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2015.02.16 DC/DC

電源ICのデータシートの読み方:許容損失

スイッチングレギュレータの特性と評価方法

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電源ICにかかわらずICを使う場合には、最大定格であるTjmax(最大接合部温度/ジャンクション温度)を超えないように熱の検討をして、場合によっては放熱設計をする必要があります。特に電源ICなど、大きな電力を扱うICやトランジスタでは必須の検討事項です。この項では、「電源ICのデータシートの読み方」として「許容損失」について説明します。

この項で、「電源ICのデータシートの読み方」は最後になります。「データシートの表紙」、「ブロック図」、「絶対最大定格と推奨動作条件」、「電気的特性の勘所」、「特性グラフ、波形の見方」、「応用回路例」、「部品選定」、「入力等価回路」について説明をしてきましたが、すべてデータシートを読み解き、設計をスムーズに進めるためのヒントになると思いますので、全項に目を通していただくことをお勧めします。

許容損失
ICの許容損失とは(おおくの電子部品に通じると思いますが)、そのICが性能を維持できる温度を超えない最大の消費電力のことです。例えば、ある電源ICの許容損失が「1.2W」とあれば、単純にはその条件において損失している電力が1.2Wを超えなければ良いことになります。

計算が簡単なLDOレギュレータを例に取ると以下のようになります。

   入力が5V、出力が3.3V、入力電流(自己消費+負荷)が0.7Aの場合:(5V-3.3V)×0.7A=1.19W

これで、「ぎりぎりセーフ」といったような判断ができたりします。もちろん、実際のところはもう少し丁寧が検討が必要になります。

許容損失は基本的にグラフで提示されていることが多いと思います。以下に、グラフの例を示します。

電源ICの許容損失(PD)グラフの見方

とりあえずグラフの①2.66Wの曲線をみてもらうと、25℃までは2.66W許容できるが、それ以上では直線的に許容損失は減少し、このICの最大動作Ta85℃では1.4Wを許容できそうなことがわかります。

①~④は、基板と面積の条件を提示し、実装条件によって許容損失が異なることを示しています。また、その条件での熱抵抗θj-aも示されています。近年は多くの電源ICが表面実装パッケージになり、実装条件によって大きく許容損失が変わることから、この様な詳細な条件提示は有用です。

これだけの条件提示があれば、自身の設計に最も近い条件での許容損失を「参考に」すればよいことになります。「参考に」がカッコ付なのは、あくまでも「参考」ということを強調したいからです。これについては別途説明します。

例を挙げます。②の基板条件がかなり近く、実装基板でのTaの上限が50℃ということであれば、1.4W弱の損失は許容できることがわかります。上記のLDOレギュレータの例では、0.8A程度は取れることになります。スイッチングレギュレータの場合は少し計算が面倒になりますが、効率(出力電力/入力電力)を測ることができれば、1-効率が損失となります。パワートランジスタ内蔵タイプであればこれで求められますが、パワートランジスタ外付けタイプでは、制御ICだけの損失を計算(測定)する必要があります。もちろん電源回路として外付けパワートランジスタの熱計算は必須ですが。

さて、このグラフをみて、何か気が付いたことはないでしょうか?もちろん、このグラフは一般的に十分な情報を提供してくれていますので、少々深読みするという意味です。
 
   (1) 0℃~25℃までは、なぜ許容損失が同じなのか?
   (2) Ta=150℃で許容損失が0Wということは..

理論的な話をすると(1)はおかしいです。周囲温度が下がれば計算上は損失電力を増やすことが可能なはずです。(2)はすぐに気が付いたと思いますが、これからTjmaxが150℃であることがわかります。損失をまったく許容できないわけですから発熱はゼロ、つまりTa=Tjの条件です。

かつて、(1)の質問をされたことがあるので、せっかくTjmaxをグラフから読み取り、θj-aも提供されているので、①の条件を例に計算してみます。

   Tj=θj-a×PD+Ta から 47.0℃/W×2.66W(@ Ta=25℃)+25℃=150℃ ←Tjmaxの条件になっている
   
   150℃=47.0℃/W×?W(@ Ta=0℃)+0℃ から 3.19W ←0℃では計算上これだけの損失を許容できるはず

実は、これについては諸説あるのですが、おそらくは慣例的なもので、一般に室温を25℃と想定すれば無通電でもTjは25℃であり、2.66W以上の設定であれば通電した瞬間にTjmaxを超える危険があることから、25℃以下の許容損失は25℃の値を適用するのが安全、ということだと思います。もちろん、25℃以上にならない寒冷地などはあるのですが、それは非常に特殊な条件で、確証さえあれば許容損失を計算に合わせてもよいのだと思います。

少し脱線してしまいましたが、ここで申し上げたかったのは、許容損失のグラフが提供されていれば、それを利用することは何ら問題ないのですが、Tjを求める基本式に則り必ず確認することが重要だということです。さらに計算結果については、実測で検証すべきです。

許容損失グラフの数値と計算結果が合わないグラフを見たことがあります。これは、すでにディレートした値を許容値としたものだと思います。逆に、提供された許容損失値がTjmaxちょうどであれば、その損失条件で使用するということは、信頼性の観点からは最悪条件での使用になり動作寿命は短くなります。よって通常はディレートする、つまりマージンを取ることになります。そのためには、提示されている情報の根拠をある程度確認する必要がでてきます。

最後に、前述の「参考に」を強調の意味と記した理由を説明します。実際のところ、データシートに提示のある基板の条件が自身の設計と合致することは稀です。多くは、「ほぼ近い」とか、「これよりは良いけどこれよりは悪い」といった目安にすることになります。さらに、近隣にパワーデバイスが並ぶとか、冷却条件(ファンなど)、筐体や設置場所の関係などにより、放熱、熱抵抗、Taはかなり不確定なファクタになってしまい、複雑すぎて計算では検証しきれないこともあります。したがって、提供された情報での検討と計算による確認をして、最後には実測するといったプロセスが非常に重要になっています。特に近年は実装の高密度化が進み、放熱スペースや放熱器などを思ったように利用できない状況があります。電源の設計において熱の検討と熱設計は、かなりの検討を要するものであることを理解していただければと思います。

キーポイント

・電源ICにかかわらず、Tjmaxを超えないことを確認する。特に高電力の電源ICは熱設計は必須。

・許容損失、パッケージ熱抵抗、ディレーティングなど条件提示の種類はいくつかあるが、最終的には自己発熱と周囲温度の和がTjmaxを超えないことに行きつく。

・データシートで提供される許容損失や熱抵抗は特定の条件での値であり、自身の設計の条件とは一致しないことも多いので参考値をして捉え、必ず実機での確認を行う。

スイッチングレギュレータの特性と評価方法