AC-DC コンバータ|設計編
絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(数値算出)
2014.09.30
この記事のポイント
・基本的に設計する回路に適合するトランスの設計は必要になる。
・トランス設計を面倒がるエンジニアが多いが、ICメーカーやトランスメーカのサポートを利用できる。
フライバックコンバータには必須のトランスの設計のうち、電源仕様に基づいてトランス設計に必要な数値算出から始めます。基本的にはそれぞれに示す式に則って計算します。関連するトランスの設計情報は、この設計に使うIC1のBM1P061FJのアプリケーションノートなどに示されていますので、合わせて参考にしてください。ここでは、わかりやすいように説明する部分の回路図を拡大して示します。回路全体については、「設計事例回路」の項を参照願います。
この回路図は、事例回路のトランスT1部分の抜粋です。トランスT1は入力の一次巻線Npと出力になる二次巻線Nsの他にIC1のVCC電圧を生成する巻線Ndを含んでいます。
トランスT1の設計手順
トランスT1を設計する際の手順を示します。以下の順で数値を算出して、下の表にあるトランスのパラメータを導き出します。巻線や流れる電流の記号は、右下のトランスの略図を参照してください。
①フライバック電圧VORの設定
②二次側巻線インダクタンスLs、二次側の最大電流Ispkの算出
③一次側巻線インダクタンスLp、一次側の最大電流Ippkの算出
④トランスサイズの決定
⑤一次側巻線数Npの算出
⑥二次側巻線数Nsの算出
⑦VCC巻線数Ndの算出
トランスT1のパラメータとして導き出す値
コア | サイズ |
---|---|
Lp | インダクタンス |
Np | 巻数 |
Ns | 巻数 |
Nd | 巻数 |
① フライバック電圧VORの設定
フライバック電圧VORは、VO(二次側Voutに、二次側ダイオードD6のVFを加えたもの)にトランスの巻線比Np:Nsを掛けた値です。このフライバック電圧VORを設定することによって、巻数比Np:NsおよびDuty比が決まります。基本式と例を示します。
例では、巻数比Np:Nsは5.385、Duty(max)は0.424となります。Duty(max)は経験則から0.5以下が望ましい値です。もし、計算上でDutyが0.5を超える場合はVORを調整してください。
フライバックコンバータの動作原理から考えていくと、一次巻線に印加されるスイッチングトランジスタのVds、つまりVIN+VORを明確にするために、フライバック電圧VORの設定をスタートとしました。別の方法としては、最大Duty比を先に設定してスタートすることも可能です。
フライバック回路の動作と各電圧の詳細については、「フライバックコンバータの基本回路と特徴」の「PWM制御フライバックコンバータの動作(連続モード)」の項を参照してください。
② 二次側巻線インダクタンスLs、二次側の最大電流Ispkの算出
続いて、二次側巻線インダクタンスLsと、二次側の最大電流Ispkを算出します。以下の式がこの事例回路の条件である不連続モードの条件になり、イコールの時が臨界点(連続モードと不連続モードの分岐点)になります。負荷電流がIomaxの時に臨界点になるようにします。
最大負荷電流は、過負荷保護ポイントなどのマージンを考慮してIoutの1.2倍とします。Ioutの仕様は3Aですので、3.6AをIomaxとします。Vout=の仕様は12V、VFとDutyは①で計算した値を用います。
上記から、二次側巻線インダクタンスLs=8.6μHと、二次側の最大電流Ispk=12.5Aが算出されました。参考までに、一次側電流波形と二次側電流波を示します。
③ 一次側巻線インダクタンスLp、一次側の最大電流Ippkの算出
次に以下の式に則り、上記の計算結果も用いて、一次側巻線インダクタンスLpと一次側の最大電流Ippkを算出します。
ここで、算出されたLpは、トランスT1のパラメータとして導き出す値の一つです。
④ トランスサイズの決定
トランスコアのサイズは出力電力Po(W)に基づき決定します。フライバックコンバータの一般的な出力電力とコアサイズの関連を以下の表に示します。この設計事例ではPo=36Wとしましたので、コアサイズはEER28を選択します。
出力電力Po(W) | コアサイズ | コア断面積Ae(mm2) |
---|---|---|
~ 30 | EI25/EE25 | 41 |
~ 60 | EI28/EE28/EER28 | 84 |
※上記の値はおおよその目安です。詳細はトランスメーカーに確認してください。
⑤ 一次側巻線数Npの算出
一次巻線数Npは、最初に磁束密度が許容範囲内になるように設定する必要があります。以下の式に基づきます。一般的なフェライトコアの磁束密度B(T)の最大値は、0.4T@100℃となっているのでBsat=0.35Tとして、LpとIppkを代入すると一次巻線数Npが求まります
次に、磁気飽和を起こさないように、AL-Value-NI特性からNpを設定します。この時、Bsatの条件式を満足している必要があります。
AL-Value=280nH/turns2とすると、
これは、Lpが249μHで30ターンのAL-Valueは、249μH/302≒276.7nH/turns2であることを示しています。
NI値は、次の式から求まります。
AL-ValueとNIが求まりましたので、EER28のコアサイズのAL-Value-NI特性のグラフから、許容範囲であることを確認します。もし範囲外であれば、Npを調整します。
⑥ 二次側巻線数Nsの算出
