ブラシ付きDCモーター|基礎編

PWM出力によるブラシ付DCモーターの駆動:損失と注意点

2018.12.11

この記事のポイント

・ブラシ付きDCモーターのPWM駆動における損失は、電圧印加時、電流回生時、遷移時から考える。

・スイッチング(スルーレート)を高速化すると効率は上がるがノイズが増加する。

・PWM周波数を高くすると電流リップルを低減できるが効率は低下する。

前回、ブラシ付きDCモーターのPWM駆動での電流回生方法として計4つの方法を説明しました。今回はPWM駆動時の注意点として、損失とスイッチング方法について説明します。

PWM出力によるブラシ付DCモーターの駆動:損失の考え方

PWM駆動はパルス駆動であることから、その消費電力は単純には1周期におけるモーターの電圧印加(オン)期間の消費電力と電流回生(オフ)期間の消費電力の平均値になります。厳密には、下図のように、電圧印加期間(赤)、電流回生期間(青)、遷移時(黄色)の3状態の消費電力をわけて考えます。一般に定常時の損失は導通損失であり、オンオフ遷移時の損失はスイッチング損失になります。

PWMモータードライブの波形模式図、PWM出力によるブラシ付DCモーターの駆動:電圧印加時。

●電圧印加期間の消費電力
(a)図は電圧印加時のスイッチ(MOSFET)の状態を示しています。2つのMOSFETがオンした経路を電流が流れますので、ここでの損失は、オンしているMOSFETのオン抵抗の和×電流の二乗になります。

●電流回生期間の消費電力
前回説明したように電流回生には4つの方法があり、電流経路が異なりますので損失も異なります。

PWM出力によるブラシ付DCモーターの駆動:電流回生方法

(b)と(e)はオンした2つのMOSFETが電流経路になるので、オンしているMOSFETのオン抵抗の和×電流の二乗になります。

(d)は2つのMOSFETの寄生ダイオードを経由しますので、各寄生ダイオードのVFの和×電流になります。

(c)はオンのMOSFETとオフのMOSFETの寄生ダイオードを経由するので、オンしているMOSFETのオン抵抗×電流の二乗+オフしているMOSFETの寄生ダイオードのVF×電流になります。

●遷移時の損失
これは少し複雑になります。一般にスイッチング損失は以下の式で求めることができます。

遷移時の損失=0.5×Ea×I×(tr+tf)×fsw
Ea:印加電圧、I:電流、tr:立ち上がり時間、tf:立ち下がり時間、fsw:スイッチング周波数

ただし、trとfrに関しては実際の波形から求めることになり、実際の波形は図のようにきれいな線形とは限りませんので考慮が必要です。また、印加電圧や電流も実際に測定するほうが確かな結果が得られます。

PWM出力によるブラシ付DCモーターの駆動:注意点

●遷移時の損失とノイズ
遷移時の損失、つまりスイッチング損失は前出の式からわかるように、立ち上がり時間trと立ち下がり時間tfが速いほど小さくなります。スイッチング速度(スルーレート)が速いほどスイッチング損失は小さくなり、結果として消費電力が小さくなる=効率が向上しますが、その反面、スイッチングノイズが大きくなります。これは、効率とノイズのトレードオフになるので、両者の妥協点を見出す必要があります。

●ハイサイド/ローサイドスイッチの切り替えタイミング
これは、同期整流のスイッチングレギュレータでも必須となる制御で、Hブリッジのハイサイド/ローサイドのペア(上図ではQ1/Q2、Q3/Q4)のオンオフに関して、ハイサイドとローサイドが同時にオンになる期間が生じないように、Hブリッジを制御しなければなりません。もし、同時にオンになると電源とGNDが短絡状態になりシュートスルー(貫通電流)などと呼ばれる大電流が流れ破壊に至ることがあります。

同時オンを防ぐためには、必ず両方のスイッチがオフになる、俗にデッドタイムと呼ばれる期間を挟んだスイッチングが可能な制御回路が必要です。ただし、デッドタイム期間は損失となるので最小限にする必要があり、高効率な高速スイッチング(スルーレート)との両立は非常に高度な制御が必要です。実際のところ、こういった制御回路を外部回路で構成するのは困難なため、モータードライバーICに搭載された同時オン防止回路を利用することが一般的です。

●PWM周波数
PWM周波数、つまり電圧印加と電流回生のサイクルが高速になると、スイッチング損失は増加します。これも、前出の式から明らかです。高周波数化で電流リップルを緩和したい場合などは、効率とのトレードオフになります。

●モータードライバーICがPWM駆動に対応しているかの確認
単純な話ですが、モータードライバーICに「PWM駆動可能」という記述がない場合は、PWM駆動ができない可能性があります。どうしてもそのドライバーをPWMで使いたい場合は、メーカーに確認する必要があります。

PWM駆動に対応していないドライバーをPWM駆動で使うと動作しない可能性が高く、動作したとしても誤動作を起こしたり、外付け部品や回路が必要になったりするので、基本的にはやめたほうが無難です。

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