奨学生レポート RMFレポート ミュージックサロン インタビュー

自主公演の意義(石原悠企さん)5/31

石原 悠企さん/Mr.Yuki Ishihara
(専攻楽器ヴァイオリン/violin)

[ 2022.07.8 ]

ベルリン芸術大学

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の石原悠企です。

日頃より多大なるご支援を頂き、心より感謝申し上げます。

 

今回のレポートでは、演奏家自らが企画・主催する公演、所謂「自主公演」について所見を述べたいと思います。

 

<東京での自主公演終演後の様子>

 

 

限られた売れっ子の演奏家ならともかく、一般的な駆け出しの音楽家にとって、ソロや室内楽リサイタルの出演依頼は中々貰えるものではありません。

ソナタや室内楽を勉強しても、学内演奏会など限られた機会しか人前で披露できない-それも1曲のみ、時には1つの楽章しか弾くことが許されない場合もあります。

魅力的な作品が沢山あるのに演奏することが叶わない、そんな状況に耐えられず私が自主公演を始めたのは高校3年生の頃でした。

 

<東京での自主公演リハーサルの様子>

 

 

自分一人で、もしくは友人と共に公演を企画・主催することは、多くの労力を費やします。

ホールの予約から、フライヤー、チケット、プログラム作成、宣伝活動、更に当日スタッフの確保や、それらの経理まで行う必要が出て来ます。

それだけ苦労しても所詮はただの演奏家、興行のプロでもないため黒字なんて微々たるもの。

羽振りの良いオーケストラ等の仕事と比べると費用対効果には大きな差があります。

 

それらの理由から、自主公演を仕事の主軸として生活することが難しいのは事実だと思います。

風潮として、自主公演を開催するのは「売れない音楽家が行うもの」だと認知されている節があるのも理解できます。

しかし、私は自主公演の開催それ自体には意義を感じます。

その主な理由は3つあります。

 

 

1つ目は、自分で自由にプログラムを決められる所です。

勉強・演奏したい作品を取り上げられることは音楽を愛する人間にとって至上の喜びであり、自主公演ほどプログラムの自由度が高い機会は中々ありません。

例として、私が最近行った公演ではシェーンベルクの『浄夜』のバレエ化を試みましたが、このような斬新な企画も自由に出来ることは自主公演の醍醐味の一つです。

 

2つ目は、自身のスキルアップに繋がるという点です。

本番を作ることで、それに向けて練習やリハーサルを重ねて成長出来るのは勿論のこと、希望曲をレパートリーに加えることが出来る上に、それをお客様の前で演奏させていただく経験はどれほど為になるでしょう。

私の場合でも、大量のソナタや室内楽のレパートリーを手に入れ、本番での演奏にも少しずつ対応出来るようになったのは、長く難しいプログラムの公演を定期的に開催していたことが大きいと感じています。

 

3つ目は、私の個人的な意見かもしれません。

それは興行の形を僅かながら知る事で、世の中の公演の見え方が少し変わるということです。

開催までの労力、宣伝の重要性、出演者に求められること…

それを考えるようになったことで、どの演奏会に出演する際の心掛けにも変化があり、

主催者やスタッフの方々、お客様への感謝の気持ちも自然と深くなりました。

 

 

公演を作ることによって、芸術について、その在り方について考える必要性に直面します。

失敗と反省も沢山ありましたが、それらの公演から繋がったご縁やお仕事も沢山あります。

芸術の本質的な良し悪しは興行形態とは無縁ということを再認識し、演奏家が自主公演を開催しやすい環境が出来ることを期待しています。

 

<ベルリンでの自主公演終演後の様子>