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3つの初演(中橋祐紀さん)4/28

中橋 祐紀さん/Mr.Yuki Nakahashi
(専攻楽器作曲/composition)

[ 2022.05.20 ]

パリ国立高等音楽院

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の 中橋祐紀 です。

 

パリで勉強を始めて2年目になりますが、今年度は新型コロナウイルスによる生活上の影響も昨年と比べて小さく、貴重な留学生活を享受できていると感じています。

作品発表の機会も三度得ることができました。

 

まず最初に取り組んだのは2月に開催される現代音楽祭《プレゾンス》のための作品です。

主催のラジオ・フランスとパリ音楽院とのパートナーシップにより、この音楽祭のために新作を作曲する学生が募集され、審査を経て委嘱をいただくことができました。

制作したのは六人の奏者(フルート、サックス、パーカッション、アコーディオン、ヴァイオリン、チェロ)のための室内楽作品《レヴィアタン》です。

この作品ではメルヴィル『白鯨』のテクストを引用し、主にフルーティストに発話させながら、広い海を想起させるようなイマジナリーな空間を作ることを目指しました。

私の作品が演奏された演奏会は音楽祭への前奏的位置付けでしたが、「関連と系統(Références et Filiations)」と銘打たれたなか、テーマ作曲家であるトリスタン・ミュライユや、フィリップ・ルルー、ジョシュア・ファインバーグといったミュライユの探求を受け継ぐ作曲家などの室内楽作品と並んで自分の作品が演奏されたことは、フランス的美学に関心を持って作曲を勉強してきた自分にとっては感慨深いというか、自分も作曲を通じて何ものかを継承しているのだと考えさせられる出来事でした。

 

3月には2つの作品を学校において発表しました。

ひとつは自動演奏ピアノと電子音響のための作品《インサイド》です。

自動演奏ピアノのための作品といっても基本的にはピアニストが演奏する作品で、ピアニストの演奏に呼応して自動演奏が加わり、その協働によって音楽が進行していくという作品です。

この作品の制作のために2月のバカンスの間も毎日学校に通いましたが、学校には自由に使える自動演奏ピアノが8チャンネル(+α)のオーディオシステムが整備されたスタジオに置かれており、とても恵まれた環境で制作することができました。

 

もうひとつはフルートと12人のアンサンブルのための作品《2つの変奏曲》です。

フルートはこれまでにも自分の作品のなかで何度か用いてきましたが、その楽器としての魅力により焦点を当てるべく、協奏的な作品を書きました。

奏者がなかなか見つからない、ソリストの体調が思わしくない、などいろいろとトラブルはありましたが、最終的には充実した演奏に恵まれました。

 

この3曲を、素晴らしい演奏家の力を借りながら初演に漕ぎ着けられたことは、機会を得られなかった昨年を思えばとても幸運なことだと感じています。

今後の創作にもつながる得難い経験でした。