Siパワーデバイス|基礎編
MOSFETとは-ゲートしきい値電圧、ID-VGS特性と温度特性
2016.11.29
この記事のポイント
・MOSFETをオンさせる電圧をゲートしきい値と呼ぶ。
・VGSが一定なら温度上昇によりIDが増加するので、条件によっては注意が必要。
・VGS(th)の変化から、おおよそのTjを推定することが可能。
前回のMOSFETのスイッチング特性に続いて、MOSFETの重要特性である、ゲートしきい値電圧、そしてID-VGS特性、そしてそれぞれの温度特性について説明します。
MOSFETのVGS(th):ゲートしきい値電圧
MOSFETのVGS(th):ゲートしきい値電圧は、MOSFETをオンさせるために、ゲートとソース間に必要な電圧のことです。つまり、VGSがしきい値以上の電圧であれば、MOSFETはオンします。
この「MOSFETのオン」という状態は、いったい「電流IDをどのくらい流せる状態のことなのか?」と疑問をもつ方がいるかもしれません。確かに、IDはVGSによって変化します。VGS(th)の規格値の観点で言えば、条件が決まっていなければVGS(th)の値を保証することができないので、これはMOSFETのデータシートで条件が規定されています。この表は、N-ch 600V 4AのパワーMOSFET:R6004KNXのデータシートからの抜粋です。
青線で囲ってあるのがVGS(th)で、条件欄にはVDS=10V、ID=1mAと示されており、この条件でVGS(th)は最小3V、最大5Vであることが、Ta=25℃で保証されています。
つまり、VGSを上昇させて行くとMOSFETがオンし始め(IDが流れ出し)、IDが1mAのときにVGSは3V以上5V以下のある値であり、その値がVGS(th)ということになります。表現の仕方はいろいろあると思いますが、VDS=10VでID=1mAのときをMOSFETのオン状態と定義して、そのときのVGSをVGS(th)とし、値としては3V~5Vの間であると言うこともできます。
ちなみに、MOSFETに限らず、入力に対して出力や機能のオン/オフなど、何かの状態が変わる電圧や電流の値をしきい値と言います。
VGS(th)、ID-VGSと温度特性
最初にID-VGS特性を示すグラフから、このMOSFETのVGS(th)を読み取ってみます。VDS=10Vの条件は一致しています。IDが1mAのときのVGSがVGS(th)ですので、Ta=25℃の曲線と1mA(0.001A)のラインが交わるところのVGSは、約3.8Vです。データシートには代表値(Typ)が示されていませんが、グラフからVGS(th)のTyp値は3.8Vくらいであることがわかります。グラフの値は基本的にTyp値と解釈します。
次に、ID-VGS特性ですが、VGS(th)の規格値としてはID=1mAでいいのですが、実際に利用する際は、4AのMOSFETを使ってIDが1mAという使い方はまずないと思います。例えばTa=25℃で1AのIDが必要な場合、このグラフから必要なVGSは5.3Vくらいであることがわかります。
ID-VGSの温度特性はグラフから、高温になるとVGSが一定ならIDは増加する傾向にあります。先ほどのTa=25℃でID=1Aの条件を例に取ると、Ta=75℃ではIDは1.5Aほど流せることになり、使用条件によっては注意が必要です。
順序が逆になりましたが、VGS(th)の温度特性のグラフを見てください。ID-VGSのグラフから読み取ったように、25℃時VGS(th)は約3.8Vであることわかります。このグラフの温度はTjになっていますが、「pulsed」と記載があるようにパルス試験でのデータなので、Tj≒Ta≒25℃と考えて差し支えありません。
温度特性は、VGS(th)は高温になると低下する傾向にあることがわかります。これは、温度が上昇するとVGS(th)が低くなると言うことは、より低いVGSでIDが多く流れることを示しています。つまり、当然ですが、ID-VGSの温度特性と一致しています。
また、VGS(th)は、Tjを推定するのに利用することができます。VGS(th)の温度特性には直線性があるので、係数を割り出し、VGS(th)の変化分から温度上昇を計算することが可能です。
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