AC-DC コンバータ|設計編
設計に使う電源IC:SiC-MOSFET用に最適化
2017.06.13
この記事のポイント
・電源用ICを使った設計でSiC-MOSFETを使うには専用の電源用ICが必要。
・SiC-MOSFETとSi-MOSFETのゲートドライブ電圧VGSは異なる。
・設計にはSiC-MOSFET駆動用AC-DCコンバータ制御ICであるBD7682FJ-LBを使う。
設計にあたって、最初に設計に使う電源ICについて説明します。「はじめに」に記したように、この章では、「疑似共振コンバータ」の設計と、パワートランジスタに「SiC-MOSFET」を使うという新しい2つの課題があります。したがって、設計に使う電源ICは、SiC-MOSFETをスイッチとして使うことができる疑似共振コンバータICになります。
電源用ICを使った設計でSiC-MOSFETを使うには専用の電源用ICが必要
設計に使う電源ICは、ロームの「BD7682FJ-LB」というICです。BD7682FJ-LBは、AC-DCコンバータ用の疑似共振コントローラで、SiC-MOSFETをドライブするために最適化された世界初*のICです。(*2015/3/25時点)
ここで、お気づきかと思いますが、SiC-MOSFETをスイッチに使うには、SiC-MOSFETをスイッチに使うために設計された電源用ICが必要です。これは、SiC-MOSFETのゲートドライブは、Si-MOSFETと同じではないことを意味しています。すぐに「何が違う?」という疑問がわくと思いますので、電源ICの説明に入る前に、SiC-MOSFETとSi-MOSFETのゲートドライブの違いを先に説明します。
主な違いは、SiC-MOSFETはドライブ時のVGSが若干高く、内部ゲート抵抗が高めなので外付けゲート抵抗Rgは小さな値を使用する、という点です。Rgについては外付け抵抗なので回路設計の範疇になります。しかし、ゲートドライブ電圧はICの仕様に依存することがほとんどなので、方法がないわけではないのですが、SiC-MOSFET用に最適化された電源ICを選択するのが良策だと思います。
具体的には、一般的なIGBTやSi-MOSFETのドライブ電圧はVGS=10V~15Vで、電源ICも、例えば「AC-DC PWM方式フライバックコンバータ設計手法」で使ったAC-DCコンバータ用PWMコントローラIC:BM1P061FJのゲートドライブ電圧(OUT端子H電圧)は、10.5V(min)~14.5V(max)で、typは12.5Vという仕様になっています。
それに対して、SiC-MOSFETはVGSが20V以上で徐々に飽和するため、VGS=18V前後でのドライブが推奨されています。今回使うBD7682FJ-LBのゲートドライブ電圧(OUT端子クランプ電圧)は、16.0V(min)~20.0(max)で、typは18.0Vです。
以下のグラフは、BM1P061FJでの設計に使ったN-ch 800V 5AのSi-MOSFET:R8005ANX(左)と、今回使うN-ch 1700V 3.7AのSiC-MOSFET:SCT2H12NZ(右)のオン抵抗 vs VGS特性です。上記ICのゲートドライブ電圧が、それぞれのMOSFETが飽和する手前ぐらいのVGSになっているのがわかると思います。
この比較は、同等の仕様および条件ではないので、上述のVGSの違いをイメージするためのものとしてください。
設計に使う電源IC:SiC-MOSFET駆動用AC-DCコンバータ制御IC:BD7682FJ-LB
先の説明で、BD7682FJ-LBがSiC-MOSFET用として最も重要な点は理解いただけたと思いますので、ここからは概要と特長を説明します。
<特長>
- ・小型8ピンSOP-J8パッケージ
- ・低EMI疑似共振方式
- ・周波数低減機能
- ・低スタンバイ時消費電流:19uA
- ・低無負荷時消費電流(軽負荷時バースト動作)
- ・最大周波数(120kHz)
- ・CS端子Leading-Edge Blanking
- ・VCCのUVLOおよびOVP保護
- ・サイクルごとの過電流保護回路
- ・ソフトスタート
- ・ZTトリガマスク機能およびOVP保護
- ・入力減電圧保護機能(ブラウンアウト)
- ・SiC-MOSFET用ゲートクランプ回路
<重要特性>
- ・動作電源電圧範囲(VCC):15.0V~27.5V
- ・通常動作電流: 0.80mA(typ.)
