DC-DCコンバータ|評価編
出力電流が大きいアプリケーションを検討するときの注意 その1
2018.10.16
この記事のポイント
・出力電流を大きくする場合は、MOSFETのオン抵抗、スイッチング、デッドタイム、インダクタのDCRの損失が増加する。
・オン抵抗の低いMOSFETを選択しスイッチングを高速にして、DCRの小さいインダクタを使う。
・コントローラICのデッドタイムはほとんどが調整できない。
・MOSFETの選定には、オン抵抗の他に検討事項がある(その2にて)。
前回は、入力電圧が高くなる場合に損失が増加する部分と、注意点および対応策を説明しました。今回は、出力電流が大きいアプリケーションを検討する場合の2つの注意点の1つ目を説明します。
出力電流が大きいアプリケーションを検討するときの注意 その1
以下は、「損失要因」の項で示した各損失の式です。
<出力電流 が大きくなると増加する損失要因>
・ハイサイド側のMOSFETのオン抵抗 による伝導損失
・ローサイド側のMOSFETのオン抵抗 による伝導損失
・スイッチング損失
・デッドタイム損失
・インダクタ(コイル)のDCR による導通損失
式からわかるように、特にMOSFETのオン抵抗とインダクタのDCRに損失が大きくなります。Ioが二乗となるため1A時は1ですが5A時は25となり、他の損失と比べて係数としては5倍になります。以下に、Ioが1A~5Aに変化した場合の各損失を示します。
考察および対応策
MOSFETのオン抵抗による導通損失が大きな損失増加要因になるので、スイッチのMOSFETが外付けとなるコントローラICによる構成の場合は、オン抵抗の低いMOSFETを選択します。MOSFET内蔵タイプのICであれば、同様の観点から内蔵MOSFETのオン抵抗が小さなICのを選択することになりますが、個別MOSFETを選ぶような広い選択肢はないので全体的な損失を比較して選定することになります。
インダクタのDCR損失も大きいので、DCRの小さなインダクタを選択します。ICベースの電源回路では基本的にインダクタは外付けなので、MOSFET外付けタイプと内蔵タイプともに考え方は同じです。
スイッチング損失に関しては、tRISEとtFALLが速い、つまりMOSFETのスイッチングが速いことが有効です。基本的にはQgの低いMOSFETを選択します。あわせてコントローラICのゲートドライブ能力が高いことも有効ですが、今回はICはそのままが条件になっています。MOSFET内蔵タイプのICのには、高速スイッチングを特長としているものがあります。
今回の条件設定ではスイッチング周波数は変更しない前提ですが、損失を低減するためにスイッチング周波数を低くするアプローチもあります。ただし、これはインダクタのサイズとトレードオフになります。「スイッチング周波数を高めて小型化を検討するときの注意」で説明したので参照してください。
デッドタイム損失は、デッドタイム中にローサイドMOSFETのボディダイオードの順方向電圧VFとIoで発生する損失なので、理論的にはデッドタイムを短くし、ボディダイオードのVFが小さいMOSFETを使うことになります。しかしながら、デッドタイムはほとんどの場合、コントローラICで最適化された値が設定されており調整はできませんし、デッドタイムによる制御ICの選択というのもあまり現実的ではありません。また、MOSFETに関しても、ボディダイオードのVFが小さいものを探すというのは現実的ではありません。デッドタイム損失がどうしても許容できない場合は、ローサイドMOSFETのドレイン-ソース間にVFの小さなダイオード、例えばショットキーダイオードを追加してVFを下げる方法があります。また、今回の条件から逸脱しますが、スイッチング周波数を下げる対処もあります。
結果として、オン抵抗が低いMOSFETを使い、スイッチングを高速にして、DCRが低いインダクタを選択することになります。ただし、MOSFETの選択に関しては、もう少し検討事項がありますので、次回、「その2」で説明をします。
【資料ダウンロード】降圧DC-DCコンバータ 損失の検討
DC-DCコンバータ
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