AC-DC コンバータ|設計編
主要部品の選択:電流検出抵抗 R1
2016.09.13
この記事のポイント
・事例回路が必要とするスイッチ電流制限抵抗R1を求める。
・R1の算出には、インダクタ L1算出時の数値が必要となる。
今回で「主要部品の選択」は3回目になります。事例回路では、スイッチング電流の制限を主目的とした電流検出抵抗を必要とします。電流検出抵抗の選定は、前回の「インダクタ L1」と深くつながっています。
電流検出抵抗:R1
右の回路図は事例の抜粋です。内蔵MOSFETのソースから出力に至るラインに電流検出抵抗R1が直列にはいります。R1はスイッチング電流を制限し、出力の過負荷に対する保護を与えるのと、電流モード制御のスロープ補償にも兼用されます。
スロープ補償は、電流モードの降圧コンバータの高調波(サブハーモニック)発振に対する方策としてよく知られた手法です。近年のほとんどの電流モード降圧コンバータは、スロープ補償回路を搭載しており、抵抗などのわずかな外付け部品で補償が成立するようになっています。この回路に使われている電源IC BM2P094Fも同様でR1を利用しています。
高調波発振は発振周波数の整数倍の周期で発振する現象で、連続モード状態でデューティーサイクルが 50%以上になると発生する恐れがあります。
電流検出抵抗 R1の算出
電流検出抵抗 R1は、以下の式により算出します。この計算には、前回の「インダクタ L1」の算出に使ったいくつかの式と値が必要になります。また、電源IC BM2P094F固有の過電流リミッタ特性の情報も必要になります。すでに計算式には該当の数値が代入され、解が導き出されています。
各項について説明して行きます。R1は、このIC内部の過電流リミッタ電圧 Vcs_limitを、インダクタのピーク電流 IL(Ip)で割った値になります。Vcs_limitを展開すると、Vcsのベースは0.4Vで、過電流を検出してからある遅延時間に比例した電圧の上昇が追加されたものになります。右上のグラフがICのデータシートに示されており、CS_limit電圧は遅延時間1μsに対して20mV増加することわかります。このことから、上記算出式の分子の「0.4V」はベースの電圧、「20mV/μs」は増加率です。そして過電流検出からの遅延時間は、スイッチオン時間の最大 ton(max)を使います。
ton(max)は、前回のインダクタンスを算出するときに以下の式から計算済みです。
分母のインダクタピーク電流 ILも同様に、前回求めた、最大出力電流 Iomax = 0.2A×1.2 = 0.24A、そしてピークインダクタ電流 Ip = Iomax×2 = 0.48A を使います。
実際の計算は、3.3×20mV = 66mV に 0.4V を足した0.466Vを0.48Aで割ります。オームの法則通りで、抵抗値は0.97Ω、丸めて1Ωを選択します。
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