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IoTにはLPWAが1つの解になる:IoTに必要な無線通信の条件を考える

2018.07.31

近年、IoTに向けた新たな無線技術としてLPWA(Low Power Wide Area)が注目されている。LPWAはデータ量をIoT用途に抑えた低消費電力動作で、かつ広いエリアをカバーすることを目指した無線技術であるが、黎明期と言える現状においては多種多様な無線方式が存在している。

この様な状況においてラピスセミコンダクタは、SIGFOXIEEE 802.15.4kの両方の無線方式に対応した、業界初のデュアルモード無線通信LSIであるML7404を発表した。これを受け、先ごろラピスセミコンダクタ株式会社 ローパワーLSIビジネスユニット 野田 光彦 氏に、LPWAの状況やML7404の開発コンセプトなどの概略を伺った。今回は、IoTを見据えたLPWAという観点で技術的なポイントを中心に話を伺った。

-前回は、LPWAの状況やラピスセミコンダクタの取り組みについて概略的な話を伺いました。今回は、IoTでの展開を前提に、それらの技術的ポイントをもう少し詳しくお聞きしたいと思います。

わかりました。最初に、話を進めて行く上で私が申し上げたいことの趣旨を述べさせていただきたいと思います。IoTを考えた場合LPWAは有用であり、私は「IoTにはLPWAは1つの解になる」と考えています。「1つの」という意味は、解は1つではなく条件によっては他の無線が適したケースや、それらを組み合わせた解があるということです。したがって、LPWAの得手不得手を理解した上で、IoTに最適な無線方式を選択することが大事だということを前提に話を聞いていただければと思います。

また、LPWAの中には全国展開を開始しているサービズもありますが、まだ黎明期にあると言えるでしょう。現状ではLPWAに分類される無線方式はいくつもあり、無線方式の違い、標準化、ライセンスの要不用など、それぞれにメリット/デメリットがあり、その進展も非常に早いものです。LPWAの中でも特徴を理解して選択する、もしくは使い分けることが必要だと考えています。そういったことのヒントを提供できればと考えています。

-了解しました。言葉は適切ではないかもしれませんが、方式や規格の採用などに関しては覇権争い的なところも無きにしも非ずですが、IoTの特性や目指すところを考えれば、適材適所というか条件により最適解は異なり、また1つでもないという柔軟な考えは忘れてはいけないことですね。

それでは、最初にIoTを見据えるということで、IoTに必要な無線通信の条件についてあらためて確認したいと思います。

IoTは「「モノのインターネット」という、よくも悪くも曖昧な定義から非常に広範で多種多様な市場があり、新しい市場が急増しています。これは、現状のざっくりしたIoT市場を示した図です。

IoT市場、規模のイメージ

今回、説明や紹介をするのは、主に黄色の破線で囲まれた市場が対象です。先程お話したように、市場が違えば条件も変わってきます。

さて、IoTに必要な無線通信の条件を考えて行きますが、IoT機器が普及するために必要なこととして何かお考えのことがありますか?

-一般の消費者としてなら、とにかく面倒なことがないということですかね。身近な無線LANを例にすると、接続設定とか部屋によってはつながりにくいとか考えなくて済むといいかなと。

そうですね。基本的にそういうことです。IoTが人々や社会の役に立ち成功するには、高品質のIoT機器が手軽に使えることが鍵になると考えています。「高品質」とは「丈夫、安定、電池が長持ち」、「手軽さ」は「誰でも作れる、使える」といったことを意味します。無線通信、無線機器ということでいうと、以下のような例があると思います。

IoTに必要な無線通信の条件。IoT機器には高品質と手軽さが求められている

IoT機器は、こういった課題を使う側に意識させないようになることで、その普及は加速すると考えます。

-キーワードは「高品質&手軽さ」ということですね。これを実現するにはどういったことが必要になりますか?

消費者、そしてIoT機器メーカーから私どものような無線LSIメーカーや部品メーカーに求められることを検討し、技術的観点でまとめた表があるのでご覧ください。高品質に該当する項目が6、手軽さが4と、ちょうど計10項目になりました。項目の意味は特に補足がなくてもおわかりいただけると思います。記号は私どもの分類のために付けたものです。あとで、無線方式との対応を見るためのマッピングに使います。

項目 記号 項目 詳細
高品質 K1 高感度(FEC、拡散) エリア拡大、ネットワーク容易化、設営考慮不要
K2 妨害波耐性 通信安定性、ロバストネットワーク、ロバスト方式
K3 耐環境性 通信安定性、設備マージン考慮不要
K4 高速動作(起動等) 低電力システムの構築
K5 多様性 ネットワークトポロジー
K6 低消費電力 電池駆動、端末小型軽量化
手軽さ T1 相互接続性 標準化、アライアンス、費用
T2 開発容易性 各レイヤのベンダ、国内ベンダ
T3 横展開容易性 免許不要、各国電波法
T4 接続性 既存設備(機器)流用可能、インフラ整備

次に、各種無線方式がどれだけこれらの項目をカバーするかを示すために、項目の記号を無線仕様にマッピングしたものを見てください。Bluetooth low energy、Sub-GHz、IEEE 802.15.4k、LoRaWAN、SIGFOXか高ポイントであることがわかります。

IoTに最適な無線方式を確認するための通信方式の比較

記号をかぶせたことで仕様が隠れているので元の表もご覧いただきますが、ここでは、どの無線方式がIoTに対する「高品質&手軽さ」のポイントが高いかというところを押さえていただければ大丈夫です。

IoTに最適な無線方式を確認するための通信方式の比較

-高ポイントでも、例えばBluetooth low energyはLPWAではないかと思いますが?

もちろん、IoT=LPWAではありません。Bluetooth low energyも、IoTのひとつの解です。ちょっと説明が前後して申し訳なかったですが、ここにリストアップした無線方式は近年広く使われている代表的なものです。この図は、表の無線方式がカバーするデータレートと通信距離のイメージです。昨今LPWAとして注目されているのは赤の破線で囲んだ無線方式で、表の中では通信距離が10000mのIEEE 802.15.4k、LoRaWAN、SIGFOXが該当します。もちろん、これらはIoTの無線方式として「高品質&手軽さ」のポイントが高かった無線方式です。

代表的な無線方式のデータレートと通信距離のカバレッジ

ということで、ここからはIEEE 802.15.4k、LoRaWAN、SIGFOXに絞って話をさせていただきます。

-わかりました。ここまでの話を一旦まとめていただけますか。

まず、IoTの発展には高品質のIoT機器が手軽に使えることが重要で、「高品質&手軽さ」がキーワードになります。それに対応するという観点から、IoTにはLPWAが1つの解になると考えています。勘違いしてはいけないのは、無線方式に万能はなく、得手不得手を理解して用途に合わせて選ぶ必要があるということです。

LPWAは基本的にIoTのための無線方式として開発、策定されています。その内容は当然のことながらIoT機器に有効と思われるものですが、無線方式によって特徴は異なりますので、続いてLPWAの具体的な話をさせていただこうと思います。

(続く)

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