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ニュルンベルクとベルリンを往復する生活(山下愛陽さん)4/30

山下 愛陽さん/ Ms. Kanahi Yamashita
(専攻楽器クラシックギター/classic guitar)

[ 2022.05.27 ]

ニュルンベルク・アウグスブルク音楽大学、ベルリン芸術大学

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の山下愛陽です。

 

日頃よりご支援に心から感謝しております。

 

私は前年度はベルリン芸術大学に在籍しておりましたが、2021年9月にギター科修士課程を修了し、10月からニュルンベルク・アウグスブルク音楽大学にてビョルン・コレル氏に師事しています。

 

<ニュルンベルク・アウグスブルク音楽大学の校舎>

 

 

彼とは2017年に当時私がARDミュンヘン国際音楽コンクールのために準備していたバロック・ルネッサンスのレパートリーを聴いてもらうためにベルリンで特別にレッスンを受けたのが出会いでした。

30分の短いレッスンでしたがバロックのスタイルや装飾音、アゴーギクについてなど多くのことを学び、以来彼のもとでこれらのことをさらに深く学びたいという願いをもち、10月からようやく実現したのです。

著名音楽家との室内楽経験も豊富で、舞台上での実践的なアドバイスももらうことができ、彼に習いたいテーマや曲のリストは2年で達成できないほど長いものになっています。

 

その1つとして、現在バッハのリュート組曲をもとに、装飾音のつけ方、当時のリュートの奏法、特にタブラチュアから得られる情報をもとに、それらの響き、音楽的解釈をできるだけ再現しつつモダンギターならではの魅力を取り入れるような編曲と運指設定、演奏を学んでいます。

また、同大学在籍のテノール歌手と共にシューベルトの「水車小屋の娘」(ギター伴奏は自編曲)にも取り組んでおり、レッスンではピアノに比べて限られたギターのダイナミック幅を和音の構成や開放弦の使用などを工夫して効果的に使う方法、編曲によって生じる技術的な難しさを表に出さず、音色やフレーズの流れを重視する細部の音構成の設定についてなど興味深いアドバイスを受けています。

パンデミックの影響による自動延長で今後丸2年間レッスンを受けられることになりましたが、毎週ベルリンから往復6時間かかる道のりも長く感じられないほど素晴らしいレッスンを受けられていて、とても充実した日々を送っています。

 

ベルリンでも並行して多くの室内楽・バイオリン、フルート、歌、マリンバ、オーボエとのデュオに取り組んでおり、編曲に携わる場面もより増えています。

クラシックギターと他楽器の室内楽レパートリーはピアノやバイオリンに比べれば乏しいですが、編曲や現代曲にはまだまだたくさんの可能性があります。

 

<家からほど近いリーツェン湖畔にて>

 

 

ドイツでも他国同様長い間厳しいコロナ規制が続きましたが、ワクチン普及と接種率増加に伴い、一定の条件を設けることでコンサートなどの文化活動も徐々に以前とほぼ同様な頻度で開催されるようになってきました。

当初は暫く定期的に演奏をできていなかったことにより、以前のようにコンディションを整えたり、本番中の良い緊張感を保つことが思うようにいかず舞台上での難しさに再び悩むこともありましたが、それらはその後回を重ねるごとに元通りあるいはそれ以上の状態にまで持っていくことができました。

この数か月間だけでもかなり幅広い分野の舞台で演奏することができたのは大きな喜びです。

 

例としてまず10月、11月にはベルリンで二つの現代音楽祭に出演し、ドイツ人作曲家によるテノールのための歌曲のギター伴奏版を初演したり、コロナ禍でのイタリア人作曲家とのSNS交流によって入手したフルートとのデュオ曲を演奏したりしました。

今年1月には語りと舞踊と音楽を組み合わせた「Aus der Unzeit heraus(どこからともなく)」という劇場作品を共同で創り上げベルリンで2度披露しました。

ギター演奏、即興演奏に加え自身の弾き語りの曲をその一部として初演し、さらには劇中の朗読や会話にも加わりました。

 

< 「Aus der Unzeit heraus」公演の様子>

 

 

また、昨年リリースしたCDのリリースコンサート(延期されていた)をこの半年間に3回にわたり自ら企画し、場所の確保から清算まですべての行程に携わり、特に3回目は多くの方に好評をいただくことができました。

 

また今年1月には初めて審査員の一員としてコンクールに参加するという貴重な経験ができました。

ロシアで開催されたコンクールで8歳の子供からプロのギタリストまでたくさんのカテゴリーごとに3日間にわたって審査が行われ、あいにくパンデミックの影響でロシアに行くことはかなわずオンライン審査とはなりましたが、異なるレベルのギタリストを客観的に、そして様々な観点から評価することは非常に難しいと同時にもう一度携わりたいと思える仕事でした。

 

その他のコンサートとしては、昨年末にダルムシュタットで行われた国際ギターフェスティバルに2019年ドイツギター賞受賞者として招待され、リサイタルをしました。3月には在ドイツ日本大使館で日独160周年記念イベントの締めくくりの催し物に招待され、マリンバとのデュオコンサートを行いました。

 

私がベルリンに住み始めてからすでに7年目になり、今ではドイツ語に苦労したり、海外で外国人として暮らしていると意識する場面が留学当初と比べてかなり減ってきました。

以前はコンサートに行ったり、いろいろな人々と会って交流をする中で、ベルリンという国際都市にいる恩恵を受け、そこから得られるお互いの文化への知識や理解、それらが広がることを享受していました。

しかし、パンデミックの影響で、人との交流はオンラインが中心となり、文化的イベントなどに足を運ぶことが激減した期間は、自分ひとりでいる時間が増え、人とのやり取りや意見交換は文書で行うことが増えました。

そのため徐々に、新しいことを客観的にみて、吸収するばかりでなく時には疑問を持ち、それらを通して自分自身の新しい意見を持つようになってきました。

留学当初何もかもが新鮮ですべての興味深い事柄や他人の意見を新しい情報として受け入れていたころと比べて、今はそれらの情報を自分の中で吟味、解釈し、その過程で自身の意見や、音楽においては自身のめざす演奏や音楽表現を構築することにつながっていきました。

これは自分にとってとても大切なことであり、留学を長く続けているからこその成長だと自負しています。

 

演奏活動をしていく中で、学生という立場、身分ではなく1人の音楽家としてこれからさらに活動の場が広がることを願っていますが、自分の意見、自分のしたい演奏、そして自分ならではの音楽表現を常に追求しつづけ、それらを聴く人と共有できるようにこれからも日々精進していきたいと思います。