- ・バースト時動作電流: 0.50mA(typ.)
- ・最大発振周波数: 120kHz(typ.)
- ・動作温度範囲: -40℃~105℃
主たる特長は、SiC-MOSFET用であることと疑似共振方式です。疑似共振方式はソフトスイッチング動作によってPWM方式と比較して低ノイズで、高効率でEMIの低減が可能です。
また、690VACという高電圧でも動作可能な保護機能を多数搭載しており、広範な産業機器アプリケーションに対応できます。電源電圧端子の過電圧保護、入力電圧端子ブラウンイン・ブラウンアウト(低電圧入力動作禁止機能)、過電流保護、二次側電圧過電圧保護などを搭載しています。
SiC-MOSFETは高耐圧アプリケーションにおいて、Si-MOSFETと比較して、スイッチング損失および導通損失が少ない、温度による特性変動が小さいといった利点があります。この利点により、電力変換の高効率化、放熱器の小型化、高周波動作によるトランスやコンデンサの小型化など、近年の重要課題である省電力化と小型化に有用です。
右の図は、AC-DCコンバータにおけるSiC-MOSFETとSi-MOSFETの効率比較です。図が示す通り、最大6%の効率改善が期待できます。
また、今回使うBD7682FJ-LBの他に、FB端子過負荷保護、VCC端子過電圧保護の機能により3機種のバリエーションがあります。
FB端子OLP | VCC端子OVP | |
---|---|---|
BD7682FJ-LB | AutoRestart | Latch |
BD7683FJ-LB | Latch | Latch |
BD7684FJ-LB | AutoRestart | AutoRestart |
BD7685FJ-LB | Latch | AutoRestart |
最後に、特性や性能には直接関係ないのですが、これらは産業機器市場に向けた長期供給保証対応製品です。優れた性能と産業機器に必要な保護機能など備えた電源ICですので、こういったサポートも大事なポイントだと思います。
次回は、疑似共振方式について説明を予定しています。
AC-DC コンバータ
- 基礎編
-
設計編
-
AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
- 絶縁型フライバックコンバータの基本とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:スイッチングAC-DC変換とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの特徴とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの動作とスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:不連続モードと連続モードとは
- 設計手順
- 電源仕様の決定
- 設計に使うICの選択
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(数値算出)
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-CINとスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-出力整流器とCout
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICのVCC関連
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICの設定、その他
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:EMI対策および出力ノイズ対策
- 基板レイアウト例
- AC-DC PWM方式フライバックコンバータ設計手法 ーまとめー
- AC-DC 非絶縁型バックコンバータの設計事例概要
-
AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計
- 設計手順
- 設計に使うIC
- 電源仕様と置き換え回路
- 同期整流回路部:同期整流用MOSFETの選定
- 同期整流回路部:電源ICの選択
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-MAX_TON端子のC1とR3、およびVCC端子
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-DRAIN端子のD1、R1、R2
- シャントレギュレータ回路部:周辺回路部品の選定
- トラブルシューティング①:二次側MOSFETがすぐにOFFしてしまう場合
- トラブルシューティング ②:軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合
- トラブルシューティング ③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
- ダイオード整流と同期整流の効率比較
- 実装基板レイアウトに関する注意点
- AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計 ーまとめー
-
SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例
- 設計に使う電源IC:SiC-MOSFET用に最適化
- 設計事例回路
- トランスT1の設計 その1
- トランスT1の設計 その2
- 主要部品選定:MOSFET Q1
- 主要部品選定:入力コンデンサおよびバランス抵抗
- 主要部品選定:過負荷保護ポイントの切り替え設定抵抗
- 主要部品選定:電源ICのVCC関連部品
- 主要部品選定:電源ICのBO(ブラウンアウト)ピン関連部品
- 主要部品選定:スナバ回路関連部品
- 主要部品選定:MOSFETゲートドライブ調整回路
- 主要部品選定:出力整流ダイオード
- 主要部品選定:出力コンデンサ、出力設定および制御部品
- 主要部品選定:電流検出抵抗および各検出用端子関連部品
- 主要部品選定:EMIおよび出力ノイズ対策部品
- 基板レイアウト例
- 事例回路と部品リスト
- 評価結果:効率とスイッチング波形
- SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例 ーまとめー
-
AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
- 評価編
- 製品紹介
- 動画
- FAQ