エンジニアに直接聞く
48Vから3.3Vに直接降圧可能なDC-DCコンバータIC:48Vから3.3Vに直接降圧はできない?
2017.04.12
ロームは、自動車や産業機器などで需要が高まっている48Vなどの高い入力電圧から、3.3Vといった低電圧に直接降圧することができるDC-DCコンバータIC「BD9V100MUF-C」を発表した。既存の高耐圧DC-DCコンバータICは、48Vを超える高電圧を入力することは可能だが、そのほとんどが降圧比の制限により3.3Vおろか5Vへの降圧もままならない。BD9V100MUF-Cは、降圧比を制限するパワースイッチの最小オン時間を業界最小の9nsまで短くしたことで、この課題をクリアした。BD9V100MUF-Cは、2016年4月のTECHNO-FRONTIER 2016に続き、先般開催されたCEATEC JAPAN 2016にも出展され、多くの関心が寄せられたことから、その開発背景と特徴を、ローム株式会社のアプリケーションエンジニアである柴戸 孝信(しばこ たかのぶ)氏に聞いた。
-「48Vから3.3Vに直接降圧可能なDC-DCコンバータIC」がキャッチフレーズになっている「BD9V100MUF-C」ですが、先般のCEATECの展示に多くの人が見入っていました。
ありがとうございます。今年の4月にプレス発表してから、多くの問い合わせをいただいています。
-まず、「48Vから」という電圧値が気になるのですが、どのような背景があって、この電圧値を前面にだしているのでしょうか?
48V専用のような誤認識があるといけないので、最初に申し上げておきます。BD9V100MUF-Cの入力電圧は、最大定格が+70Vで、推奨動作電圧は+60Vです。そして、最小オン時間が業界最小の9nsであることがキーポイントです。仕様面だけからキャッチを作るなら「60V入力の」といった感じになるのでしょうが、BD9V100MUF-Cの開発背景の一つとして、自動車分野で48V電源システムのハイブリッド車に注目が集まっていることがありました。
-個人的には、テレコム48Vを連想したのですが、車載だったのですね。
もちろん、テレコム48Vにも対応でき、ターゲットアプリケーションの中に入っていますが、車載アプリケーションはロームの得意分野の一つであり、自動車の省エネには特に高い関心をもっています。
-わかりました。話が散漫になるといけないので、高耐圧のDC-DCコンバータであることを踏まえた上で、自動車の48Vハイブリッドシステムとの関連を伺います。
48Vハイブリッドシステムが注目されているのは、従来の12Vシステムに比べて燃費改善効果が高いといわれているからです。このシステムでは、48Vが車載機器へのおおもとの供給電源になります。ご存じの通り、車載機器の電子回路の電源は、5Vや3.3Vなどの低電圧なので、従来の12Vシステムでは、公称12Vから5Vや3.3Vに降圧しています。DC-DCコンバータとしては、車載対応の耐圧40V前後の降圧DC-DCコンバータが使われていることが多いかと思います。これに対して48Vシステムでは、48Vから5Vや3.3Vに降圧することになります。
-そうなると、今まで使えていた耐圧が40V前後のDC-DCコンバータが使えなくなるわけですね。でも、あまり種類は多くないですが、耐圧が60V以上の降圧コンバータがあります。ロームも少し前に80V耐圧の降圧コンバータをリリースしたはずです。
BD9G341AEFJのことですね。確かに、入力の耐圧だけの話なら、48V入力が可能な降圧コンバータICはあります。ところが、48Vから、特に3.3Vに降圧できるかというと、それらのICが対応できる降圧比の関係で、基本的に既存のDC-DCコンバータICでは、2MHzの発振周波数で48Vから直接3.3Vに降圧できません。
-「対応できる降圧比」という意味がよくわからないのですが。
降圧DC-DCコンバータは、スイッチングの1周期の間に、スイッチがオンしている時間だけ入力を出力に転送することで降圧を行います。簡略的な話をすれば、10V入力を50%のデューティサイクル、つまりオン時間が50%、オフ時間が50%でスイッチングすると、出力は半分の5Vになります。これはわかりますか?
