エンジニアに直接聞く
IoTにはLPWAが1つの解になるLPWAについて考える-標準規格ARIB STD-T108に対する適合性
2019.01.29
-それでは、先ほど少し話に出た単位チャネルの帯域幅と実際に使う帯域幅についての補足について説明いただけますか。
まず、単位チャネル帯域幅と実際に使用する帯域幅は先ほどの図にあったように、IEEE 802.15.4kは単位チャネル帯域幅が2ch 400kHzで400kHz全域を使用、LoRaWANは1ch 200kHzに対して125kHzを使用、SIGFOXも1ch 200kHzに対して使用するのは200Hzです。LoRaWANとSIGFOXは200kHzの帯域幅を全部使わない点で、与えられた帯域を全部使わない、つまり無駄が出るので単純にもったいないことになります。また、技術的な面ではキャリアセンスが少々面倒になります。
-キャリアセンスとは何ですか?
キャリアセンスは、送信を開始する前に他の無線局が送信を開始しようとする無線チャネルを使用していないか確認し、他無線機がそのチャネルを使用中であれば、同一周波数での送信を行わないことで干渉を回避する仕組みです。もし、通信中であれば一定時間たってから再度通信を試みます。搬送波(キャリア)を検知(センス)することからキャリアセンスと呼ばれており、これらの通信方式に限ったものではありません。ただ、LPWAとしてここで取り上げているIEEE 802.15.4k、LoRaWAN、SIGFOXはアンライセンスドなので、多くの無線機器が共有することになりますので、キャリアセンスが重要になってきます。
-わかりました。進めてください。
この図は、チャネル帯域幅、使用帯域幅、キャリアセンスの帯域幅を示したイメージです。
LoRaWANの例では、チャネルに割り当てられた帯域幅が200kHzに対して使用する帯域幅は125kHzです。しかしながら、キャリアセンスはチャネル帯域幅全域、200kHzに対して行う必要があるので、LoRaWANとSIGFOXはIFフィルタによって一旦帯域を200kHzに広げてキャリアセンスを行い、通信時には実際使う帯域に戻すといった対応が必要になります。それに対してIEEE 802.15.4kは2ch 400kHzの全帯域幅を使い、当然ですがキャリアセンスは全帯域に対して行います。
-確かに手間がかかりそうなイメージです。
出来合いのモジュールなどを使う場合には、こういった対処はモジュール内で行われており表向きはわからないかもしれませんが、LoRaWANとSIGFOXがキャリアセンスの要求に従うためには必要なことです。
ところで、もったいないとか面倒というところに話が行ってしまいましたが、ここでお話したいことは、電波法に基づく920MHz帯無線の標準規格ARIB STD-T108に対する適合性についてなんです。
-ついわかりやすいキーワードに気が向いてしまいました。ARIB STD-T108に対する適合性という観点でお聞きします。
IEEE 802.15.4k、LoRaWAN、SIGFOX、これらの無線方式は日本国で使用する以上、ARIB STD-T108に適合していなければなりません。単純な話をすれば、LoRaWANもSIGFOXも使用帯域幅が規格のチャネル帯域幅と合致していれば、先ほどのもったいないとか面倒だとかという話は出ないのですが、方式を策定した側の意図や方式の特徴、国家間の法律の違いなど諸々の理由で、規格適合のための対処が必要になることがあります。
ということで、ARIB STD-T108に対する適合性に関してキャリアセンスの件を挙げましたが、もう1つの検討として、送信時間制限とデータ送出時間に関連する制限についてお話したいと思います。
-わかりました。お願いします。
ARIB STD-T108には、日本の都市部が人口過密であるため、無線機の多さと密集度を考慮した厳しい規制が含まれています。その中に、送信時間の制限があり、1回の送信に使用できる時間と1時間あたりの送信時間の総和が規定されています。
この表は、主要項目の規定を示したもので、緑で囲んだ列が、1回の送信時間制限と1時間あたりの送信時間の総和の規定になります。送信時間制限に対して「毎回規制」、1時間あたりの総和には「総量規制」という表現を入れてありますが、正式な呼称ではなくこれらの規定のイメージを表すものと理解願います。
また、SIGFOX、LoRaWAN、IEEE 802.15.4kの該当を各色枠で示してあります。見方としては、3方式とも20mW以下に該当し、単位ch帯域幅は200kHz、基本的にLoRaWAN、SIGFOXは同時使用チャネル数が1ch、IEEE 802.15.4kは2chというのは今までの説明の通りです。
