AC-DC コンバータ|設計編
電源ICの選択と設計事例
2016.05.17
この記事のポイント
・電源仕様を満足する電源ICを選択することが設計の開始になる。
・絶縁型との回路の違いを理解する。
非絶縁型AC-DCコンバータ設計に関連して、基本動作の確認などを終えましたので、ここからは実際の設計に入ります。最初にこの設計に使う電源ICを選択します。他の章でも何度か説明しましたが、電源メーカーは別にして、電源回路の設計には電源ICを利用することになると思います。したがって、電源に対する要求仕様を満たすために、どのような電源ICを使うのかということが非常に重要になってきます。
設計に利用する電源IC
電源ICを選択するには、電源の入出力電圧や負荷電流などが決まっていることが前提です。これは今回取り上げた非絶縁型でも、このAC-DC設計編で最初に取り上げた絶縁型フライバックコンバータでも、アプローチは同じです。この章は、先の絶縁型フライバックコンバータの設計に対して、非絶縁型バックコンバータの設計の違いを理解することを目的にしているので、前段階の詳細については、「AC-DC設計編:AC-DC PWM方式フライバックコンバータ設計手法」の「設計手順」、「電源仕様の決定」「ICの選択」を参照願います。
さて、ここでは簡単に今回の設計に関する入力条件と出力条件だけを示しておきます。
・入力電圧:90VAC~264VAC
・出力:20V/0.2A (4W)
これらをベースにして、必要とされる効率や関連する様々な機能、そして保護機能などを考慮した前提で、以下の電源ICを利用したバックコンバータを設計することにします。
<BM2P094F:650V MOSFET内蔵AC-DCコンバータ用IC>
■ 特長
- ・650V スイッチングMOSFET内蔵
- ・650V 起動回路内蔵
- ・PWM 周波数65kHz
- ・周波数ホッピング機能
- ・電流モード方式
- ・軽負荷時バースト動作 / 周波数低減機能
- ・VCC 端子 低電圧保護 / 過電圧保護
- ・SOURCE端子オープン保護 / ショート保護
- ・SOURCE端子Leading-Edge-Blanking機能
- ・サイクルごとの過電流リミッタ機能
- ・過電流リミッタAC補正機能
- ・ソフトスタート機能
- ・絶縁、非絶縁の両方に対応
- ・2次側過電流保護(絶縁構成の場合)
-
- ・動作電源電圧範囲
- VCC:8.9V~26.0V
- DRAIN: ~ 650V
-
- ・動作電流
- 通常時:0.50mA (Typ.)
- バースト時:0.40mA(Typ.)
-
- ・動作温度範囲
- -40℃ ~ +105℃
- ・パッケージ:SOP8 4.90mm×3.90mm
- ・MOSFET ON 抵抗:8.5Ω(Typ.)
- ・最大出力電力:5W
■ アプリケーション
ACアダプタ、TV、各種家電(掃除機,加湿器,空気清浄機、エアコン、冷蔵庫、IHクッキングヒーター、炊飯器など.)
また、以下はこのICを選択したポイントになりますが、別の言い方をすれば、ICを選択する際の勘どころともいえます。
- ①非絶縁回路に対応している。
- ②スイッチングMOSFETを内蔵しているので、
選択の手間が省け、部品点数も減る。 - ③入出力仕様が電源仕様をカバーする。
- ④制御の安定化が容易な電流モードタイプ
- ⑤起動回路内蔵、低消費電力タイプ
- ⑥軽負荷時にも高効率を維持するための機能を搭載
- ⑦保護機能が充実
- ⑧小型パッケージで、5Wが可能(要求仕様は4W)
参考までにこのICの内部回路ブロック図を示します。ただし、外部回路例は絶縁型のフライバックコンバータになっています。後に示す今回の回路である非絶縁型バックコンバータと比較してみてください。
非絶縁型バックコンバータ(不連続モード)の設計事例
続いて以下の回路図が、今回の非絶縁型バックコンバータの回路事例となります。
先に記したように、入力電圧は90VAC~264VAC、出力は20V/0.2A(4W)です。AC入力はダイオードブリッジにより整流され、直接ICに内蔵されているMOSFETによりスイッチングされます。そして、D4により再度整流が行われ、L1とC5により平滑されDC出力になります。安定化のための出力電圧の帰還はオプトカプラを介しますが、見ての通り入力と出力を絶縁するものはありません。
また、動作としては不連続モードをします。これは、前項「 バックコンバータの基本動作および不連続モードと連続モード」で説明したように、比較的出力電力の小さいAC-DCバックコンバータでは一般的です。
次回からは、この回路を構成する主要部品の選択と定数計算の解説に入ります。
【資料ダウンロード】非絶縁型バックコンバータの設計事例
AC-DC コンバータ
- 基礎編
-
設計編
-
AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
- 絶縁型フライバックコンバータの基本とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:スイッチングAC-DC変換とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの特徴とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの動作とスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:不連続モードと連続モードとは
- 設計手順
- 電源仕様の決定
- 設計に使うICの選択
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(数値算出)
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-CINとスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-出力整流器とCout
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICのVCC関連
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICの設定、その他
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:EMI対策および出力ノイズ対策
- 基板レイアウト例
- AC-DC PWM方式フライバックコンバータ設計手法 ーまとめー
- AC-DC 非絶縁型バックコンバータの設計事例概要
-
AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計
- 設計手順
- 設計に使うIC
- 電源仕様と置き換え回路
- 同期整流回路部:同期整流用MOSFETの選定
- 同期整流回路部:電源ICの選択
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-MAX_TON端子のC1とR3、およびVCC端子
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-DRAIN端子のD1、R1、R2
- シャントレギュレータ回路部:周辺回路部品の選定
- トラブルシューティング①:二次側MOSFETがすぐにOFFしてしまう場合
- トラブルシューティング ②:軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合
- トラブルシューティング ③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
- ダイオード整流と同期整流の効率比較
- 実装基板レイアウトに関する注意点
- AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計 ーまとめー
-
SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例
- 設計に使う電源IC:SiC-MOSFET用に最適化
- 設計事例回路
- トランスT1の設計 その1
- トランスT1の設計 その2
- 主要部品選定:MOSFET Q1
- 主要部品選定:入力コンデンサおよびバランス抵抗
- 主要部品選定:過負荷保護ポイントの切り替え設定抵抗
- 主要部品選定:電源ICのVCC関連部品
- 主要部品選定:電源ICのBO(ブラウンアウト)ピン関連部品
- 主要部品選定:スナバ回路関連部品
- 主要部品選定:MOSFETゲートドライブ調整回路
- 主要部品選定:出力整流ダイオード
- 主要部品選定:出力コンデンサ、出力設定および制御部品
- 主要部品選定:電流検出抵抗および各検出用端子関連部品
- 主要部品選定:EMIおよび出力ノイズ対策部品
- 基板レイアウト例
- 事例回路と部品リスト
- 評価結果:効率とスイッチング波形
- SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例 ーまとめー
-
AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
- 評価編
- 製品紹介
- 動画
- FAQ