エンジニアに直接聞く
スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : インダクタ編インダクタおよび 全体のまとめ
2016.10.11
-さて、「スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは」というテーマで、最初はコンデンサについて、続いてインダクタに関していろいろと話を伺いました。これで最後になりますので、インダクタ編と全体のまとめをさせていただければと思います。
コンデンサ編
- その1:積層セラミックコンデンサは大容量化が進む
- その2:電気的仕様だけではなく、材料やケースを含めた特性も知る
- その3:入力コンデンサの選択ではリップル電流、ESR、ESLに着目
- その4:出力リップルの評価では出力コンデンサのESLに注意
- その5:出力コンデンサのESRは負荷減少時の出力変動に影響大
- その6:実装に関する課題 -クラック-
- その7:実装に関する課題 -音鳴き-
- その8:コンデンサ まとめ
インダクタ編
- その1:インダクタの仕様と等価回路を読み取る
- その2:各種パワーインダクタの特徴
- その3:電源回路における検討事項
- その4:電源の変遷とメタルインダクタ
-最初にインダクタのまとめをしたいと思います。インダクタに関しては、4つのことについて説明いただきました。順にキーポイントを再確認させてください。
「その1:インダクタの仕様と等価回路を読み取る」では、インダクタの仕様と規格値の理解を目的に、表記されていない「含み」についても説明しました。例えば、直流重畳許容電流といったパラメータの意味を理解いただくのは基本ですが、仕様項目の名称が同じでも、規定条件が製品やメーカーによって同じとは限らないので、インダクタ選択時の比較検討には注意が必要です。
もう一つ重要なこととして、仕様の理解の他に、インダクタの基本特性を理解するために、等価回路とインダクタの寄生成分について知っておくことをあげました。これらは、仕様項目とも密接に関係しています。
-「その2:各種パワーインダクタの特徴」では、スイッチング電源に使われるインダクタの種類と特徴を伺いました。
近年、主にスイッチング電源回路に使われるのは、
確認事項としてあげたいのは、スリーブレスタイプはその構造から機械的強度に関する課題をもっていることです。当社では従来の樹脂をより硬度が高い樹脂に変更することで、強度を上げる対策を行っていますが、現状ではメーカーによって対策はまちまちですので、応力や温度に対するストレス試験データを入手するなどして確認することが大事です。
-「その3:電源回路における検討事項」では、インダクタの特性がスイッチング電源回路にどのような影響を与えるかを説明いただきました。
ここでは、重要検討項目である
- 直流重畳許容電流の最大値を超えると、インダクタが飽和してインダクタのピーク電流が異常に大きくなり、効率の低下や異常動作が発生し、最悪、電源ICが破壊することがある。
- 温度上昇許容電流より大きな電流を流すと発熱が大きくなり、インダクタだけではなく周辺部品の信頼性も低下させる可能性があり、発熱が許容できないレベルになれば焼損する可能性もある。
- インダクタの損失電力は、DC損失電力+AC損失電力となり、負荷が軽い場合はAC損失が支配的で、負荷が重いときは逆にDC損失が支配的になる。
- スマートフォンのように待機状態が長い機器はAC損失が支配的な状態にあり、Racが大きい場合バッテリの消耗が速くなる可能性があるので注意。
- Racは規格値表に載っていないことがほとんどなので、Racの情報が必要な場合はメーカーに問い合わせてみる。
この5つになります。
-最後は、メタルインダクタが昨今注目されているという話でした。
「その4:電源の変遷とメタルインダクタ」では、近年の一つの傾向であるICの電源電圧の「低電圧大電流化」に対して、
- 大電流を供給するためにはインダクタンスは小さい必要がある。
- そのためにスイッチング電源のスイッチングを高速化。
- インダクタンスが小さければインダクタのサイズも小さくなる。
- メタルインダクタは直流重畳許容電流が高く飽和も非常に穏やかで、直流重畳許容電流を同じとするならフェライトよりサイズを小さくできる。
- メタルインダクタのメタル材は透磁率が低くインダクタンスはあまり大きくできないが、実用4.7?F程度を実現。
という背景と、この市場を見据えた性能向上を行ったことによるものです。
メタルインダクタを使用するにあたって、確認すべき点があります。非常に小型で飽和特性にも優れるメタルインダクタですが、高温下では絶縁が劣化するという課題です。一般のメタルインダクタはメタルコンポジットタイプと呼ばれ、有機物樹脂により鉄粉間の絶縁を形成しています。この樹脂が高温によって劣化し絶縁劣化が生じ、Qが大幅に低下して電源としての効率が大幅に低下し、さらに発熱が増えるという悪循環に陥る可能性があることです。
弊社の場合は、金属の粉体が各々に絶縁酸化膜をもつ独自材料の開発により、この絶縁の課題をクリアして、同時にメタルコンポジットより高い透磁率=高いインダクタンスを達成したMCOIL™というラインアップを提供しています。
最後に、メタルインダクタとフェライトインダクタの使い分けですが、インダクタンスが5?F程度までであれば、メタルインダクタの優れた特性を利用しつつサイズ面でも有利です。それ以上のインダクタンスでは、フェライトが選択肢になります。そういった意味では、MCOILは現在4.7?Fまでのラインアップになっています。
-コンデンサと同様に、資料やホームページからでは得られない情報や、押さえ所がたくさんあって大変ためになりましたし、個人的にはコンデンサとインダクタに奥深さを感じました。コンデンサも含めた全体として、まとめをお願いしたいのですが。
そう言っていただけると、こちらもうれしいです。全体を通して、エンジニアとして申し上げたいのは、データシートの仕様や規格値はしっかり把握する必要があるのはもちろんですが、その元になっている電圧/電流や温度に対する基本特性と、等価回路を使って説明した寄生成分をしっかり理解して、そして目でも確かめていただければ、設計時のデバッグやトラブルに対処できると思います。太陽誘電としては、様々な技術サポートを行っていますので、お困りの際は相談いただけるとありがたいです。
-それでは、長い時間、ありがとうございました。
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