AC-DC コンバータ|設計編
絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICの設定、その他
2015.02.16
この記事のポイント
・電源ICを使った設計では基本部品(ダイオードブリッジ、トランスなど)の他に、電源ICの機能設定などのために必要になる部品がある。
・電源ICのための部品の定数などは、データシート、アプリケーションノート、設計マニュアルなどの説明に従う。
・これらは保護回路の差動レベルや制限値などの設定用であることが多く、部品としては主に抵抗やコンデンサ。
ここでは、この設計に使用したスイッチング電源用制御IC BM1P061FJの設定用部品の選定について説明して行きます。AC-DCコンバータの回路には、電源回路としての基本部品、例えばダイオードブリッジやトランスなどの他に、電源ICの保護機能作動レベルや電流制限値などを設定するための部品が必要になります。すでにいくつか説明しましたが、ここでは残りの主要部品について説明します。
VH端子抵抗 R1
VH端子は、ICに搭載されている起動回路(Starter)の電源端子であり、650Vの耐圧をもった端子です。AC電源が入力されると、入力フィルタからダイオードD1とD2により整流された電圧がR1を通じてVH端子に印加され、IC内部の起動回路が動作します。これによって、ICはスイッチングを開始し出力からの帰還を得て定常動作に入ります。起動回路はあくまで起動のための動作をするもので、定常動作に入ると不要になるので起動後はアイドル状態になります。この回路があることで非常に高速かつ確実な起動が可能になっており、起動後はアイドル状態になるため電力消費を低減します。この機能は、類似のICすべてにあるわけではありません。
VH端子に流入する電流は、ICのVCC回路を構成するC2と共に起動時間を設定する機能も兼ねています(「主要部品の選定-ICのVCC関連」参照)。VH端子の流入電流は、データシートの「起動電流1」、「起動電流2」、「OFF電流」という項目で規定されており、最大値は5mAとなっています。
VH端子抵抗R1は、これらの要件とVH端子がGNDに短絡したときの保護(電流制限)を加味して定数を決定します。具体的には、VHに印加される電圧(85~264VAC×√2)とVH端子が必要とする5mA、短絡時の電流制限から、5kΩ~60kΩとします。この回路では10kΩを選択しています。
注意事項として、R1は高電圧(85~264VAC×√2)と抵抗値×電流分の電力を許容できる必要があります。
AC起動/停止電圧設定 R2、R3
この電源ICは、入力AC電圧が低下した場合に動作を停止する「ブラウンアウト機能」を搭載しています。起動および停止電圧はACMONI端子で設定します。
ACMONI端子は、電圧判定のしきい値をもっており、その標準値は上昇時1.0V、下降時0.7Vになっています。入力電圧はVH端子と同様にAC入力フィルタからダイオードD1とD2により整流された電圧で、AC入力電圧×√2のDC電圧です。これを、R2とR3により分圧しACMONI端子に入力することで、AC入力電圧を検出します。以下に計算式を示します。
経験則も含め、起動開始電圧を72VAC、AC電圧降下時に動作を停止する電圧を50VACとして計算すると、R2=3.9MΩ、R3=39kΩになります。
また、この機能を使わないことも可能で、その場合はACMONI端子の電圧が常に1V~5Vの間にあるように抵抗値を決めます。
その他の部品
C5:ACMONI端子のノイズ低減用コンデンサ
ノイズをバイパスして、起動/停止電圧を安定させます。
C4:FB端子の安定用コンデンサ
FB端子電圧を安定させます。1000pF~0.01μF程度を推奨します。
R10、C6:CS端子のノイズ対策
ブランキング機能でノイズが収まりきらない場合に、このRCフィルタを追加します。フィルタが不要の場合でも、サージ対策としてR10(1kΩ程度)を挿入することを推奨します。
R14、R15、R16:出力電圧設定抵抗
出力電圧は以下の式で設定します。
※ シャントレギュレータU2:Vref=2.495V(typ)
C9、R13:位相補償回路
帰還ループの位相を調整する回路です。
C9=0.1μF、R13=10k~30kΩ程度として、実機にて応答を確認して判断します。
R11:フォトカプラの電流制限抵抗
1k~2kΩとします。
R12:シャントレギュレータU2のカソード電流設定抵抗
U2 TL431の場合、1mAを確保します。
R12は、フォトカプラのVF/1mA=1V/1mA=1kΩとします。
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