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AC/DC PWM方式フライバックコンバータ設計手法

絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その1

6A_ckt_t1前項の数値算出に続き、トランスT1の構造設計に入ります。普段、電子部品だけでの設計が多い人には、コアやホビン、巻線を組み合わせ、経験則的な要素も必要となるトランス設計は異世界のように感じるかもしれません。とはいっても、電源設計、特にAC/DCコンバータ、絶縁コンバータには重要な部品ですので、ここでは少なくても手順と必要な検討を理解していただければと思います。

トランスT1の構造設計は、以下の手順で進めていきます。

①ボビン選定
②有効巻枠の確認
③巻線構成決定
④沿面距離とバリアテープ
⑤線材の選定
⑥結線図、層構成、巻線仕様
⑦トランス仕様決定

この項では、「その1」として①~④までを、次回「その2」で⑤~⑦の説明を行います。

コア JFE MB3 EER28.5A または互換品
Lp 249μH
Np 30ターン
Ns 6ターン
Nd 8ターン

① ボビンの選定

ボビンには、図のように縦型、横型があります(コアサイズによってはどちらか一方のみのものもある)。高さと実装面積を考えて、選定することになります。

また、ピン数も考える必要があります。表に示されているのは、数値算出の項で算出した巻数です。これらの巻線を巻けるだけのピン数があるものを選びます。

6A_bobin

 

② 有効巻枠の確認

次に、ボビンの仕様から有効な巻枠を求めます。赤い矢印で示した図の斜線部分が実際に巻線を巻くことが可能なエリアになります。このエリアはボビンごとに異なりますので、使用するボビンの図面できちんと確認して下さい。

6A_bobin_fig6A_bobin_photo

写真は実物で、赤矢印部分が有効巻枠です。今回選択したコア、JFE EER28.5の場合は、J=16.6mm、H=4mmとなります。

③ 巻線構成決定

巻線構成は、トランスの特性に大きな影響を与えます。ここでは2つの構成を紹介します。

6A_bobin_1

<シンプルな構成>

  • 層数が少ない → コストメリットあり
  • 結合度が劣る → サージ電圧上昇、損失増加
  • ボビンピン数 → 少なくて済む
6A_bobin_2

<サンドイッチ巻構成>

  • 層数が少ない → 各巻線の厚さに注意
  • 結合度に優れる → サージ電圧軽減、損失減少
  • ボビンピン数 → 多くなる

左側は最もシンプルな構成になります。層数が少ない分コストメリットはありますが、各巻線とも1層しかないため、34ターンと巻数が多いNp巻線では一列に巻ききれなく、2列や3列に巻くことになるため結合度は劣ります。
ピン数は片側4ピンで済みます。この構成は、出力電力の小さい場合やボビンのピン数が片側4ピンという制約があるような場合に採用されます。

右側はサンドイッチ巻きと呼ばれている構成です。この構成は、1次巻線Np1とNp2で他の巻線を挟むことで、1次巻線と他の巻線の結合度が上がります。ただし、層数が増えますので巻枠の厚さが増え、ボビンのピン数は最低でも片側5ピンが必要になります。

巻線構成についてはこれが正解というものはありません。特性を追及する場合には、時間はかかりますがいくつか試作を作り、実際の基板レイアウトに他の部品と組み合わせてきちんとした回路を構成し、特性の確認を行いながら最適な仕様に落とし込んでいくことになります。

④ 沿面距離とバリアテープ

安全規格適合を考えた場合、トランスの一次-二次間の沿面距離によって絶縁を確保する必要があります。沿面距離は、動作電圧、使用環境の汚染度合、使用する材料群によって決められています。沿面距離を確保する手段のひとつとして、バリアテープが使われます。

トランスT1を安全規格IEC60950に準じて以下とした場合の沿面距離を求めます。

  • 動作電圧:300V
  • 汚染度合:2
  • 材料群:Ⅲa(CTI<400)
  • IEC60950に基づく必要な最低沿面距離
    基礎絶縁:3.2mm
    強化絶縁:6.4mm(基礎絶縁×2) ←今回の設計では強化絶縁とする
6A_tape
※今回の設計では入力電圧が約270Vなので、規格の区切りである250Vと300Vの値から線形補間が可能。

250V:2.5mm、300V:3.2mmより
270Vでは2.78mmとなり3mmとする。
強化絶縁では2倍の6mm。

※縦型ボビンを使う場合は、上部は引き出し線がないので、沿面距離を1/2、3mmにできる。

規格に関する用語がいくつか出てきたので、概略を記します。詳細は規格書で確認してください。

沿面距離は、汚染度とCTI値で決定される。

  1. 汚染度(Pollution Degree)は、機器が使用される空気中のほこりなどの汚染により1~4の段階に分類されている。
    • 汚染度1:汚染がないか、または乾燥した、非導電性の汚染のみが生ずるもの。この汚染は影響がない。クリーンルームなど、きれいな空気中での状態。
    • 汚染度2:通例、非導電性の汚染のみが生ずるもの。ただし、凝縮による一時的な導電性が予期されてもよい。制御盤内での電気機器及び家電、事務機の使用環境など。
    • 汚染度3:導電性汚染が生ずるか、または予期される凝縮によって導電性となる乾燥した、非導電性の汚染が生ずるもの。一般の工場内などの環境。
    • 汚染度4:汚染が導電性のほこり、または雨か雪などの原因により持続的な導電性を発生させるもの。屋外などの環境。
  2. CTI(Comparative Tracking Index)比較トラッキング指数
    • 塩化アンモニウムの0.1%溶液を30sに1滴滴下し、50滴滴下してもトラッキングの起きない最大電圧をCTI値という。
    • CTI値による成形材料の区分(IEC 60664-1)
      材料グループⅠ:CTIが600以上
      材料グループⅡ:CTIが400以上600未満
      材料グループⅢa:CTIが175以上400未満
      材料グループⅢb:CTIが100以上175未満

    ※Ⅲaのボビンの材料は、汎用的なPM9820/住友ベークライト(フェノール)で CTI < 400

「絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)その2」に続きます。

キーポイント

・数値算出に続き、具体的なトランス構造の設計に進む。
・数値算出に加え、おおよその構造設計ができれば、トランスメーカーなどの協力を得て
   最終化を促進することが可能。


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