トラブルシューティング ③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
2019.10.15
この記事のポイント
・従来の絶縁型フライバックコンバータの二次側の置き換えなので、実際の動作確認は非常に重要。
・サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合があり、対策は3つほどある。
1) 二次側MOSFETのドレイン-ソース間に容量を挿入する
2) 一次側MOSFETのゲート抵抗値を大きくする
3) トランスの巻線比Ns/Npを小さくしてVDS2を下げる
・各対策にはトレードオフとなる注意事項がある。
トラブル①「二次側MOSFETがすぐにOFFしてしまう場合」、トラブル②「軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合」に続く、トラブル③「サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合」の対策、および注意点を説明します。
トラブル③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
対策
このトラブル③に関しては、対策が3つほどありますが、トラブル①や②と同様に、各対策にはトレードオフとなる注意事項があります。最初に対策と注意事項の一覧を示します。
対策 | 注意事項 |
---|---|
対策③-1 二次側MOSFETのドレイン-ソース間に容量を挿入する |
共振が起こる領域(無負荷~軽負荷)で、挿入した容量により効率が悪化するため特性確認が必要。 |
対策③-2 一次側MOSFETのゲート抵抗値を大きくする |
ゲート抵抗値を大きくすることで効率の悪化、また一次側MOSFET M1の発熱が増加する可能性があるので特性確認が必要。 |
対策③-3 トランスの巻線比Ns/Npを小さくしてVDS2を下げる |
逆に一次側MOSFETのVDS1が大きくなるため、VDS1が一次側MOSFET M1のVDS定格を超えないようにトランスの巻線比を調整する。 |
※トラブル③に対する対策という意味で「対策③-n」という番号を使用。
対策③-1:二次側MOSFETのドレイン-ソース間に容量を挿入する
二次側MOSFETのドレイン-ソース間に容量、コンデンサCDS2を挿入することで、VDS2のオーバーシュートを平滑化します。CDS2は、1000pF~6800pF程度(参考値)ですが、対策の効果を確認しながら最適な容量を選択します。下図は、回路図上でのCDS2の挿入場所と対策実施後の波形になります。
※注意事項:共振が起こる領域(無負荷~軽負荷)で、挿入した容量により効率が悪化するため特性確認が必要で、オーバーシュートの平滑化具合と効率との間で妥協点を見出すことになります
対策③-2:一次側MOSFETのゲート抵抗値を大きくする
一次側MOSFET M1のゲート抵抗RGATE1の値を大きくし、VGS1の立ち上がり時間を遅くする(鈍らせる)ことで急峻な立ち上がりによるサージを抑え、二次側VDS2のオーバーシュートを抑えることができます。下図は、RGATE1と対策後の効果を示す波形図です。RGATE1の値は10~470Ω程度(参考値)です。
※注意事項:RGATE1の値を大きくすることで効率の悪化、また一次側MOSFET M1の発熱が増加する可能性があるので特性確認が必要です。こちらもオーバーシュートの低減と効率、発熱のトレードオフによって調整する必要があります。
対策③-3:トランスの巻線比Ns/Npを小さくする
トランスの巻線比を小さくすることによって、VDS2の振幅を減衰させます。
※注意事項:VDS2は減衰しますが、逆に一次側MOSFETのVDS1大きくなります(対策実施後の波形図参照)。そのため、VDS1が一次側MOSFET M1のVDS定格を超えないようにトランスの巻線比を調整する必要があります。
起こる可能性があるトラブル例と、その対策および注意事項に関する説明は以上で終わりです。
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