大きいので電流減衰が速く減衰量が大きいので、オン時は設定電流値までの時間がかかりSlow Decayより周期が遅くなります。
Slow DecayとFast Decay:方法の違い
Decayの方法は、ドライバー出力Hブリッジの切り替え方法で選択できます。
図のコイルは、ステッピングモーターのコイルA、コイルBの1つ分を意味しています。Hブリッジの4つのスイッチの内電流経路にあたらないものは省略しています。
Slow Decayの(a)はQ1とQ4がオン状態です。(b)と(c)はQ4はオンしていてQ2はオンとオフです。スイッチの状態は異なりますが、オフのQ2のMOSFETにも寄生ダイオードを経由して回生電流が流れるので、どちらも同じように電流が流れます。回生電流はコイルに蓄積した電流しか流れません。
Fast Decayの(d)はオン状態で、Slow Decayと同じです状態です。(e)はQ2、Q3がオンしていて、(f)はすべてのMOSFETがオフしていて、オンしているQ2、Q3を経由して回生電流が流れ、オフしているQ2、Q3も寄生ダイオードを経由して回生電流が流れるので、どちらも同じように電流が流れます。電源に向かって電流を流しますが、電源電圧で逆方向に電流を流そうとするため電流の減衰が速くなります。
オフをどちらの状態で制御するかでSlow DecayとFast Decayを使い分けられます。
Decay方法の違いとステッピングモーター駆動の関係
Slow DecayはFast Decayに比べ電流リップルが小さいので、ノイズは小さくなります。また、平均電流が大きくなるので発生トルクを大きくすることができます。ただし、パルスレートが高速になると波形に歪が生じ、モーターがきちんと回転しないといった不利な点があります。
Fast Decayは逆にノイズ、トルクに関しては不利ですが、高速パルスレートに対してはSlow Decayより有利な方式です。
Mix Decayとは
Decay方法はSlow DecayとFast Decayが基本ですが、これらを組み合わせてそれぞれの利点を活かせる方法としてMix Decayというものがあります。
Mix Decayは、減衰し始めをFast Decayで行い、その後にSlow Decayを実施します。これにより、Slow Decayより速く減衰させつつ、Fast Decayより電流リップルを抑えることができます。トルクを大きく維持しながら高速パルスレートに対応することが可能です。ドライバーICによっては、SlowとFastの時間比率を調整できるものがあり、電流波形を最適化可能です。
以下は、ステップ数ごとのSlow/Mix/Fast Decayでの波形です。Mix Decayでは最適化が図られていることがわかります。
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