AC-DC コンバータ|設計編
主要部品選定:スナバ回路関連部品
2018.03.13
この記事のポイント
・入力におけるトランスのリーケージインダクタンスに起因するサージを抑制するためにスナバ回路を組み込む。
・スナバ回路はRCDの構成が基本だが、より高い保護のためにTVSダイオードを追加することができる。
今回は、電源IC BD7682FJの機能設定部品ではなく、電源回路にはよく利用するスナバ回路の構成部品と定数について説明します。スナバ回路は今回の擬似共振コンバータに限らず、別章で例示したフライバックコンバータにも用います。本項と合わせて、「絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-CINとスナバ」、「絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの動作とスナバ」も参照ください。
スナバ回路とは
スナバ回路はサージを抑制する回路です。この例では入力のサージ抑制のために入力に設けますが、出力に用いることもあります。入力はトランスの一次側に接続するため、トランスのリーケージインダクタンスにより、MOSFETがオンからオフになった瞬間に大きなサージ電圧(スパイクノイズ)が発生します。このサージ電圧は、MOSFETのドレイン-ソース間に印加されるため、発生するサージ電圧がMOSFETの耐圧を超えるとMOSFETが破壊する可能性があります。これを防止するためにRCD(抵抗、コンデンサ、ダイオード)によるスナバ回路を挿入し、サージ電圧を抑制します。ほとんどのケースでこのサージは発生するので、最初からスナバ回路を設けることを推奨します。
スナバ回路:Rsnubber1、Csnubber1、およびD13、D14、D15、D16
この例に使うスナバ回路は、抵抗Rsnubber1、コンデンサCsnubber1、そしてダイオードD13、D14、D15、D16で構成されており、D15とD16を除けば典型的なRCDスナバ回路です。最初にクランプ電圧およびクランプリップル電圧を決定し、R、C、Dの順で定数を決めていきます。
ここで、リーケージインダクタンスLleak=Lp×10%=1750μH×10%=175μHとします。
以下の式より、Po=25W、VIN(max)=900V時のIpとfswを算出します。
これにより、
fswが161kHzから120kHzになっているのは、以前説明したのと同じで、電源ICの最大スイッチング周波数が120kHzであるためです。Rsnubber1は、計算結果の253kΩより小さな値なので200kΩとします。
Rsnubber1の損失P_Rsnubber1は、以下の式で計算できます。
マージンを考慮して、2W以上とします。結果として、Rsnubber1は2Wの200kΩとします。
3)Csnubber1
Csnubber1の静電容量は以下の式で計算します。
1607pFより大きな容量ということで2200pFを選択します。
Csnubber1の耐圧は、Csnubber1に印加される電圧は、VclampからVIN(MAX)を差し引いた電圧、1360V-900=460Vから、マージンを考慮して600V以上とします。今回は、2200pF、2kV、10%、X7R、1210パッケージのセラミックコンデンサを使用します。
4)D13、D14
4つのダイオードのうちD13とD14は、ファストリカバリーダイオードを使用します。耐圧は、MOSFETのVds(max)=1700V以上の電圧にします。今回は汎用のUF4007(1000V、1A)を2個直列に使います。
サージ電圧は、トランスのリーケージインダクタンスの他に、基板薄膜配線の寄生成分の影響も受けるので、実機の基板に組み込んだ状態でVdsを確認し、実際の電圧に応じてスナバ回路の調整を行う必要があります。
5)D15、D16
これらのダイオードは、サージ吸収素子であるTVS(トランジェントボルテージサプレッサ)ダイオードです。より高い保護性能を求める場合には、TVSを追加して過渡的なスパイクノイズをクランプすることができます。MOSFETスイッチング時の波形を確認して、使用するかどうか決定します。この部分にかかる計算上の電圧はCsnubber1に印加される電圧と同じ460Vであることから、クランプ電圧274Vの1.5KE200Aを2個直列に使い、これ以上の過渡電圧をクランプします。
AC-DC コンバータ
- 基礎編
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設計編
-
AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
- 絶縁型フライバックコンバータの基本とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:スイッチングAC-DC変換とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの特徴とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの動作とスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:不連続モードと連続モードとは
- 設計手順
- 電源仕様の決定
- 設計に使うICの選択
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(数値算出)
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-CINとスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-出力整流器とCout
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICのVCC関連
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICの設定、その他
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:EMI対策および出力ノイズ対策
- 基板レイアウト例
- AC-DC PWM方式フライバックコンバータ設計手法 ーまとめー
- AC-DC 非絶縁型バックコンバータの設計事例概要
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AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計
- 設計手順
- 設計に使うIC
- 電源仕様と置き換え回路
- 同期整流回路部:同期整流用MOSFETの選定
- 同期整流回路部:電源ICの選択
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-MAX_TON端子のC1とR3、およびVCC端子
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-DRAIN端子のD1、R1、R2
- シャントレギュレータ回路部:周辺回路部品の選定
- トラブルシューティング①:二次側MOSFETがすぐにOFFしてしまう場合
- トラブルシューティング ②:軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合
- トラブルシューティング ③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
- ダイオード整流と同期整流の効率比較
- 実装基板レイアウトに関する注意点
- AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計 ーまとめー
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SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例
- 設計に使う電源IC:SiC-MOSFET用に最適化
- 設計事例回路
- トランスT1の設計 その1
- トランスT1の設計 その2
- 主要部品選定:MOSFET Q1
- 主要部品選定:入力コンデンサおよびバランス抵抗
- 主要部品選定:過負荷保護ポイントの切り替え設定抵抗
- 主要部品選定:電源ICのVCC関連部品
- 主要部品選定:電源ICのBO(ブラウンアウト)ピン関連部品
- 主要部品選定:スナバ回路関連部品
- 主要部品選定:MOSFETゲートドライブ調整回路
- 主要部品選定:出力整流ダイオード
- 主要部品選定:出力コンデンサ、出力設定および制御部品
- 主要部品選定:電流検出抵抗および各検出用端子関連部品
- 主要部品選定:EMIおよび出力ノイズ対策部品
- 基板レイアウト例
- 事例回路と部品リスト
- 評価結果:効率とスイッチング波形
- SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例 ーまとめー
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AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
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