無線通信|基礎編

電波の伝わり方:減衰

2016.08.30

この記事のポイント

・電波は、距離dの2乗に比例して減衰する ⇒ 距離が2倍になると電波の電力密度は1/4になる。

・電波は、波長λの2乗に反比例して減衰する ⇒ 同じ送信出力では、波長が長いほど減衰は小さく伝搬距離は長くなる。

・電波は、周波数の2乗に比例して減衰する ⇒ 同じ送信出力では、周波数が低いほど減衰は小さく伝搬距離は長くなる。

前回、電波とはどういうものかという話をしました。今回から、2回に分けて電波の伝わり方について説明します。最初は電波の減衰に関する話をします。

電波の電力密度

電波は、自由空間(物質のない理想の空間)ではエネルギーが衰えることはありませんので無限遠、つまり、どこまでも伝わって行きます。しかしながら、電波は放射点から拡散しながら伝わるので、放射点からの距離が異なれば単位面積当たりの電波のエネルギー(電力)密度が異なります。電波の電力密度は、電波の強弱を表します。

これを図と式をつかって説明します。球の中心にある赤い点を、等方性アンテナ(アイソトロピックアンテナ)とします。等方性アンテナは理論上のアンテナで、電波を全ての方向に一様に放射することができる点状のアンテナのことです。電力Pをもつ電波は等方性アンテナから四方八方へ飛びますが、電力Pは距離dを半径とする球の表面積Sに広がります。単位面積当たりの電力=電力密度をPDとすると、図の右側に示した式で表すことができます。球の表面積Sは、4πd2に置き換えてあります。

電力密度PDは、電力Pを、通信距離dを半径とした球の表面積4πd2で割った値になります。つまり、電波は「距離の2乗に比例して減衰する」ということになります。例えば、距離が2倍になると面積は4倍になるので、電波の電力密度は1/4になります。

RD_3_kyuu

電波の波長/周波数と減衰

電波は、自由空間では先ほど示した「距離の2乗に比例して減衰する」という特性に加えて、「波長の2乗に反比例する」といった特性をもっています。こちらも式をもって説明します。

送信アンテナから放射される電力から、受信アンテナの受信電力を求めるのに、フリスの伝達公式を使うことができます。フリスの伝達公式は、距離と電波強度の関係を示す際によく使われます。ここでは詳細の説明はしませんが、以降の立式もフリスの伝達公式を使うので、念のため概略を示しておきます。

RD_3_furisu

受信電力PRと送信電力PTの比を、自由空間伝搬損失Lとして、デジベルで表すと以下の式になります。f [Hz]は周波数、d [m]は距離、λ [m]は波長、GT、GRは送信および受信アンテナの絶対利得です。

RD_3_fom1.gif

等方性アンテナ(絶対利得=1)を使用した、自由空間基本伝搬損失LBは以下の式になります。絶対利得=1から、GT、GRの項は10のゼロ乗=1となりゼロになります。

この式から、ある波長の電波が、どれくらいの距離で、どのくらい減衰するかがわかります。最初の式は、減衰は距離dの2乗に比例し、波長λの2乗に反比例することを示しています。損失計算なので、求めたデシベル値の符号はマイナスです。

RD_3_fom2

最初の式を展開して行くと赤枠で囲った式になります。途中、10log10が20log10になっているのは、(4πd/λ)2の2乗を前に出したからです。この式では、距離dと波長λが同じ、つまり1波長離れた場合の減衰は22dBだということも読み取れます。

この式の波長λを周波数にして解くと以下のようになります。

RD_3_fom2-1.gif

波長λはC/fで表すことができ、Cは電波の速度3×108です。これを代入して整理したこの式からは、減衰は周波数の2乗に比例することがわかります。

言い換えると、電波は放射点から離れるほど減衰し、波長が長い=周波数が低い方が減衰が小さい、と言えます。例えば、900MHz帯のSub-GHz無線と、2.4GHz帯の無線LANを比べると、同じ送信電力だと900MHz帯のほうが伝搬距離は長くなります。

