AC-DC コンバータ|設計編
同期整流回路部:電源ICの選択
2019.06.25
この記事のポイント
・既存回路の動作や諸条件を確認して、設計に使う電源ICを決定。
・一次側と二次側のMOSFET同時ON動作による破壊を防止する最大ON時間を設定する。
・強制OFF時間を算出し、該当するBM1R001xxFシリーズを選択する。
・BM1R001xxFシリーズは強制OFF時間バリエーションとして5機種が用意されている。
元の回路の二次側ダイオード整流回路を同期整流化するための手順として、前回は整流ダイオードの置き換え用MOSFETを選定しました。続いて、既存回路の動作や諸条件を確認して、設計に使う電源ICを決定します。ここでは、既存のAC-DCコンバータの二次側ダイオード整流回路を同期整流回路に置き換える設計を行っていますので、既存回路の仕様や特性、動作を確認して合わせ込みを行い、そして同期整流化に向けて置き換えるというアプローチが必然になります。
同期整流回路部:電源ICの選択
今回の置き換え設計に使用予定のBM1R001xxFシリーズは、BM1R00146F~150Fの5機種で構成されています。様々な仕様の電源の同期整流化に対応できるように、強制OFF時間(Compulsion OFF Time)にシリーズがあります。
強制OFF時間は軽負荷時にICのDRAIN端子に発生する共振波形により、二次側FETが再度ONしてしまう動作を防止します。この時間は二次側をOFFしたときから強制的にONさせない時間を示し、1.3us(00146F)~4.6us(00150F)でラインアップから選択できます。
しかし、この強制OFF時間が長すぎると、重負荷動作でFETがONできない時間ができてしまい、効率が悪化してしまうため、適切な時間を選択する必要があります(詳細は後述します)。
連続モード動作時、この強制OFF時間の決定基準は、一次側コントローラのスイッチング周波数と一次側および二次側MOSFETそれぞれのON時間を考慮する必要があります。
電源ICの選択は、以下の①~③の手順で行います。
- ①置き換え前の整流ダイオードDOUTに発生する逆方向電圧VR、順方向電流IFの波形確認
⇒一次側MOSFET M1のON時間:t1、一次側コントローラの1周期:tpを測定する。 - ②二次側MOSFET最大ON時間tMAX_ONを設定
⇒tMAX_ON設定によって連続モードでの重負荷時、一次側と二次側のMOSFET同時ON動作による破壊を防止。 - ③ICの選択
⇒下記式より必要な強制OFF時間tOFFを算出し、シリーズから選択します。
これは、連続モード動作における強制OFF時間の算出方法です。連続モード動作を行わない場合の算出方法は後述するので。そちらを参照願います。
以下、各手順の詳細です。
①置き換え前の整流ダイオードDOUTに発生する逆方向電圧VR、順方向電流IFの波形確認
②二次側MOSFET最大ON時間tMAX_ONを設定
ICのMAX_TON端子で、最大ON時間tMAX_ONを設定します。DRAIN端子電圧がVCC(=出力電圧VOUT)×1.4V Typ以上の立ち上がりエッジを検出した場合、最大ON時間のカウントを開始します。そして抵抗RTONで設定した最大ON時間tMAX_ONが経過すると、強制的に二次側MOSFET M2をOFFにします。
最大ON時間tMAX_ONは、下図が示すように一次側コントローラの1周期tpよりも、必ず短くなるよう設定を行う必要があります。抵抗RTONは56k~300kの範囲で設定可能で、tMAX_ONはその抵抗値に比例します。また、設定するtMAX_ONが10μsec(RTON=100kΩ)に近いほど精度は向上します。下記グラフを参照してください。
一次側コントローラがPWM制御方式の場合、バラつきを考慮したRTONの値は式で求められます。
今回の設計事例では、FMAX=130 [kHz]、⊿FMAX=5 [%]、⊿tMAX_ON=7 [%]、⊿RTON=1 [%]より、RTONは下記のようになります。
この設計事例ではRTONを68kΩ以下で設定することになります。ただし、この式は理想状態であるため、実機での十分な動作確認が必要です。RTONを68kΩとすると、tMAX_ONは下記式から6.8μsecと算出されます。
③ICの選択
①で測定した一次側MOSFET M1のON時間t1、一次側コントローラの1周期tp、また②で算出した最大ON時間tMAX_ONから、必要な強制OFF時間tOFFは以下の式で求めることができます。
上記の算出結果に対してバラつきを考慮し、強制OFF時間tOFFが2μsec(Typ.)の「BM1R00147F」を選択します。下表に、BM1R001xxFシリーズの強制OFF時間tOFFを示します。なお、強制OFF時間バラつきは±9%になります。また、この式は理想状態であるため、実機での十分な動作確認を行って設定する必要があります。
例として、BM1R00147F、RTON=68kΩ時の連続動作(重負荷時)二次側同期整流動作波形を示します。tMAX_ON経過後にVGS2はOFFになり、tOFFの後に再度ONになるのが確認できます。
これで、既存電源の同期整流化に最適なICを選択することができます。この事例は連続モード動作を前提にしていますが、既存電源が連続モード動作をしない場合と一次側コントローラがジッター機能を備えている場合の検討を参考まで記します。
※連続モード動作を行わない場合の強制OFF時間算出方法およびMAX_TON端子の設定
不連続モードの場合は、MAX_TON端子設定の有無にかかわらず、同期整流動作は同じになります。また、VDS2が-6mV(Typ.)になると、VGS2はオフします。
※一次側コントローラがジッター機能を搭載している場合
一次側コントローラがジッター機能を搭載している場合の、バラつきを考慮したRTONの設定は下記の式に基づきます。
先に示した連続モード時の式に対して、分母に一次側ジッター周波数:FJITTER [kHz]が加算されます。
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