SiCパワーデバイス|基礎編
SiC-MOSFETとは-IGBTとの違い
2017.04.25
この記事のポイント
・SiC-MOSFETはVd-Id特性においてオン抵抗特性の変化が直線的で、低電流域でIGBTよりメリットがある。
・SiC-MOSFETのスイッチング損失はIGBTに比べ大幅に低減できる。
前回は、Si-MOSFETとの違いということで、SiC-MOSFETの駆動方法に関する2つのポイントについて説明しました。今回は、IGBTとの違いについて説明をします。
IGBTとの違い:Vd-Id特性
Vd-Id特性は、トランジスタの基本中の基本となる特性の1つです。以下に25℃と150℃時のVd-Id特性を示します。
25℃における特性グラフを見て下さい。SiC、およびSi MOSFETはVd(Vds)に対してリニアにIdが増加していきますが、IGBTは立ち上がり電圧があるため、低電流域においてMOSFETデバイスの方がVdsは低くなります(IGBTにとってのコレクタ電流、コレクタ-エミッタ間電圧)。言うまでもないかと思いますが、Vd-Id特性はオン抵抗特性でもあります。オームの法則に則り、Idに対してVdが低ければオン抵抗は小さく、特性曲線の傾きが急なほどオン抵抗が低いことを示しています。
IGBTの低Vd(もしくは低Id)領域、この例で行くとVdが1V程度までの領域は、IGBTでは目をつぶる領域です。高電圧大電流アプリケーションでは問題になりませんが、給電先の電力要求が低電力から高電力と幅広い場合は、低電力領域の効率はよくありません。
それに対しSiC MOSFETは幅広い範囲で低いオン抵抗を維持します。
加えて、150℃時のSi MOSFETとの特性で比べてみると、SiC、Si-MOSFETも特性曲線の傾きが緩くなるのでオン抵抗が増加することがわかります。しかし、SiC-MOSFETの方が、25℃からの変動が小さく、25℃環境下では近しい特性であったものが、より差が大きくなり、高温になった際のSiC MOSFETのオン抵抗変化が小さいことが読み取れます。
IGBTとの違い:スイッチオフ損失特性
SiCパワーデバイスは、スイッチング特性に優れ、大電力を扱いながら高速スイッチングが可能であることは以前に何度か説明してきました。ここでは、具体的にIGBTとのスイッチング損失特性の違いについて説明します。
IGBTのスイッチオフ時には、デバイス構造に起因しテイル(tail)電流が流れるのでスイッチング損失が増加することは、IGBTの基本特性としてよく知られています。
スイッチオフ時の波形を比較すると、SiC-MOSFETの場合は原理的にテイル電流が流れないので、その分スイッチング損失が非常に小さいのは明らかです。この例では、IGBT+FRD(ファストリカバリダイオード)のスイッチオフ損失Eoffを、SiC-MOSFET+SBD(ショットキーバリアダイオード)の組み合わせでは88%低減しています。
IGBTのテイル電流は、高温になるとさらに大きくなることも重要なポイントです。ちなみに、SiC-MOSFETの高速駆動には、外付けのゲート抵抗Rgを適切に調整する必要があります。これは、前回のSi-MOSFETとの違いでも説明した通りです。
IGBTとの違い:スイッチオン損失特性
続いてスイッチオン時の損失です。
IGBTではスイッチオン時に、Ic(青のトレース)に赤い破線で囲んだ部分の電流が流れます。これはダイオードのリカバリ電流によるところが大きく、スイッチオン時の大きな損失となります。SiC-SBCを並列で使用した場合には、リカバリ特性の高速性も相まって、MOSFETスイッチングオン時の損失が少なくなっています。FRDをペアにした際のスイッチオン損失は、IGBTのテイル電流と同様に高温で増加することを覚えておいてください。
いずれにしても、スイッチング損失特性に関しては、SiC-MOSFETがIGBTより優れていることがわかります。
なお、ここで提示したデータは、ロームの試験環境における結果です。駆動回路等の諸条件により、結果は異なる可能性があります。
【資料ダウンロード】SiCパワーデバイスの基礎
SiCの物性やメリット、SiCショットキーバリアダイオードとSiC MOSFETのSiデバイスとの比較を交え特徴や使い方の違いなどを解説しており、さまざまなメリットを持つフルSiCモジュールの解説も含まれています。