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スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは

電源回路における検討事項

インダクタ編 -その3-

注目ワード
  • 直流重畳許容電流
  • 温度上昇許容電流
  • 飽和許容電流

-ここまで、インダクタの仕様と特性や特徴についてお話しいただきました。ここからは、それらの特性が電源回路にどのように影響するのかを教えてください。

わかりました。それでは最初に、重要特性として説明した直流重畳許容電流と温度上昇許容電流が、降圧コンバータの出力電流とどう関係するか説明します。まずは、この図を見てください。

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直流重畳許容電流飽和許容電流とも呼ばれます。波形図では青色の線で示されているインダクタのピーク電流が該当します。ピーク電流が直流重畳許容電流の最大値を超えると、インダクタが磁気飽和を起こし、インダクタンスが減少することは今まで何度か説明してきました。インダクタが飽和すると、インダクタのピーク電流が異常に大きくなり効率の低下や異常動作が起こり、最悪は電源ICが破壊することもあります。

温度上昇許容電流は、インダクタに流れる電流と抵抗成分による発熱の許容値と言い換えることができます。波形図では、赤で示した出力のDC電流と、ピンクで示した三角波の実効電流の合計が温度上昇許容電流に該当します。そして、これにインダクタの抵抗分を掛けたものが損失電力となり熱になります。ちなみに、三角波の実効電流はピーク電流の1/√3で、この分はAC損失になります。温度上昇許容電流より大きな電流を流すと発熱が大きくなり、インダクタだけではなく周辺部品の信頼性も低下させる可能性があります。また、発熱が許容できないレベルになれば、ワイヤーの絶縁不良を起こして焼損する可能性もあります。

-ピーク電流が直流重畳許容電流値を超えた場合の現象を、もう少し具体的に説明いただけますか?

実際の波形データがあるので、こちらを見てください。

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3種類の特性の異なるインダクタを使った降圧コンバータのデータです。左上は出力電流に対する効率を示しており、負荷が500mAではあまり差はありませんが、1500mAでは青色のインダクタの効率が他より低下しているのがわかると思います。

左下の波形は、出力電流に対するインダクタンスの変化を示しており、青のインダクタのインダクタンスは、負荷が1000mAを超えると急激に減少しています。つまり、このインダクタは飽和状態に入っています。

右側はインダクタ電流の波形です。右上が負荷500mA時、特に効率に違いがない状態の波形で、波形に特に違いはなく正常です。

右下の波形は、負荷が1500mA時のもので、飽和した青のインダクタの波形が大きく乱れており、ピーク電流も増加しています。これは、飽和によりインダクタンスが低下したことでピーク電流が増加し、それによってさらにインダクタンスが下がり、さらに電流が流れるといった暴走状態を示しています。

-ということは、負荷電流の増加によって予測より効率が下がるような症状があるなら、インダクタ電流の波形をチェックするのも一手だということですね。

基本的にDC/DCコンバータの評価段階では必須のチェック項目だと思うので、このような波形の異常が観察されたり、ピーク電流が計算値を大幅に超えていたりする場合は、インダクタの飽和を疑ってみることです。ちなみに、前に説明したドラムスリーブタイプのインダクタは急激に飽和するので暴走が起きやすい性質をもっており、樹脂タイプは飽和が緩やかなので多少ですが暴走が起きにくいと言えます。

-わかりました。次に、温度上昇許容電流に関連してなんですが、特にインダクタの損失について詳しく教えていただけますか?

先ほど、検討すべきは出力電流のDC電流とインダクタのAC電流の実効電流、そしてインダクタの抵抗分であると説明しました。基本的にはその通りで、AC電流によるAC損失とDC電流によるDC損失の両方を考えていくのですが、インダクタのDC抵抗RdcとAC抵抗Racは同じではなく、Racは周波数によって変動することを加味して考える必要があります。

このグラフは、あるインダクタの抵抗およびインピーダンスと周波数の関係を示しています。緑のラインが抵抗です。Rdcは周波数がゼロのときの値になります。それに対してRacは周波数が高くなるにつれて増加し、一般にスイッチングレギュレータのスイッチング周波数帯である数百kHzから数メガHzのRacは、Rdcの数倍から数十倍になります。

-つまり、AC損失は電流が小さくても大きな損失になるということですね。それにスイッチング周波数が高いとなおさらですね。

その通りです。そして、負荷電流の大小で損失の主体は大きく変わります。これも図を見てもらった方が、理解が早いと思います。

インダクタの損失電力は、上記の式が示す通りDC損失電力+AC損失電力になります。まず、負荷が軽い状態を考えてみると、出力電流は小さいのでDC損失は少なく、AC成分がほとんどになることからAC損失が支配的になります。負荷が重い状態、つまり出力電流が大きい状態では逆にDC電流が支配的になります。

もう一つ、こちらのデータも見てください。これは同じDC/DCコンバータ回路に、インダクタンスは同じですが構造やサイズ、そして許容電流が違うインダクタを使った時の負荷-効率特性の比較と、各インダクタのRacの周波数特性です。

負荷が大きな領域はインダクタのRdcによるDC損失が支配的です。そして、軽負荷ではRacによるAC損失が支配的です。ここで着目いただきたいのは、インダクタの種類よってRdc、Racのどちらにもばらつきはありますが、特にRacのばらつきが大きいことです。

効率のグラフからは、軽負荷時の方が効率の差が大きいことで、Racの差が大きいことが読み取れます。また、Racのグラフからは、Racそのものにかなりばらつきがあることがわかります。縦軸は対数なのでピンクの線のインダクタと青のものでは何倍かの違いがあります。

-AC損失は、低負荷時に支配的になることと、インダクタの種類によってばらつきが大きいことはわかりましたが、これは何か問題になるのですか?

例えば、スマートフォンのように待ち受け状態が長い機器は、動作の時間の多くは待機状態になっており、負荷電流、つまりDC電流は極わずかしか流れません。つまり、AC損失が支配的な状態にあり、電流はわずかでもそれなりの損失が発生しています。では、このような機器にRacの大きなインダクタを使うとどうなるでしょうか?

-待ち受け時間が短くなるというか、バッテリの持ちが悪くなる可能性があります。

そうですね。電源はバッテリなので、とにかく待機時の損失を小さくしたいはずです。もし、設計者がインダクタのこのような特性を知らずにRacの大きなインダクタを選んでしまうと、バッテリ駆動の携帯機器では所望の動作時間を実現できないかもしれません。待機状態の長いバッテリ機器では、Racが小さいことが重要になります。

-単にインダクタの損失による発熱に注意するだけではなく、損失因子と特性を理解してインダクタを選択することが重要なのですね。ところで、最初に説明いただいたインダクタのスペックには、RdcはありましたがRacはなかったと思います。

Racは規格値表に載っていないことがほとんどで、ホームページに掲載されている例もあまりないと思います。Racの情報が必要な場合は、メーカーに問い合わせてみてください。

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