3相ブラシレスモーター|基礎編
センサレス120度通電駆動の起動方法 2:永久磁石停止位置を検出して起動
2020.06.16
この記事のポイント
・「永久磁石の停止位置を検出して起動する方法」は、「同期動作運転から誘起電圧を検出して起動する方法」の課題である逆転や低トルクでの起動は回避し、起動に時間がかかることを改善する。
・永久磁石の停止位置検出には、モーターが回転しない短時間の6パターンの通電を行い、電源電流が最大(または最小)のパターンを確認する。
前回は、3相全波ブラシレスモーターのセンサレス固有の起動方法について、基本的な2つ方法の内、同期動作運転から誘起電圧を検出して起動する方法について説明しました。今回は、永久磁石の停止位置を検出して起動する方法について説明します。
同期動作運転から誘起電圧を検出して起動する方法の課題
前回、「同期動作運転から誘起電圧を検出して起動する方法」には、いくつかの課題があることを説明しました。今回説明する「永久磁石の停止位置を検出して起動する方法」は、それらの課題を改善する方法になります。確認しやすいように、その課題を再度書き出しておきます。
<同期動作運転から誘起電圧を検出して起動する方法の課題>
- ・永久磁石の位置に関係なく合成磁界を作るので、状態によっては逆転方向のトルクがかかることがあり、永久磁石の停止位置によって起動に時間がかかる。
- ・本来、十分なトルクを発生する永久磁石と合成磁界の位置関係は90度だが、永久磁石の位置に関係なく合成磁界を作ることから70度や60度といった角度からスタートするので、一定の大きな起動トルクが得られない。
センサレス120度通電駆動の起動方法 2:永久磁石の停止位置を検出して起動する方法
早速、上記の課題への対処となる「永久磁石の停止位置を検出して起動する方法」の説明をしていきます。
最初の図は、説明に使う永久磁石(ロータ)の停止状態を示しています。S極が3時の位置、N極が9時の位置で停止しているとします。
次の回路図は、永久磁石の位置検出を行うための原理と動作説明するための模式図です。出力A1、A2、A3を使って、コイルに①~⑥の6パターンの電流が流れるように通電を行います。この通電は、永久磁石が回転しない短時間の通電です。
この6パターンの通電波形と流れる電流波形(IVM)を、波形図に示します。A1~A3は①~⑥の通電パターンに対応する電圧を出力します。各パターンでの電源電流波形には大小が生じます。これは、各パターンでの電流が永久磁石の位置によって異なるためで、この方法ではそれを利用して永久磁石の位置を検出します。
具体的な例の説明をします。③では、通電によりコイル2にS極、コイル3にN極が発生します。コイル2の対向に永久磁石のS極があり、コイル3の対向には永久磁石のN極があるため、コイルの磁極化が妨げられます。そのため、電流の立ち上がりが最も緩やかで小さくなります。
⑥は③の逆で、通電によりコイル2にN極、コイル3にS極が発生します。コイル2の対向に永久磁石のS極、コイル3の対向に永久磁石のN極があるため、コイルの磁極化が助長されます。そのため、電流の立ち上がりが最も急で大きくなります。
つまり、電流が最大または最小になる通電パターンを確認することで、永久磁石の位置を検出できます。
具体的なドライバーの回路ブロック例と動作波形図を使って、もう少し具体的に説明します。
方法2の回路ブロックは基本的に、方法1の同期動作運転から誘起電圧を検出して起動する回路ブロックに、6つの通電パターンを生成し電源電流を検出、比較し初期駆動パターンを生成する回路が追加になっています。一部省略されていますが、水色で囲まれた部分が出力A1~A3になります。
(1)位置検出パターン生成ブロックが生成した6つのパターンを駆動用基本波形合成ブロックに送り、A1~A3により通電を行います。検出された電源電流は電流検出抵抗とAmpにより電圧変換され、(2)サンプル&ホールドと(3)電流値比較最大値パターン検出に基づき、(4)初期駆動パターン生成ブロックが永久磁石の位置に基づく初期駆動パターンを生成し、駆動用基本波形合成ブロックに戻し駆動が開始されます。
動作波形図の出力電圧波形A1~A3には、電源投入直後に短いパルスが表示されています。これは位置検出用6パターンの通電を表しています。前述のように短時間の通電なので、他の波形との対比ではこのような時間イメージになります。
電源投入後直ちに永久磁石の位置が検出され、それに基づく初期駆動パターンにより駆動されるので、誘起電圧を検出して起動する方法の課題である逆転や低トルクでの起動は回避され、モーターは最初から大きなトルクで回転を始めることができます。
起動後の動作は、誘起電圧を検出して起動する方法と基本的に同じプロセスになります。初期駆動における駆動パターンの切り替えのタイミングは、誘起電圧を検出して起動する方法と同じようにST_CLKに基づきます。
ただし、最初から大きなトルクで回転を始めるので、数パターン(この波形図では4発のST_CLK分)で十分な誘起電圧を得ることができ、誘起電圧を利用した定常駆動状態に入ります。つまり、誘起電圧を検出して起動する方法の課題である、起動に時間がかかる点が改善されます。
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