エンジニアに直接聞く
MOSFETを内蔵した高効率AC-DCコンバータIC BM2Pxxxシリーズ:既存のAC-DCコンバータの課題は効率とサイズ
2015.09.17
ロームは、既存のAC-DCコンバータの課題を解決すべくBM2Pxxxシリーズを開発した。全24機種に及ぶBM2Pxxxシリーズは、出力パワートランジスタとほとんどの保護機能を内蔵したことで、非常に小型で、Energy Starの新バージョン6.0をクリアする高効率を実現する。このAC-DCコンバータICの新シリーズについて、ロームの担当エンジニアに聞いた。
-BM2Pxxxシリーズと呼ばれる、AC-DCコンバータ用のICが開発され、今までのAC-DCコンバータが抱える課題に対応することができると聞きました。まず、既存のAC-DCコンバータの課題とは何なのでしょうか?
課題の話に入る前に、AC-DCコンバータは多種多様で出力電力も非常に幅が広いので、最初にBM2Pシリーズがターゲットにしている仕様や市場を説明させてください。BM2Pxxxシリーズは、基本的に25Wまでの絶縁型もしくは非絶縁型のフライバックAC-DCコンバータを構築することができます。25Wは12Vであれば2A、5Vであれば5Aといった、比較的小さ目な電源です。
-具体的なアプリケーションを教えてもらえると、すぐにイメージがわくのですが。
例えば、ACアダプタ、家電、オフィス機器などです。近年、この様な分野の機器には、省電力要求にともない基本的に低消費電力であること、待機時も含めた効率の向上、そして、省スペースの観点から小型化が強く求められています。
-DC-DCコンバータ、特に携帯機器に使うようなものは90%を超える効率が当たり前で、そろそろ限界に近いところまで来ていると言う話もありますが、AC-DCコンバータは違うということでしょうか?
確かにDC-DCコンバータは、非常に高効率で小型になっています。ただ、DC-DCコンバータの入力電圧は、高くても数十ボルトですが、AC-DCコンバータは入力がACであり、例に挙げた機器の電源となる商用電源は、公称100VAC~230VACと高圧です。スイッチング方式の変換過程では、入力のAC電圧を整流してDC化するので、約1.4倍の140VDC~320VDC以上になります。この高電圧を扱うにはパワー半導体が使われます。具体的にはトランジスタやダイオードですが、これらには、まだ効率を上げる..というより損失を小さくするという表現のほうがしっくりくると思いますが、その余地があります。
-既存のAC-DCコンバータは、どのくらいの効率なのですか?
一概には言えないのですが、例えばACアダプタの例を挙げると、既存のスイッチング方式のものの効率はよいもので80%前後だと思います。ACアダプタはAC-DCコンバータそのものですが、例に挙げたオフィス機器などは、AC-DCコンバータの先に電子回路用の低電圧電源としてDC-DCコンバータがつながることが一般的です。機器全体としての電源効率を考えると、すべての電源の効率を向上させる必要があり、すでにDC-DCコンバータはかなりの効率を達成していますので、AC-DCコンバータの効率向上が急務になっています。
-小型化に関してはどうでしょうか。家電の例だと、ハードディスクレコーダなどはかなり薄型のものが多く小型化の必要性を感じますが、冷蔵庫などは余裕があるのではないですか?
小型家電に関しては、まさにその通りです。大型のものには多少の余裕があるものがありますが、冷蔵庫は外寸に対して可能な限りの内容積を取りますので、思いのほか余裕がない場合があります。いずれにしても、AC-DCコンバータ、つまり電源基板もしくはユニットが小型になれば、多くのメリットがでてきます。設置の自由度、そして電源自体の部品、生産、輸送に関するコストの削減など、小型であることのメリットはたくさんあります。
-AC-DCコンバータは、部品が大き目で立体的なのは、高耐圧部品の関係でしょうがないのでは?
整流器やコンデンサ、スイッチングトランジスタなど、高電圧を扱う部品や放熱器などの物理的サイズはそれなりになってしまいます。しかしながら、制御方法により発熱を小さくしたり、小型の周辺部品を使えるようにすることは可能です。また、保護機能などを電源ICに集積して、部品点数を減らすことも可能です。もちろん、電源ICも小さくできます。ですので、小型化は可能です。それに、今までできなくてもできるようにするのが、エンジニアの仕事です。
-そうすると、既存のAC-DCコンバータの課題は効率の改善と小型化であり、BM2Pxxxシリーズはそのソリューションになるということですね。
25WクラスまでのAC-DCコンバータという前提がはいりますが、その通りです。効率の改善と小型化が重要な課題です。もう少し言うと、待機時電力の削減も大きな課題です。Energy StarというOA機器の国際省エネ基準をご存じだと思いますが、オフィス機器などはこれをクリアしなければなりません。この点も含めて、BM2Pxxxシリーズを開発しました。
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