AC-DC コンバータ|設計編
絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その1
2014.11.14
この記事のポイント
・スイッチングトランジスタ(MOSFET)は、主にドレイン-ソース間耐圧、ピーク電流、オン抵抗による損失、パッケージの許容損失を考慮して選定する。
・机上の計算だけでの厳密な選定は難しいので、経験則や実測が必要になる。
トランスの設計が終わり、次はスイッチング素子、ここではMOSFET Q1の選定と関連回路を構成していきます。
最初にスイッチ電圧や電流などからMOSFET Q1を選定します。これは、本稿「主要部品の選定-MOSFET関連 その1」で説明します。
次にMOSFETのゲートドライブを調整する回路、ダイオード D4、抵抗R5、R6を決めていきます。そして、電流制限とスロープ補償に必要な電流検出抵抗R8も決めます。これらは「主要部品の選定-MOSFET関連 その2」で説明します。
この部分の回路動作を説明します。ICのOUT(PWM出力)からの信号が、MOSFET Q1が適正に動作するように、D4、R5、R6で調整され、MOSFETのゲートを駆動します。MOSFET Q1は、トランス T1の一次側に入力された整流された高電圧をオン/オフし、そのエネルギーを二次側に伝達します。Q1がオンしたときにIdsが流れますが、無制限に流すわけにはいかないので、R8を使って電流を検出し、制限をおこないます。「絶縁型フライバックコンバータ回路設計」の項にある全体回路を参照してください。
MOSFET Q1の選定
最初に理解していただきたいのは、MOSFETの選定を机上の計算だけで行うのは困難なため経験則が必要になります。そして、最終的には実機を使って、どの程度のディレーティングが必要か確認してMOSFETを決定します。
MOSFETの選定において、基本的な検討事項は以下になります。
- 最大ドレイン-ソース間電圧(Vds)
- ピーク電流
- オン抵抗(Ron)による損失
- パッケージの最大許容損失(Pd)
経験則を持ち合わせていない場合、拠り所が何もないと選びようがないので、VdsとIdsの2つを検討します。
① Vds(max)
以下の式からVds(max)を求めることが可能。
Vds(max) = Vin(max)+VOR+Vspike
=264V×1.41+(12V+1V)×30/6+Vspike=437V+Vspike*
VOR:VO=Vout+VFにトランスの巻線比Np:Nsを掛けたもの 「トランス設計(数値算出)」を参照。
Vin(max):対応する最大AC電圧のピーク(264V×√2)
Vspike:スパイク電圧
*Vspikeは算出困難なため、この例題ではスナバ回路追加を前提に経験則から400V弱とする。
② Ids
Idsは目安として Ippk×2 程度のものを選定する。「トランス設計(数値算出)」より Ippk=2.32A
Ids=2.32×2=4.64A
これらから、Vds(max)は800V程度、Idsが5A程度のMOSFETを選定します。例題の回路では、ロームのR8005ANX(800V、5A)を選定しています。また、このMOSFETのオン抵抗は 1.6Ω、パッケージはTO-220Fです。
後は、このMOSFETを使って実際の回路でVds、Ids、そして発熱を測り、ディレーティングか十分か確認します。入力電圧が低い時には、MOSFETのオン時間が長くなり、オン抵抗Ron損失による発熱が大きくなるので、特にワールドワイド入力(AC85V~AC264V)の場合は注意が必要です。必要に応じて、ヒートシンクを使って放熱対策をします。
MOSFETのメーカーによっては、損失の測定方法や見極め方法を提示している場合があります。以下に例を示します。
・Tech Web Siパワーデバイス基礎編:実動作におけるトランジスタの適性確認
・ロームウェブサイト:トランジスタの選定 安全に使用するための選定方法
・ロームウェブサイト:ジャンクション温度 素子温度の計算方法
これで、MOSFETを選定することができました。ゲートドライブの調整回路と電流検出抵抗に関しては、「主要部品の選定-MOSFET関連 その2」にて説明します。
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