電源設計の技術情報サイト

技術資料ダウンロード

SiCパワーデバイス

フルSiCパワーモジュール

活用のポイント:ゲートドライブ その1

ここからは、フルSiCパワーモジュールの優れた性能を十分に活用するための検討をして行きます。今回はゲートドライブに関してで、「その1」としてゲートドライブの検討事項を、次回「その2」では対処方法を説明します。

ゲートドライブにおける検討事項:ゲート誤オン

最初に確認しておきたいことがあります。これから説明することは、フルSiCパワーモジュール固有の検討事項ではなく、単体のSiC-MOSFETによる構成においても同様に検討が必要な事象です。ディスクリート構成の設計においても、この情報は役立ちます。

「ゲート誤オン」は、ハイサイドSiC-MOSFET+ローサイドSiC-MOSFETの構成において、SiC-MOSFETの遷移(スイッチング)時にハイサイドSiC-MOSFETのゲート電圧にリンギングが生じたり、ローサイドSiC-MOSFETのゲート電圧の持ち上がりが生じ、SiC-MOSFETが誤動作してしまう現象です。下の波形図を見ていただければ、どのような現象なのかすぐにわかると思います。

緑のトレースはハイサイドSiC-MOSFETのゲート電圧VgsH、赤はローサイドのゲート電圧VgsL、青はVdsを示しています。いずれも、リンギングや発振が見られ、楽観は難しい波形です。例えば、ローサイドがオフでなければならないタイミングで誤オンしてしまうと、ハイサイド-ローサイド間に貫通電流が流れるなどの問題が生じる可能性があります。

この現象は、SiC-MOSFETの特性の1つである、非常に高速なスイッチングに起因しています。ローサイドのゲート電圧持ち上がりは、ハイサイドのオンへの遷移時に発生するVdのリンギングと、ローサイドSiC-MOSFETの寄生ゲート寄生容量により生じます。

フルSiCパワーモジュールのスイッチング速度と寄生容量

ゲート電圧のリンギングや持ち上がりに関係する、フルSiCパワーモジュールのスイッチング速度と寄生容量の特徴を、既存のIGBTパワーモジュールとの比較から確認します。

スイッチング速度:IGBTとの比較

以下の図は、IGBTモジュールとのスイッチオン時とスイッチオフ時のdV/dt、つまりスイッチング速度を示しています。SiCモジュールのスイッチオン時のdV/dtは、IGBTモジュールとほぼ同じで、外付けのゲート抵抗Rgに依存しています。オフ時は、SiCモジュールはIGBTのようにテール電流がないため、オン時と同様に外付けゲート抵抗Rgに依存したdV/dtを示します。

寄生容量:IGBTとの比較

MOSFET(IGBT)には寄生容量として、ゲート-ドレイン(コレクタ)間のCgd(Cgc)、ゲート-ソース(エミッタ)間のCgs(Cge)、ドレイン(コレクタ)-ソース(エミッタ)間のCds(Cce)が存在します。このうち、ローサイドのゲート電圧持ち上がりに関連するのは、CgdとCgsになります。

下記の左の図は、Cgd(Cgc)およびCgs(Cge)とVds(Vce)の関係を示しています。SiCモジュールの指し示しない曲線はIGBTのものです。各曲線が示す通り、該当寄生容量は同程度で特性も近似しています。右の図は、Cgd(Cgc)とCgs(Cge)の比で寄生ゲート容量比と呼ばれており、ローサイドのゲート電圧持ち上がりに影響のあるパラメータです。左の図の直接的な容量値から推量できるように、同程度の寄生容量を示しています。

ゲート電圧持ち上がりのメカニズム

先にも記しましたが、ローサイドSiC-MOSFETのゲート電圧持ち上がりは、ハイサイドSiC-MOSFETのスイッチオン時のdV/dtが高速であることに起因しており、ローサイドSiC-MOSFETの寄生ゲート容量とゲートインピーダンスによりゲート電圧持ち上がり⊿Vgsが発生します。

SiC-MOSFETのスイッチオン速度が、外付けゲート抵抗Rgに依存するのは上記グラフで示した通りで、Rgが小さいとdV/dtは大きくなります。

ゲート寄生容量に関しては根本的に存在しているものであり調整はできないので、ゲート寄生容量は一定量存在するとして、ローサイドのゲートインピーダンスを⊿Vgsの因子とし、調整可能な外付けゲート抵抗Rgを検討します。

この図は、ローサイドのゲート電圧持ち上がり⊿Vgsと、ハイサイドの外付けゲート抵抗Rg_Hおよびローサイドの外付けゲート抵抗Rg_Lとの関係を示しています。グラフからわかるように、ハイサイドのRg_Hが小さい、つまりdV/dtが高速なほど、そして、ローサイドの外付けゲート抵抗が大きいほど、⊿Vgsが大きくなることがわかります。

次回は、これらの考察からゲート電圧持ち上がりに対する対処方法を検討します。

Key Points:

・フルSiCパワーモジュールのゲートドライブの検討事項として「ゲート誤オン」がある。

・ゲート誤オンはハイサイドのスイッチオン時のdV/dtが高速であることと、ローサイドの寄生ゲート容量とゲートインピーダンスに起因する。


シリコンカーバイドパワーデバイスの理解と活用事例