Siパワーデバイス|基礎編
エアコン用PFC回路 : MOSFETとダイオードによる効率向上の例
2018.07.17
この記事のポイント
・電流連続モードPFCでは、IGBT+FRDをHybrid MOSFET+SiC SBDに置き換えることで効率の改善を図ることが可能。
・この例では、SiC SBDの高速trr特性、Hybrid MOSFETの低オン抵抗+高速スイッチングが効率を向上させる。
前回はLED照明回路の効率向上とノイズ低減の例を示しましたが、今回はエアコンの例です。近年は通年のエネルギー消費率を示すAPF(Annual Performance Factor)が問われるため、エアコンのような家電の効率向上は重要課題の1つです。
エアコン用電流連続モードPFC回路:MOSFETとダイオードによる効率向上の例
この回路は、エアコンの電流連続モード(CCM)PFC回路の例です。この回路において、オリジナルの設計に使用されたFRD(ファストリカバリダイオード)を、SiC SBD(ショットキーバリアダイオード)のSCS112AMと別のFRDのRFUS20TF6Sに変更した場合、また、スイッチングトランジスタをオリジナルのIGBTからHybrid MOSのR6035GNに変更した場合、そして、トランジスタとダイオードの両方を変更した場合について効率を比較した結果を示します。
オリジナル設計のFRDをSiC SBDに変更
もともと使われていたFRDをSiC SBDに変更した場合の効率と損失の比較データを示します。
上記は、いずれの実測データです。効率では0.1%~0.2%程度の向上に見えますが、損失でみるとPo=2094Wでは、約4.2Wという差になります。
この差は、オリジナルのFRDに対して、置き換えたSiC SBDのtrr(逆回復時間)が短いことが主な理由です。電流連続モードPFCでは、ダイオードのtrr(逆回復時間)特性が高速であるほうが効率がよいことを、「電流連続モードPFC:ダイオードによる効率向上の例」で説明しました。また、SiC-SBDとFRDの逆回復特性の違いについては、「SiC-SBDとは-Si-PNDとの逆回復特性比較」に詳細説明がありますので参考にしてください。
オリジナル設計のIGBTをHybrid MOSに変更
次に、スイッチングトランジスタの違いによる損失の比較データを示します。この時のダイオードは、SiC SBDです。
スイッチングトランジスタをIGBTからHybrid MOSのR6035GNに変更したことで、出力電力1000Wの場合には4Wの損失低減が確認できます。
この理由は2つあります。1つはHybrid MOSのスイッチングが高速なのでスイッチング損失が小さいこと、もう1つはオン抵抗が小さく導通損失も小さいことです。
この波形データは、Hybrid MOSの立ち上がりの遷移が高速で、○印部分でIGBTより損失が少ないことを示しています。ちなみに、このIGBTは超高速タイプですが、比較したHybrid MOSFETには及びません。
右側のグラフは、トランジスタ単体のIc(Id)に対するオン抵抗特性を示しています。20A以上の領域ではHybrid MOSFETとIGBTのオン抵抗はほぼ同じですが、20A以下の領域ではIGBTよりオン抵抗が低くなっており、全体として、より損失が小さくなることが期待できます。
緑ラインのR6030ENは標準的なスーパージャンクションMOSFET(SJ MOSFET)で、低電流時のオン抵抗は低いですが高電流時にはIGBTより高めです。これは標準的なSJ MOSFETの特性です。この特性の違いから、大電流対応にはIGBTが選択されますが、IGBTは低電流領域では損失が大きく効率が悪いという課題を持っています。
Hybrid MOSはSJ MOSFETの派生品で、SJ MOSFETの高速スイッチング性能と低電流時の低オン抵抗、そしてIGBTに匹敵する大電流時の低オン抵抗性能の両方を備えたMOSFETです。詳細は「MOSFETとIGBT両方の利点を備えたHybrid MOS」を参照してください。
Hybrid MOSFET+SiC SBDへの変更で効率を向上
最後に、ダイオードとスイッチングトランジスタの組み合わせにおける効率データを示します。
「オリジナル」というのは、元の設計で使用されていたIGBTとFRDの組み合わせです。「SJ MOS+FRD」はローム製の3種類の標準的なSJ MOSFETとローム製のFRD、1種類の組み合わせです。「Hybrid MOS+FRD」はいずれもローム製です。緑の背景色を使っている「Hybrid MOSFET+SiC SBD」もともにローム製です。
グラフは表のデータをプロットしたもので、結果としてHybrid MOSFET+SiC SBDの組み合わせによって最も高い効率が得られることがわかります。
PFCに関しては、電流連続モード(CCM)と臨界モード(BCM)では、損失低減のためのアプローチが若干異なります。その点を加味して、効率の改善を進めることになります。