一次巻線の算出に続き、二次側巻線数Nsを算出します。一次巻線Npは34ターン、Np:Nsは5:1であることはすでに算出済ですので、これらの値を以下の式に代入します。
⑦ VCC巻線数Ndの算出
最後にIC1のVCCを発生させる巻線の巻き数を算出します。
VCCは15V、巻線からはダイオードD6を介すので、このダイオードのVFをしてVF_vccを1Vとすると、
これで、トランスの仕様を決める数値が算出されました。最初に示した仕様表に算出した数値を入れます。この仕様をもとに構造設計をします。
コア | JFE MB3 EER28.5A または互換品 |
---|---|
Lp | 249 μH |
Np | 30 ターン |
Ns | 6 ターン |
Nd | 8 ターン |
全体としては式が多い印象があるかと思いますが、比較的簡単式ですので是非ともトライしてください。大まかな仕様が決まればICメーカーやトランスメーカーのサポートを受けながらトランス設計を進めることができるかと思います。
【資料ダウンロード】PWM方式フライバックコンバータ設計手法
AC-DC コンバータ
- 基礎編
-
設計編
-
AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
- 絶縁型フライバックコンバータの基本とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:スイッチングAC-DC変換とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの特徴とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの動作とスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:不連続モードと連続モードとは
- 設計手順
- 電源仕様の決定
- 設計に使うICの選択
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(数値算出)
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-CINとスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-出力整流器とCout
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICのVCC関連
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICの設定、その他
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:EMI対策および出力ノイズ対策
- 基板レイアウト例
- AC-DC PWM方式フライバックコンバータ設計手法 ーまとめー
- AC-DC 非絶縁型バックコンバータの設計事例概要
-
AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計
- 設計手順
- 設計に使うIC
- 電源仕様と置き換え回路
- 同期整流回路部:同期整流用MOSFETの選定
- 同期整流回路部:電源ICの選択
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-MAX_TON端子のC1とR3、およびVCC端子
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-DRAIN端子のD1、R1、R2
- シャントレギュレータ回路部:周辺回路部品の選定
- トラブルシューティング①:二次側MOSFETがすぐにOFFしてしまう場合
- トラブルシューティング ②:軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合
- トラブルシューティング ③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
- ダイオード整流と同期整流の効率比較
- 実装基板レイアウトに関する注意点
- AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計 ーまとめー
-
SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例
- 設計に使う電源IC:SiC-MOSFET用に最適化
- 設計事例回路
- トランスT1の設計 その1
- トランスT1の設計 その2
- 主要部品選定:MOSFET Q1
- 主要部品選定:入力コンデンサおよびバランス抵抗
- 主要部品選定:過負荷保護ポイントの切り替え設定抵抗
- 主要部品選定:電源ICのVCC関連部品
- 主要部品選定:電源ICのBO(ブラウンアウト)ピン関連部品
- 主要部品選定:スナバ回路関連部品
- 主要部品選定:MOSFETゲートドライブ調整回路
- 主要部品選定:出力整流ダイオード
- 主要部品選定:出力コンデンサ、出力設定および制御部品
- 主要部品選定:電流検出抵抗および各検出用端子関連部品
- 主要部品選定:EMIおよび出力ノイズ対策部品
- 基板レイアウト例
- 事例回路と部品リスト
- 評価結果:効率とスイッチング波形
- SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例 ーまとめー
-
AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
- 評価編
- 製品紹介
- 動画
- FAQ