Siパワーデバイス|基礎編
平均消費電力が定格電力内であることの確認
2017.10.30
この記事のポイント
・連続パルス(スイッチング動作)の場合は、平均消費電力を求め、許容損失が定格内であること確認する。
・最終的にはTjが絶対最大定格を超えていないかどうかが判断の大元になる。
この章では、実動作において選択したトランジスタが適切であるか否かの判断のための方法と手順を説明しています。
今回は、右のフローチャートの「⑥平均消費電力が定格電力内であることの確認」、について説明します。スイッチング動作を前提に説明してきていますので、⑤の選択は「連続パルス」の選択になります。
①実際の電流/電圧波形の測定
②絶対最大定格内であることの確認
③SOA(安全動作領域)内であることの確認
④使用雰囲気温度でディレーティングした
SOA内であることの確認
⑤連続パルス(スイッチング動作)
⑥平均消費電力が定格電力内であることの確認
⑦チップ温度の確認
⑥平均消費電力が定格電力内であることの確認
前回、実際の使用温度条件において必要なディレーティングした場合にもSOA範囲内にあることの確認をしました。今回は、動作がスイッチング動作(連続パルス)の場合には平均消費電力を求め、それが定格内かどうかの確認をします。これは、③で説明したようにSOAの条件が「単発(シングル)パルス」となっているためで、スイッチング動作のような連続パルスの場合には、単純に適用できないからです。従って、追加の確認として消費電力が定格内であることを確認していきます。スイッチング動作の場合、電流が流れて電力を消費するトランジスタオン状態と電力を消費しないオフ状態を繰り返すため、平均消費電力を求める必要があります。
スイッチング動作時の平均消費電力の求め方
平均消費電力は、トランジスタのオフからオンへ遷移(t1-t2)、オン期間(t2-t3)、オンからオフの遷移(t3-t4)、オフ期間(t4-t5)の各電圧と電流の積、つまり電力を時間で積分した値を合計し、周期(T)で除することにより算出できます。以下の図と式を参照してください。
①実際の電流/電圧波形の測定において測定し記録したスイッチングの電圧/電流波形をここで使います。
R6020ENZのスイッチング波形
この波形をもとに、この積分公式に則り計算します。これは、MOSFETの例ですが、バイポーラトランジスタであれば、コレクタ電流IC、コレクタ-エミッタ間電圧VCEをもって同じように計算できます。
計算によって求めた平均消費電力が、データシートの許容損失の最大定格以内であれば問題ないと判断します。もちろん、使用する温度において定格内であるかどうかを確認します。
以下の表は、R6020ENZの絶対最大定格です。許容損失PDは120Wですが、条件を見るとTc=25℃となっていますので、それ以外の条件では単純にこの値は適用できません。ということで、グラフを利用します。これは、「④使用雰囲気温度でディレーティングしたSOA内であることの確認」でも使ったPDディレーティンググラフです。基本的にはこのグラフを利用して、消費電力をTjに換算する形で使用可能かどうかを判断することになります。
いずれにしても、Tjを求めることになるので、結果的には、使用温度条件において、TjがTjの絶対最大定格150℃を超えていなことを確認するという考え方のほうがすっきりするかもしれません。消費電力がわかっていますので、後はパッケージの熱抵抗がわかれば簡単に計算できます。以下もデータシートからの抜粋です。
この計算は、基本的なTjを求める計算、Tj=消費電力×熱抵抗+使用温度(最大)となります。使用温度をTaで規定するかTcかは、使いやすい方で問題ありません。
消費電力が定格内であるかの確認方法はいくつかありますが、結局のところTjが絶対最大定格以内であるかというところに行き着きます。Tjの計算については、次回にもう少し詳しく説明します。
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