送信時間制限を見ていくと、SIGFOXは1回の時間制限(毎回規制)が4sで1時間あたりの総和制限(総量規制)がない規定を使います。
LoRaWANは、SIGFOXと同様の1回4sで総和制限なしと、1回400msで総和制限が360s以下の2種類を使います。
IEEE 802.15.4kは、1回200msで総和制限が360s以下になります。
-SIGFOXとLoRaWANの送信時間制限1回4sというのは4秒ですよね? 他の200msや400msに比べるとかなり長いと思うのですが。
長い時間送信できて優位なように見えるということだと思いますが、この規定を選択するとキャリアセンスは5ms以上が課せられます。他の規定だと128μsなので、送信可能であることの確認により多くの時間を使わなければなりません。
ここで、送信時間制限と実効データレート、データ送出時間の関係を数値をもとに考えてみましょう。この表の上の方は前にご覧いただいたものと同じで、各方式の受信感度例や実効データレートが示されています。
この例では、妨害波に強いIEEE 802.15.4kの受信感度を少し低くとってあります。まず、実効データレートを見ると、IEEE 802.15.4kは1.56kbpsで、LoRaWANが97bps、SIGFOXが100bpsです。これから計算した100bitのデータ送出にかかる時間を示してあります。○は送信時間制限内、×はアウトを意味しています。IEEE 802.15.4kは64msで200ms以内、LoRaWANは1031msなので4sの規格では○ですが、400msでは?になります。SIGFOXは4sに対して1000msなので規格内です。
-なるほど。実効データレートと送出データ量によって選択した規定内に収まるか否かが決まってくるわけですね。
そうです。次に最大ペイロードの行には、一度に送ることができる最大のユーザーデータ量を示してあります。実際のペイロードにはその他のデータを含みますので、その条件を欄外に示してあります。その下の最大ペイロード送出時間は実際のペイロードの送出時間になっているので、実効データレートと最大ペイロードの行に示されたユーザーデータだけでの単純計算とは合致していないことを了承ください。
ということで、最大ペイロード送出時間を見ていくと、IEEE 802.15.4kとLoRaWANはこの例では最大ペイロードを送信しようとすると送信時間制限を超えてしまいます。SIGFOXは、実効データレートは低いですがデータ量が少ないので2080msと4sの送信時間内に入っています。
-つまり、IEEE802.15.4kやLoRaWANは最大ペイロードを1回の送信時間制限内に送れないということですか?
この条件ではそうなってしまいます。これは、むやみにSFを大きくし受信感度を上げて長距離化を図ることはできないことを意味しています。対処としては、受信感度を下げることで実効データレートを高めることができます。例えば、この条件でLoRaWANは34sかかっているので、実効データレートを10倍にすれば3.4sとなり何とか4sの規定に入ります。ただ、400msの規定に合わせようとすると実効データレートを100倍程にする必要があり、受信感度は単純計算で-115dBmくらいにまで低下してしまいます。もちろん、送信データ量を減らすことでも対応可能ですが、それなりの対処が必要になります。これは、スペクトル拡散方式の無線通信全般の事象で、IEEE802.15.4kも同様です。
これは以前にも説明したLPWAの重要なポイントの1つで、受信感度、つまり通信距離と実効データレートがトレードオフの関係にあることを念頭に置く必要があるというのはこの点になります。
-ARIB STD-T108に対する適合性の観点からはどう考えることになりますか?
LoRaWANはそれなりの調整が必要で、ARIB STD-T108適合のためにはモジュールベンダの対応が重要になります。これはLoRaWANの物理層が一社独占で標準化されたことに関連しています。SIGFOXはLoRaWAN同様にオリジナルの標準ですが、世界でのサービスを前提に策定されているので、ARIB STD-T108への対応は比較的容易です。IEEE 802.15.4kは、IEEEが元来世界標準であることから各国の法律が考慮されているので十分な適合性を備えています。
-LPWAを考える際には単に通信距離や無線方式の特徴だけではなく、電波法に基づく標準規格への適合性も重要なポイントになるわけですね。
(続く)
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