DC-DCコンバータ|評価編
特性グラフ、波形の見方
2014.11.28
この記事のポイント
・電源設計のためには電源ICのデータシートを読み解くことが必要。
・グラフや波形が規格値にない特性を補足してる場合があるので必ずチェックする。
・規格値の数値は指定条件における一点の値で、連続的な変化を示すものではないのでグラフを利用する。
・グラフや波形データから読み取れる値は、基本的に標準値で保証値ではない。
「電源ICのデータシートの読み方」として、「データシートの表紙」、「ブロック図」、「絶対最大定格と推奨動作条件」、「電気的特性の勘所」について説明してきました。この項では、同じく「電源ICのデータシートの読み方」として、「特性グラフ、波形の見方」について説明して行きます。
いずれも、スイッチングレギュレータの特性と評価方法を理解する上で、電源ICのデータシートを読み解くことが非常に重要あるというのが主旨です。
・グラフの見方
データシートには、規格値表の他に特性グラフが掲載されています。その理由は、規格値表の数値は指定条件における一点の値で、幅や傾向、複数条件に対する変化など連続的な特性を知ることができないので、それを補完するためです。また、規格値としては定められていない特性や、回路としての特性を示したグラフがたくさんあります。ここで申し上げたいのは、規格値表の数値だけではなく、必ずグラフもチェックして傾向や連続的な特性を知ったうえで設計を行うということです。というよりも、設計をするにはグラフは必須といってもよいと思います。それでは、実際のグラフを使って具体的に説明をして行きます。
以下の表はデータシートの規格値表の切り抜きです。ICC、アクティブ時回路電流というパラメータを見ていきます。ICCは、「Ta=25℃」という温度条件といくつかの電圧と電流の条件によって、最大値500μAが保証されています。標準値は350μAで、最小値の保証はありません。この表からわかることは、「ICCは25℃の時に350μAくらいで500μAは超えない」ということになります。
ここで、設計する機器の動作温度範囲が0℃~60℃だとすると、設計のために0℃や60℃での標準値や温度に対して増えるのか減るのかなど変動の傾向を押さえておきたいところです。しかしながら、この表からはそれはわかりません。
規格値表の温度条件設定の中には、全動作温度範囲、例えば-40℃~+85℃という範囲をもった条件での規格値を示している場合があります。この場合は25℃一点での数値と違って、上述の機器の温度範囲0℃~60℃であれば、そこに示されている保証値内であるということがわかりますが、それ以上は無理なのは説明するまでもありません。
このグラフは、同じICのデータシートに記載されているもので、温度とICCの関係が曲線で示されています。さらに、規格値表にはなかったVINに関しても2つの条件が示されています。先ほどの0℃~60℃という条件では、VINが高い場合でも400μA±20μVくらいであることが読み取れます。
また、温度が上がるとICCは増加し、VINが高いとICCも増える、という傾向も読み取ることができます。そして、これらは設計において重要な情報になります。
ここで注意しなくてはならないのは、グラフから読み取れる値や傾向は保証値ではなく、標準的な特性であるということです。
ICCは80℃を超えても25℃の最大値500μAを超える様子はありませんが、この例では「そうかもしれないが保証の限りではない」というのが正しい理解です。
次のグラフは、効率と出力電流の関係を示しています。スイッチングレギュレータICのデータシートではよく見かけるグラフです。ところが、ほとんどの場合規格値表に効率の項目はなく、もちろん最大/最小値どころか標準値も示されていません。つまり、効率は保証されていない特性なのです。
しかし、保証しないからと言って目安が何もないと検討のしようがありません。そういった意味もあり、条件や回路、部品などを指定して、あくまでも一例として(大抵はベストの)特性がグラフで提示されています。
このグラフからは、自身の回路の負荷電流に対して得られる効率をイメージすることができ、効率曲線は電源IC選択時の重要なチェックポイントにもなります。
・波形の見方
データシートには、グラフだけではなく、動作時の波形などが示されていることがあります。その主旨はグラフと基本的に同じで、規格値表では示すことが難しい特性を提示するのが目的です。
この図に示されているのは、オシロスコープの画面に表示される波形そのものです。縦は電圧で横は時間軸です。示されているのは、スイッチノードのオンオフ波形と、出力に現れるリップル電圧です。
出力電圧波形からは、リップル電圧が読み取れます。よく見ると、スイッチ波形のH時にリップルが上昇し、L時には降下するのが読み取れます。また、リップル周波数も基本的にはスイッチング周波数と同じ、つまり同期していることもわかります。
もちろん、こちらも標準的な特性になります。標準という意味では、自身の回路の同じノードの波形と比較して、最適化の比較対象として利用することもできます。
以下に、グラフと波形の見方のポイントをまとめました。
◆グラフや波形が規格値にない特性を補足してる場合があるので必ずチェックする
- 規格値表のワンポイント値を補完する連続的な特性が確認できる
- 温度など変動する条件に対する規格値の変動が確認できる
- 規格値にない特性(上の例では出力リップルと効率)も提示されており、最適化度合いの比較対象としても利用できる
- グラフの値は保証値ではなく、標準値的な扱い
【資料ダウンロード】スイッチングレギュレータの特性と評価方法
このハンドブックは、スイッチングレギュレータの基本を確認し、スイッチングレギュレータ用ICのデータシートを読み解くことも併せて、設計の最適化に必要なスイッチングレギュレータの特性の理解と評価の方法を解説しています。
DC-DCコンバータ
- 基礎編
- 設計編
-
評価編
- スイッチングレギュレータの特性と評価方法の概要
- 電源ICのデータシートの読み方:表紙、ブロック図、絶対最大定格と推奨動作条件
- スイッチングレギュレータの評価:出力電圧
-
損失の検討
- 定義と発熱
- 同期整流降圧コンバータの損失
- 同期整流降圧コンバータの導通損失
- 同期整流降圧コンバータのスイッチング損失
- 同期整流降圧コンバータの制御IC消費電力損失
- 同期整流降圧コンバータのデッドタイム損失
- 同期整流降圧コンバータのゲートチャージ損失
- インダクタのDCRによる導通損失
- 電源ICの電力損失計算例
- 損失の簡易的計算方法
- パッケージ選定時の熱計算例 1
- パッケージ選定時の熱計算例 2
- 損失要因
- スイッチング周波数を高めて小型化を検討するときの注意
- 高入力電圧アプリケーションを検討するときの注意
- 出力電流が大きいアプリケーションを検討するときの注意 その1
- 出力電流が大きいアプリケーションを検討するときの注意 その2
- 損失の検討 ーまとめー
- 応用編
- 製品紹介
- FAQ