DC-DCコンバータ|評価編
インダクタ電流の測定
2015.04.15
この記事のポイント
・インダクタはDC-DCコンバータにとって重要な部品。評価はもちろん設計においても避けて通ることができない。
・測定はオシロスコープと電流プローブを使用し、電流波形が適正か、飽和していないかを確認。
・インダクタ電流はピーク値と平均値の両方をもって検討する。
「スイッチングレギュレータの評価」の4つ目は、「インダクタ電流の測定」と題してインダクタ電流の測定方法と評価ポイントについて説明します。
インダクタについて
最初から少し脱線します。ここでは、DC-DCコンバータの出力に使われる右図のLのことを、「インダクタ」という呼称で統一しています。昨今はインダクタと呼ぶことが多いような気がしますが、コイルやチョークコイルといった呼び名も多く使われています。また、あまり多くはないと思いますが、リアクトルという呼び名も使われます。
DC-DCコンバータにおいては、同じもののことを言わんとしているのですが、コイルは線を巻いたものの総称で、インダクタも同意と言われています。チョークコイルは高周波電流を通さない用途のコイルになります。ただ、業界内でも厳密な決まりはない様で、慣れ親しんだ言葉が使われているようです。IECなど国際規格ではinductorが使われているという話を聞いたことがあります(詳細未確認)。それで近年はインダクタが使われるのが増えてきたのかもしれません。
さて、本題に入ります。まず、インダクタがどんな仕事をするのかということを確認しておきます。簡単に言うと、抵抗器はACでもDCでも、つまり周波数にかかわらず一定に電流を制限しますが、インダクタは電圧が同じなら周波数が高くなると電流が流れにくくなり、DCでは抵抗成分がないと考えることができます。コンデンサと比較すると、コンデンサはDCは通さずACを通すので逆の働きとも言えます。インダクタが抵抗のようにふるまう原理は電磁誘導です。また、自己誘導により起電力を発生させます。この効果の大小をインダクタンスで表します。
降圧型のDC-DCコンバータにおいて、上図で示したインダクタは、基本的に平滑化の役割をしています。上図のインダクタに出力トランジスタによるオンオフの矩形波電圧が入力されると、流れる電流はインダクタンスによって電流の出入りに勾配ができることから三角波になります。このように、矩形波が三角波への平滑されます。これが基本となります。
インダクタ電流と出力リップル電圧
インダクタ電流を測定し適正かどうかを判断するために、インダクタ電流と出力リップル電圧を数式で示します。(左下の図では、図の出所の関係で「コイル」という表記が使われています。もちろん、インダクタのことです。)
これらの数式は、DC-DCコンバータの設計の際には必ず出てくる式です。各項との関係をイメージできるようにすると、評価がしやすくなると思います。
⊿ILで表されるインダクタ電流の三角波のピークは、インダクタンスLが大きくなると小さくなります。また、スイッチング周波数が高くなっても小さくなるのがわかります。⊿VREPで表されるリップル電圧は、⊿ILとコンデンサのESRが支配的なのがわかります。これをベースに測定したインダクタ電流を評価していきます。
インダクタ電流の測定方法
インダクタ電流は、電流プローブを使いオシロスコープで波形を観察します。電流プローブは電流経路を挟まなければならないので、写真のようにクリップ用の線を出す必要があります。
・インダクタ電流の検討事項
右上の波形グラフは上がスイッチング電圧波形、下がインダクタ電流の波形です。この実測波形は理想に近いものといえ、きれいな三角波が観察されています。
ここでの評価ポイントは、先ほども出てきた右の図で説明します。実は、これらは設計時にはインダクタの仕様を決めるためのポイントです。つまり、結果的には設計時に選んだインダクタが実際に適正かどうかを確認することになります。
インダクタ(コイル)の飽和電流は、IOUTMAXに⊿IL/2を加算した値より大きなものが選択されているはずです。実測値と比較してください。
飽和電流の許容値が十分でないと、インダクタが飽和し急激に電流が流れるので、三角波の勾配が二次曲線のように歪みます。最悪はスイッチングトランジスタに想定以上の電流が流れてしまい、損傷する場合があります。これは重要なチェックポイントです。
インダクタ電流の評価ポイント
インダクタおよびインダクタ電流を評価する際のポイントをまとめました。
- 定数決定はデータシートにしたがって決めていくが必ず実測をする。
- 測定はオシロスコープと電流プローブを使用。
- 電流波形が適正か、飽和していないかを確認。
- インダクタ電流はピーク値と平均値の両方をもって検討する。
- インダクタの選定は数式の要求、IOUTMAX+⊿IL/2で考える。
インダクタはその振る舞いがわかりにくいこともあり、少々嫌われている感が無きにしも非ずです。とはいえ、DC-DCコンバータにとっては無くてならない部品なので、実測での評価を積み重ねるなどして理解を深めたいものです。
【資料ダウンロード】スイッチングレギュレータの特性と評価方法
このハンドブックは、スイッチングレギュレータの基本を確認し、スイッチングレギュレータ用ICのデータシートを読み解くことも併せて、設計の最適化に必要なスイッチングレギュレータの特性の理解と評価の方法を解説しています。
DC-DCコンバータ
- 基礎編
- 設計編
-
評価編
- スイッチングレギュレータの特性と評価方法の概要
- 電源ICのデータシートの読み方:表紙、ブロック図、絶対最大定格と推奨動作条件
- スイッチングレギュレータの評価:出力電圧
-
損失の検討
- 定義と発熱
- 同期整流降圧コンバータの損失
- 同期整流降圧コンバータの導通損失
- 同期整流降圧コンバータのスイッチング損失
- 同期整流降圧コンバータの制御IC消費電力損失
- 同期整流降圧コンバータのデッドタイム損失
- 同期整流降圧コンバータのゲートチャージ損失
- インダクタのDCRによる導通損失
- 電源ICの電力損失計算例
- 損失の簡易的計算方法
- パッケージ選定時の熱計算例 1
- パッケージ選定時の熱計算例 2
- 損失要因
- スイッチング周波数を高めて小型化を検討するときの注意
- 高入力電圧アプリケーションを検討するときの注意
- 出力電流が大きいアプリケーションを検討するときの注意 その1
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- 損失の検討 ーまとめー
- 応用編
- 製品紹介
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