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Siパワーデバイス

実動作におけるトランジスタの適性確認

チップ温度の確認

この章では、実動作において選択したトランジスタが適切であるか否かの判断のための方法と手順を説明しています。

今回は、右のフローチャートにはないのですが、以下の箇条書きの⑦、「チップ温度の確認」について説明します。基本的には⑥の「平均消費電力が定格電力内であることの確認」が終われば、概ね問題はないのですが、さらにチップ温度という観点で安全を確認することができます。

実際の電流/電圧波形の測定
絶対最大定格内であることの確認
SOA(安全動作領域)内であることの確認
使用雰囲気温度でディレーティングした
   SOA内であることの確認

⑤連続パルス(スイッチング動作)
平均消費電力が定格電力内であることの確認
⑦チップ温度の確認

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⑦チップ温度の確認

前回の、「平均消費電力が定格電力内であることの確認」の締めくくりに、「消費電力が定格内であるかの確認方法はいくつかありますが、結局のところTjが絶対最大定格以内であるかというところに行き着きます。」という話をしました。今回は、これをフォローすべく、チップ温度、つまりTjを求めるための方法を説明します。

実際のところ、消費電力が与えられた定格内であれば、チップ温度は絶対最大定格内であることになります。これは、前回説明したように、電力定格の算出はチップ温度を基にしているからです。従って、使用条件が適正かどうかは、ここまでしてきた確認によって判断できます。しかしながら、さらにチップ温度の確認を追加したのは、確実性を高める意味に加えて、残念ながら与えられた定格値を超えている場合の対処を考える際の拠り所になるからです。

チップ温度を決める要素の1つとして熱抵抗があります。後に式で説明しますが、熱抵抗を下げるとチップ温度は単純に低下します。使用条件の制限の中で、チップ温度Tjを最大定格内に維持しながら、必要な電力を得るために放熱設計を行うのは一般的です。トランジスタ単体の熱抵抗のままで処理できる電力は、トランジスタが持つ能力より遥に低いものです。特にパワートランジスタの場合は、放熱器をともなって使うことが多くなります。その際の放熱設計の拠り所はチップ温度Tjになります。

チップ温度とは

念のためですが、チップ温度とはトランジスタチップ自体の温度で、Tj(接合部温度)のことです。チップ温度Tjは、周囲(雰囲気)温度Taとチップの発熱を合算した温度で、定格や寿命を考える際の最も重要な要素の1つです。

チップ温度の計算

例に使っているR6020ENZを始め、近年のトランジスタはチップを樹脂封止しているので、当然のことながら直接的にチップの温度を測定することはできません。従って、Tjは基本的に計算で求めることになります。以下に計算式を示します。

Tj=Ta+θja×P

※ Tj:チップ(接合部)温度、Ta:周囲温度(℃)、θja:接合部と周囲間の熱抵抗(℃/W)、P:消費電力(W)

先に少し説明しましたが、式が示す通り、チップ温度Tjは、熱抵抗×電力、つまりチップの発熱に周囲温度Taを加算した値になります。これが最も基本となる式です。

図は各部の温度と熱抵抗の関係を示しています。図には放熱板を含んでいますが、ケース(パッケージ)温度Tcはあくまでもトランジスタのパッケージ表面の温度です。熱抵抗の関係を以下に示します。

20171128_graf_01

放熱板がない場合のθcaは、単純に提示されているθjaからθjcを差し引いた値になります。放熱版がある場合は放熱板の熱抵抗がθcaに該当し、逆にθjaは単体に提示されている値ではなく、θjcとθcaを加算した値になります。以下は、データシートからの抜粋です。パワートランジスタは放熱板を使うことがほとんどなので、一般にθjaとθjcが提示されています。

20171128_graf_02

一般にθjcはθjaに対してかなり小さいので、放熱板の熱抵抗によってθjaを大幅に低減することが可能です。単体のθja(表ではTthJA)は40℃/Wですが、例えば10℃/Wの放熱板を使うとθjaを11.04℃/W*にすることができます。また、放熱板を無限大放熱板と想定した場合には、θja=θjcと考えることができます。(* 例示のための単純計算。実際のθcaは、パッケージ表面と放熱板の接合部の熱抵抗を考慮する必要がある。また、本来放熱板の熱抵抗はTjが定格内に収まるように必要な値を算出して選ぶもの。)

さて、後は計算に必要な数値を揃えれば、計算は至極簡単です。消費電力は前回説明した平均消費電力をベースに、最悪条件を考慮するなどします。Taは基本的に実測するべきです。しかし、Taの測定は意外と大変です。測定は熱電対で周囲の温度を測ればよいのですが、発熱体の近くと発熱体から離れた場所ではかなり温度が違います。また、実機では筐体内に実装され、空冷ファンにより空気が流動するなど、どの条件での周囲温度をTaとするかは、実際にはかなり難しい問題です。これに対し、昨今はTcを使ってTjを求めることが多くなりました。

TcからTjを求める方法

近年、サーモグラフィや放射温度計などが普及したことから、パッケージ表面の温度測定が比較的簡単にできるようになりました。計算のためのTcは、パッケージ表面の最も高い温度を使うことから、サーモグラフィはパッケージ表面の最も高い温度が一目でわかり大変便利です。

この方法は、面実装パッケージでは有効ですが、上記の図のTO-220タイプのスルーホール部品では少し違ったアプローチが必要です。TO-220タイプのパワートランジスタの場合は、実使用では放熱板をともなって使うことがほとんどで、放熱板はパッケージの裏面に設置します。したがって、上の図が示すようにこの場合のケース(パッケージ)温度(裏、表ということではなくθjcのcという意味で)は、放熱板との接合面の温度になります。そして、放熱板をともなっているので、サーモグラフィを使ってケース温度(放熱板との接合面)の温度を測るのは無理だと考えるべきです。

代案の1つとして、熱電対を使う方法があります。放熱板に穴をあけて、パッケージ裏面に熱電対を当てて温度を測定します。

また、放熱板の温度から逆算することもできます。この場合は、放熱板のθcaではなく、放熱板自体の熱抵抗が必要です。もしくは、基本に戻りTaから計算するほうが簡単かもしれません。Tjが正確にわかることは重要ではありますが、いずれにしてもマージンを取るので、どこまでの精度が必要かは一考の必要があります。

それでは、Tcからの計算式を示します。先の熱抵抗の関係から以下になります。

Tj=Tc+θjc×P

※ Tc:最大ケース(パッケージ)表面温度(℃)、θjc:接合部とケース表面間の熱抵抗(℃/W)、
  P:消費電力(W)

これで、Tjが最大定格である150℃を超えていなければ、選択したトランジスタは適切だという結論をだすことができます。ただし前述しましたが、基本的に放熱設計は必要になりますので、もし、Tjが150℃以上であっても熱抵抗を低減することで対処可能です。

Key Points:

・最終的にTjが絶対最大定格を超えてないか確認する。

・TaもしくはTcと発熱(熱抵抗×消費電力)の合算がTjになる。


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