-大丈夫です。
では、10Vを3.3Vにするには、オン時間が33%のデューティサイクルでスイッチングすればよいのもわかりますね。この入力電圧に対する出力電圧の比を降圧比と呼んでおり、降圧分の電圧が大きくなるほど「降圧比が高い」と表現します。逆にいうと出力電圧が小さいほど降圧比が高いことになります。今している話の48Vから3.3Vへの降圧は、デューティサイクルでいうと3.3V÷48V≒6.9%ですので、約93%の降圧になり、一般にはかなり高い降圧比といえます。
-なるほど。それでは、既存の降圧コンバータICは、その降圧比、つまりそのデューティサイクルで動作できないということですか?
結論からいうとその通りです。一般に、入力に対して降圧できる最小電圧は、式で表すことができます。
降圧可能最小出力電圧=入力電圧×最小デューティサイクル
この中の、「最小オン時間」というのは、降圧コンバータICが制御できる一番短いオン時間です。パワースイッチはトランジスタなので、オン/オフ動作には時間が必要です。また、スイッチングデューティサイクルを決める内部の帰還および制御回路にも、遅延やノイズなどによる制御の限界があります。これらの要因により、実際の最小オン時間、つまり最小オン時間の実力が決まります。別の言い方をすれば、降圧コンバータICの最小オン時間はICの性能の一つなので、必ずではないですがデータシートに提示されています。
式に、例として数字を入れてみましょう。スイッチング周波数を600kHz、最小オン時間を200nsとすると、
降圧可能最小出力電圧=48V×0.12=5.76V
この性能のコンバータだと、48V入力だと5.8V弱が降圧の限界になります。ちなみに12V入力だと1.44Vになるので、この仕様でもほとんどの出力電圧要件に対応できることになります。
-BD9V100MUF-Cのもう一つのキーワードである「最小オン時間9ns」は、最小デューティサイクルを小さくできので、高い降圧に対応できる、ということをアピールしているのですね。
では、先程の式に9nsを当てはめてみましょう。
降圧可能最小出力電圧=48V×0.0054=0.2592V
計算ではこうなりますが、実際はコンバータICの内部基準電圧、例えば0.8Vを下回る出力電圧は作れませんが、コンバータICの最小出力電圧まで降圧可能になります。
-式を見ていて今気づいたのですが、例えばスイッチング周波数を300kHzに下げると、この条件でも3.3Vが可能になりませんか?
降圧可能最小出力電圧=48V×0.06=2.88V
そうです。その通りで、周波数を下げるのは降圧比が高い場合の対処法の一つです。
-それでは、ダメなんですか?
「車載」という環境条件下が重要なポイントになります。自動車はラジオを搭載し、AM帯は1.84MHzまでの周波数を使用します。スイッチング電源の発振周波数がそれ以下だとAM帯に干渉してしまうので、2MHz以上のスイッチング周波数が要求されています。最初にお話したように、BD9V100MUF-Cは車載分野を大きなターゲットにしているので、達成したかったことは「スイッチング周波数が2MHz以上で、48Vから3.3Vに直接降圧」できることなんです。
実際に計算してみるとこうなります。
降圧可能最小出力電圧=48V×0.018=0.864V
さらにいうと、48Vは公称電圧なので当然マージンが必要です。48Vハイブリッド市場では、最大入力電圧として60Vが要求されているので、式に当てはめるとこうなります。
また、3.3V出力なら、入力は何ボルトまで入れられるかというと、逆算から、3.3V÷0.018=183Vになります。ただし、BD9V100MUF-Cの入力定格は70Vで、推奨動作電圧が最大60Vですから、実際は60Vということになります。
-実際のところ、既存のコンバータICの最小オン時間はどのくらいなのですか?
データがあるので、ご覧ください。最小オン時間以外は近似の降圧型DC-DCコンバータICの比較です。
ローム/BD9V100MUF-C | A社 | B社 | C社 | |
---|---|---|---|---|
最小オン時間 | 9ns | 30ns | 80ns | 80ns |
最小デューティサイクル @fsw=2MHz | 0.018(1.8%) | 0.06(6%) | 0.16(16%) | 0.16(16%) |
降圧可能最小出力電圧 @Vin=60V | 1.08V | 3.6V | 9.6V | 9.6V |
最大入力電圧 @Vout=3.3V 市場要求:60V |
60V (最大動作電圧) |
55V | 20.6V | 20.6V |
この調査の結果では、他社の最小オン時間が一番小さいものは30nsで、計算ではわずかに市場要求に届きませんでした。ぎりぎりで使えるという判断もあるかもしれませんが、安全マージンを考えるとリスクは高くなります。それに対してBD9V100MUF-Cは、十分余裕をもって要求を満足する性能をもっています。
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