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環境負荷低減に向けた電源技術動向産廃削減につながる技術 : ワイヤレス給電

2018.05.15

-「産廃削減」につながる電源技術とはどんな技術でしょうか?

ワイヤレス給電技術です。タブレットやスマートフォンなどのモバイル機器のデータ伝送は、無線が当たり前になっています。しかしながら、電力伝送はUSB充電に代表されるように、AC-DCアダプタをベースにした充電器などから有線で行っているのがほとんどです。ワイヤレス給電技術は、モバイル機器の充電において電源コードを不要にし、機器のコネクタの安全性と防水性や防塵性の向上を見込めることが注目されていますが、1つの給電装置を様々な機器に使用できることから、機器ごとに充電器を用意する必要がなくなり、充電器を削減できる点で環境に対するメリットもあると言えます。

-Appleが対応を発表したと思います。また、ワイヤレス充電用のオプション機器も増えている感じはあります。

現在、ワイヤレス給電の普及を目指した業界団体により国際規格が策定されています。欧米を中心にスマートフォンへの採用、ホテルや空港ラウンジ、ファーストフード店、自動車などのインフラへの導入が進んでいます。

-1つの給電装置を共有するという点では規格化ということになるのだと思いますが、どんな規格があるのですか?

現状の主要な規格は2つの団体のもので3つの規格があります。登場が早かったのは「Qi」という国際標準規格で、WPC、Wireless Power Consortiumという団体が策定し推進している規格です。Qiは「チー」と発音します。他の2つ規格は、AirFuel Allianceという団体のものです。実は、AirFuelはPMA、Power Matters AllianceとA4WP、Alliance for Wireless Powerが統合した団体です。現在、旧PMA規格の電磁誘導方式AirFuel Inductiveと、旧Rezence規格の磁界共鳴方式AirFuel Resonantの異なる2つの規格を推進しています。また、現状では旧規格名が使われている場合も多く、少しややこしい状況です。

ちなみに、先ほど言われたAppleの話は確定していない情報も多いのですが、例えばiPhone8はQiに対応しています。このニュースが話題になったように、関連のデバイスや機器メーカー、サービス各社がどの規格に対応するかは流動的な状況で、規格の方も電力増強に向けたものが策定中だったりします。ロームに関して言えば、ロームはWPCの正会員になっています。WPCのQi規格の策定段階から協議に参加しており、市場の要望を取り入れた製品開発を先行して行っています。

-ロームにはどのような製品があるのですか?

現在、ワイヤレス給電制御ICは受信・端末側のBD57011AGWLBD57015GWLと、送信・充電側のBD57020MWVBD57021MWVがあります。いずれも、WPC Qi Ver.1.2に準拠しています。

また、これらのICを利用したリファレンスボードも販売しています。送電側のBD57020MWV-EVK-001と受電側のBD57015GWL-EVK-001で、2016年3月の時点で業界初のWPC Qi規格ミディアムパワーのQi認証取得済みリファレンスボードです。

-それでは、ワイヤレス給電制御ICの方から詳細を教えてください。

最初に、現状のラインアップと対応規格を示した表をご覧ください。これからの説明がわかりやすくなると思います。

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対応規格のバージョンは最新のものです。BPPはBaseline Power Profileの略で、ローパワー規格とも呼ばれており5W以下の規格です。EPPはExtended Power Profileの略で、ミディアムパワー、15W以下の規格になります。BD57015GWLとBD57020MWVは、ローパワーとミディアムパワー両方の規格をカバーしています。

-そうすると、5W以下対応と、15W以下対応の受電、送電のラインアップが揃っているということですね。

そうです。今回はその中から、WPC Qi規格ミディアムパワー(EPP)に準拠したチップセットBD57015GWLとBD57020MWVについて話をさせてください。

このチップセットは、5Wのローパワー規格に対して3倍アップの15Wミディアムパワー規格に対応したことで、有線と同等の電力で充電が可能になります。スマートフォンはもちろんですが、タブレットなど10Wクラスのアプリケーションでワイヤレス給電を可能にします。この図は、BD57015GWLとBD57020MWVにシステム構成イメージです。電力は、電磁誘導により送信側から受信側に送られます。基本的にトランスの原理と同じです。

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-受信側のBD57015GWLなんですが、ブロック図のパケット生成回路のところにQiだけでなくPMA規格の記載があります。先ほどの表でもそうなっていますが?

BD57015GWLはPMA規格、現在のAirFuel Inductive規格にも対応しており、WPC Qiミディアムパワーと5WのPMAの自動切り替えを行うデュアルモードを搭載しています。これによって、どちらの規格の充電器からも充電できる端末を実現できます。

-送信側の構成には、BD57020MWVの他にマイコンと駆動回路が必要ということですか。

そうなります。マイコンはコントローラとして必要になります。このマイコンはロームグループのラピスセミコンダクタのML610Q772で、Qi規格に準拠した動作を実現するためのファームウェアをインストールした状態で提供しています。駆動回路と記載のある部分は、MOSFETで構成されたハーフブリッジもしくはフルブリッジのパワー段でコイルを駆動するための回路です。MOSFETのゲートドライブはBD57020MWVが行います。

-他に何か特長はありますか?

FOD、Foreign Object Detectionという異物検出機能が標準搭載されています。送信器と受信器の間に、例えばクリップなどの金属の物体があると、金属が発熱し筐体の変形や火傷の原因になる可能性があります。安全性向上のために、Qi規格にはFODの搭載が義務付けられています。他にも、過電圧保護、過電流保護、過熱保護、低電圧誤動作防止といった保護回路を内蔵しています。

-わかりました。それでは、リファレンスボードについてお聞かせください。

リファレンスボードは送電側のBD57020MWV-EVK-001と、受電側のBD57015GWL-EVK-001の2種類で、名称から想像がつくと思いますが、BD57020MWVとBD57015GWLによる構成です。WPC Qi規格ミディアムパワーのQi認証を取得しているので、他のQi認証取得済み製品と互換性があります。これらのボードを使って、様々な実験や検証が可能です。

リファレンスボードに関する詳細や、リファレンスデザインウェブサイトから提供していますので、ぜひ利用してください。また、リファレンスボードは、インターネットから購入できます。

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-まとめをお願いします。

ワイヤレス給電は、電源コードが不要になりコネクタに関する問題を排除できるといったメリットに加えて、1つの給電装置を様々な機器に使用できることから、充電器を削減できる点で環境負荷を減らすことに貢献できると考えられます。また、規格の拡張によって供給電力が大きくなり、5Wクラスのスマートフォンレベルから10Wクラスのタブレットなどへの対応が進んでいます。この拡張により、幅広い機器への給電が可能になり、さらなる環境負荷の削減につながると考えられます。

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この図は、WPC Qi規格の拡張とロームの開発ロードマップを示しています。ロームは、積極的に規格団体へ加入するなどして、先んじて市場の動きを捉えることによりお客様の要望への対応はもちろん、省エネ、環境といった世界共通の課題解決に向けた製品開発をしています。

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