Sub-GHz無線|基礎編
無線設計ガイダンス:無線デバイスの選択
2017.06.13
この記事のポイント
・無線ビギナーが無線デバイスを選択する場合、ますはモジュールが無難である。
・LSIかモジュールかは、設計リソースだけではなく、生産数量や市場投入時間、トータルコストを加味する必要がある。
この「無線設計ガイダンス」は、無線設計の経験があまりない、もしくは初めてという人が無線設計を始めるためのものです。ここでは、一例として、近年のIoTの1つである、ビルの空調に通信ネットワークを導入して、快適かつ省エネな空調システムを構築することをイメージしながら、以下の手順で、各々においてどの様なことをするのかを解説して行きます。
- ① 無線方式の選択
- ② 無線デバイスの選択/仕様確認/動作確認
- ③ ネットワークトポロジーの検討
- ④ ハードウェアの検討
- ⑤ ソフトウェアの検討
- ⑥ 評価の検討
前回の「①無線方式の選択」では、実現したいことを5W1Hで考えを整理して、「ビルの空調に通信ネットワークを導入する」ために利用する無線方式を「Sub-GHz無線」に決めました。続いては第二ステップとして、「②無線デバイスの選択/仕様確認/動作確認」に入ります。
この工程では、無線方式に対応するデバイスを選択し、そのデバイスの仕様を確認および検討して、実際に動かして動作確認を行う3つの作業が含まれています。今回は、1つ目の「無線方式のデバイスを選択」について説明します。
②-1 無線デバイスの選択
この設計に使う無線方式に決定したSub-GHz無線は、「Sub-GHz無線とは」でも説明したように1GHz以下の周波数帯を使う無線の総称です。その中でも特定小電力無線の920MHz帯は、通信距離やデータ伝送速度の面から、M2M/IoT、ワイヤレスセンサネットワークに使い勝手のよい特徴を持っており、Wi-SUNにも利用されている周波数帯です。
Sub-GHz無線デバイスの選択肢としては、基本的にLSIとモジュールの2つになります。これは、Sub-GHz無線に限らず、Bluetooth®やWi-Fiなどでも同じ状況だと思います。ロームのラインアップを例にとると、ロームグループのラピスセミコンダクタのWi-SUN対応Sub-GHz 920MHz帯LSIと、そのLSIをコアとしたロームのSub-GHzモジュールがあります。
とりあえず、選択するにあたって、LSIとモジュールがどんなものかを見てもらおうと思います。個別の概要や特徴を説明したいのではなく、LSIとモジュール、それぞれのイメージとデバイスの主旨の違いを理解してもらうのが目的です。また、以下に示したLSIもモジュールも、ラインアップの中からの一例です。
Wi-SUN対応920MHz帯 無線通信LSI | Wi-SUN対応920MHz Sub-GHz無線モジュール |
---|---|
ML7396B
|
BP35A1
|
各製品の特徴の抜粋と、製品外観、評価キットを並べてみました。おそらく、本当に初めて無線に取り組む方は、LSIの特徴に関する箇条書きの意味がよくわからないかと思います。それより、モジュールのほうの「不要」や「済み」という言葉が目に留まったのではないでしょうか。評価キットは、いずれもPCに接続してサポートソフトウェアで動作確認が可能ですが、印象はいかがでしょうか。
また、以下にLSIを使って設計する場合と、モジュールを利用する場合のアプローチの違いや利点をまとめてみました。
LSIから設計する場合 | モジュールを利用する場合 | |
---|---|---|
高周波設計 | アンテナ、基板設計などすべて必要 | 完成品にて不要 |
評価、試験 | 性能や認証適合などの確認が必要 | 完成品にて不要 |
電波法認証 | 申請が必要 | 取得済み |
ネットワークソフトウェア | 有無はLSIによる | 内蔵 |
自由度/他との差別化 | 性能、サイズなど差別化可能 | モジュールに依存 |
製品化までの時間 | 比較的長い | 短い |
単価 | モジュールより安価 | LSIより高価 |
一見して、LSIから設計するほうが不利なように見えますが、自由度や性能の差別化、低価格を追求する場合や、量産数が多い場合は、一般にはLSIのほうが優位になります。ただし、これには高周波設計に対する十分なリソースや認証なども含めた経験が必要です。
逆に高周波設計ができる場合でも、製品化までの時間が短い場合や生産数量が少ない場合は、単価が高くてもモジュールを選択したほうが、工数を含めたトータルコストがLSIから設計するより安くなる場合があります。
とりあえず、ここでは「初めて」という前提がありますので、まずはモジュールを利用するほうが多くの面で確実だと考えて問題ないと思います。ここでは、無線デバイスとして「モジュール」を選択します。
ちなみに、無線設計にかかわらずこのような比較検討をしっかりすることは非常重要です。確かに無線設計は一朝一夕でできるものではありませんが、将来、無線をどのように製品やシステムに取り入れていくかによって、いずれはある壁を乗り越えなければならないのは、どの設計でも同じかと思います。
次回は、「無線デバイスの仕様確認」について説明します。
【資料ダウンロード】Sub-GHz無線開発基礎
Sub-GHz無線はM2MやIoT、ワイヤレスセンサネットワークなどの新市場をはじめ、幅広い分野での活用が検討されています。このハンドブックは、Sub-GHz無線の活用から機器開発の基礎までを解説しています。
Sub-GHz無線
-
基礎編
- Sub-GHz無線の概要
-
Sub-GHz無線開発の基礎知識
- 無線特性の用語:搬送波周波数と周波数精度
- 無線特性の用語:送信パワーと隣接チャネル漏洩電力
- 無線特性の用語:占有帯域幅
- 無線特性の用語:スプリアス
- 無線特性の用語:受信感度と選択度
- 無線特性の用語:ブロッキングとスプリアス応答
- 無線特性の用語 : まとめ
- 無線設計ガイダンス:設計の手順
- 無線設計ガイダンス:無線方式の選択
- 無線設計ガイダンス:無線デバイスの選択
- 無線設計ガイダンス:ネットワークトポロジーの検討
- 無線設計ガイダンス:無線デバイスの仕様および動作確認
- 無線設計ガイダンス:ハードウェアの検討
- 無線設計ガイダンス:ソフトウェアの検討
- 無線設計ガイダンス:評価の検討
- 無線設計ガイダンス : まとめ
- 無線設計のポイント:回路設計
- 無線設計のポイント:基板(PCB)設計
- 無線設計のポイント:調整、測定時
- 無線設計のポイント:調整、測定時-VCOの調整
- 無線設計のポイント:調整、測定時-マッチング調整
- 無線設計のポイント:調整、測定時-スプリアス調整、その他の調整
- 通信フォーマット:通信レイヤとは
- 通信フォーマット:物理層(PHY層)のフレームとは
- 通信フォーマット:データリンク層(MAC層)のフレームとは
- 通信フォーマット:ネットワーク層とアドホックネットワーク
- 干渉回避の手法:キャリアセンス
- 無線システム検討へのヒント
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Sub-GHz無線の概要 ーまとめー
- 製品紹介