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モスクワの大学院生の現状(山本 明尚さん)5/31

山本 明尚さん/Mr.Akihisa Yamamoto
(専攻楽器音楽学/musicology)

[ 2022.07.1 ]

ロシア国立芸術学研究所

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の山本明尚です。

私は今、モスクワで大学院生としてロシア音楽史を研究しています。

 

 

みなさまがご存知の通り、私が今住んでいる国によって大変な事態が引き起こされてしまいました。

こちらのブログでも、一体何を書けばよかろうか、本当に悩ましい状態です。

ただ、最近のこちらの音楽界の状況やそれに対する抱懐については『チェマダン』というウェブ・ジャーナル(https://chemodan.jp/)に書かせていただきましたので、もしご興味のある方はぜひそちらを読んでいただければと思います。

 

内容の重複を避けるために、ここでは緊急事態に塗りつぶされがちな、大学院生の何気ない日常——つまり、研究や学習のこと、お声掛けいただいて携わったお仕事などについて書ければと思います。

 

 

まずは最近の研究について。

昨年度はコロナの関係で1年日本に留まっていなければならなかったり、大学のビザの手続きで不首尾なことがあったりで、博士論文に必要な文書館・図書館での作業がままならない日々が続きましたが、本年度夏からモスクワに長期滞在することができており、腰を据えて様々な資料を収集することができました。

 

その成果として、『音楽アカデミア Музыкальная академия』という権威ある雑誌に「プロレトクリトの「音楽教化」:イデオロギー的プログラムと日常的実践 Музыкальное просвещение Пролеткульта: идеологическая программа и повседневная практика」という論文を掲載しました。

1933年から続く音楽雑誌で、これまでの著者一覧を眺めてみるとプロコフィエフやショスタコーヴィチといった大作曲家が並んでおり、そこに自分の名前が載るのは面映い心持ちです。

とはいえこれは学位取得のための第一歩でしかありません。

ロシアでは博士候補論文(=Ph. D. 論文)提出のために3本の査読論文の提出が義務付けられていますので、現在私は鋭意2本目・3本目の論文も執筆中です。

引き続き頑張ってまいります。

 

 

また、論文執筆の合間に、短期目標として、また研究に関する意見をお伺いするために、何度か学会発表に参加しました。

今のところロシア国内、ロシア語での発表が主ですが、8月にはアテネで行われる国際音楽学会 International Musicological Society にも参加する予定です。

コロナ禍はまだまだ収まってはいませんが、徐々に対策や防疫も整い、日本でもロシアでもその他の国でも、対面で行われる学会が増えてきているような気がします。

世界中の第一線の学者の皆さんと交流できる機会が持てるのがとても楽しみでなりません。

 

 

さて、本業の研究とは別に、友人の誘いで昨年10月から教会大学附属の聖歌コースに通っています。

私は正教徒ではないのですが、先生方も生徒の皆さんも快く受け入れてくれ、本当にありがたい限りです。

このコースの講義は週三回(火・木・土)、基本的に夕方6時半からの夜間学校で、全二学年の一年次では正教会の基礎、典礼歌、読経、声楽アンサンブル、合唱といった興味深いプログラムが並んでいます。

 

典礼歌の授業では、19世紀のロシア音楽の引用元となっている聖歌の仕組みについて実践を通して学んだり、合唱やアンサンブルの授業ではバラキレフ、カスタリスキー、チェスノコフなど、ロシア音楽史で名の知られた作曲家たちが和声づけした聖歌を歌ったりしています。

また、学期中月一回、朝の礼拝に合唱として参加させて頂く機会があり、実に得難い体験をさせていただいています。

 

 

ロシアで生活している間にもいろいろな機会にお声をかけていただくことがあり、いろいろと音楽学関係のお仕事をさせていただく機会がありました。

3月には「アトリエ・アッシュ」というイベントで19世紀末を軸にロシア音楽史についての講演をさせていただきました。(こちらからダイジェスト映像をご覧いただけます

本当は日本に一時帰国して対面でお話させていただくはずだったのですが、搭乗するはずだった便が数日前にキャンセルとなり、残念ながら帰国は叶わず、オンラインでの参加と相成ってしまいました……。

 

 

楽曲解説などもいろいろな場所で書かせていただきました。

今でも図書館などで気軽に読んでいただけるものでいいますと、雑誌『音楽の友』の4月号の特集「シェイクスピア meets クラシック」の中でチャイコフスキーの《ロメオとジュリエット》についての解説を書かせていただきました。

また、近日中には私が日本流通盤の解説を担当した「ロシア・アヴァンギャルドの時代」というCDがリリースされる予定です。

 

 

私たち大学院生にとっては本当にどうしようもない不測の出来事が続くわけですが、めげずに前を向いて頑張っていかなければなと思う次第です。

引き続き、各所でご指導ご鞭撻、ご支援いただけますと大変嬉しい限りです。