下のグラフは、950MHz帯と2.4GHz帯の実際の伝搬距離を比較した例です。1mWの送信出力が80dBmに減衰した距離を比較すると、2.4GHzの20m弱に対して、950MHzは約150mと、上述の通り周波数の低い方が伝搬距離が長いことを示しています。

RD_3_hikaku

ここまでのポイントをまとめると、

電波の減衰は:

  • 距離dの2乗に比例 ⇒ 距離が2倍になると電波の電力密度は1/4になる
  • 波長λの2乗に反比例 ⇒ 同じ送信出力では、波長が長いほど減衰は小さく伝搬距離は長くなる
  • 周波数の2乗に比例 ⇒ 同じ送信出力では、周波数が低いほど減衰は小さく伝搬距離は長くなる

さて、ここまでの話は冒頭に記したように、「自由空間」における話です。「自由空間」と断りを入れてあるのは、地球上の空間ではその通りにならないことを暗示しています。実際の地球上の空間では、様々な伝搬損失要因や反射などがあり、ここで示した計算通りにはなりません。ただし、原則的には同じように考えることができるので、概算や傾向を把握するのに用いられており、無線通信の基本になります。

最後に、説明の中に「デシベル値」が何度も出てきました。電気/電子の分野では必ず出てくる単位ですが、特に無線の世界では日常的会話の如くよく使われます。慣れてしまえば利点のある単位だと思うのですが、感覚が掴めていないと面倒な単位かもしれません。デシベル値は、この「無線通信基礎知識」を始め、他の無線関連の基礎知識にもよくでてきますので、以下にビギナー向けに掴みどころをまとめてみました。

デシベル:dB とは

  • 桁数を抑えて感覚的にわかりやすい数値にするために考えられた表示方法。
  • 絶対値や量を表す単位ではなく、パーセントのように比率や倍率を表す相対的な単位。
  • ある基準値を決める事で、絶対値や量も表示できる。例:1mW=0dBm

計算式

電力 dB=10log10(P2/P1)(P1:基準となる電力、P2:比較対象の電力)

dBから電力(倍)への換算: P2/P1=10(dB/10)

※ 電圧のdBを求めるときは:(V1:基準となる電圧、V2:比較対象の電圧)

10log10(P2/P1)=10log10(V22/R)/(V12/R)
         =10log10(V22/V12)-10log10R+10log10R
         =20log10(V2/V1)

数値のイメージ(電力の例)

  • 対数なので20dBは10dBの2倍ではない
    (20dBは10dBの10倍)
  • 「+dB」の場合:10の位が1上がることに、10倍になる。
  • 「-dB」の場合:10の位が1上がることに、1/10になる。
graf_20160823
※ 数値は適当なところで丸めてある

無線でよく使うデシベル

・dBm(ディービーエム):1mWを基準とする(1mW=0dBm)

RD_3_db

  • 電力の2倍は3dBのアップ(+3dB)、1/2は3dBのダウン(-3dB)
  • 電圧の2倍は6dBのアップ(+6dB)、1/2は6dBのダウン(-6dB)

右上の表は、よく出てくるdBと倍率(+dB / -dB)を並べてあります。よく出るものは覚えておくと便利です。表を眺めていると、最初に記した「桁数を抑えて感覚的にわかりやすい数値」と言う意味がわかると思います。例えば、表のセルには書ききれないので「10-6」と記しましたが、これを倍率で書くと「0.000001」です(電力の例)。しかし、これをdBで表すと「-60dB」という表記で済みます。

また、dBと真数(倍率)の関連性を見いだせると理解が早いと思います。例えば、表の10dBと3dBの倍率を覚えておけば、

13dB=10dB+3dB=10倍×2倍=20倍
14dB=10dB+10dB-3dB-3dB=10倍×10倍÷2倍÷2倍=25倍

など、ほとんどの数値変換が可能です。

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