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オペラの研究を振り返って(清水 勇磨さん)3/31

清水 勇磨さん/ Mr. Yuma Shimizu
(専攻楽器声楽/voice)

[ 2022.05.13 ]

ADADSオペラ芸術学校

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の清水勇磨です。

 

2年間に及び、留学の根幹をお支え頂きまして、誠にありがとうございました。

<オペラBOX「椿姫」 ジェルモン役>

 

 

おおよそ4年前から留学を開始致しました。留学2年目からボローニャ歌劇場付設オペラ研修所におきまして研修を開始致しまして、オペラの歌唱技術、また、「ドラマトゥルギー」を正しく理解する為にはどの様な努力をしなくてはならないのかという事につきまして、実践を踏まえ、研究致しました。

特に毎日の研修におきましては、リブレット(オペラの台本)を声を出しながら読む訓練を丁寧にしました。

歌唱技術につきましても、様々な観点からチェックをして頂き、苦しい局面もありましたが、「伝統」を継承していこうという強い意気込みを目の当たりにしました。

 

私が一番に共感を覚えたのは、『いつ何時であろうと直ぐに歌えなくてはならない』という教えです。

これは、本当に劇場では急に歌わなくてはならないオーディションや、歌い手を探している人々が常に何処からともなく表れます。

日々何を勉強し、鍛錬しているのかというのはその場では取り繕えませんので、その勤勉さや、度胸は歌い手にとっては欠かす事が出来ないものであると良く分かりました。

 

 

バリトンはオペラの色気担当〜忍ぶ恋? 誘惑する恋? 大西宇宙と清水勇磨に訊く魅力|音楽っていいなぁ、を毎日に。| Webマガジン「ONTOMO」 (ontomo-mag.com)

 

 

インタビューの中でもお話した事ではあるのですが、″Pura”(混じり気の無い意)という言葉に象徴される様に、水に例えられる声の純粋さと、当然技術を用いる訳ですが、歌唱を通じて感じてもらわなければなりません。それを無しに言葉に集中して演奏を聞いて頂く事は難しいのでは無いか、と思うようになりました。

いずれにしても、ただの技術の見せびらかしに終始しないような演奏をする事。

それを可能とするのは、作曲家も辿ったであろう道を同じように進む他にありません。

Librettoを注視し、音楽の変わり目では無く、言葉の変わり目や真情の発露に至る動機は何の言葉であるのか。

基本的な、しかし大事な事を歌唱技術の向上と共に地道に読んでいくしか無いのでは、と思うのです。

 

私の心の中にはこの留学を通していくつかの忘れられない瞬間がありました。

ある素晴らしいテノール歌手はG.Verdi(ヴェルディ)のOtello(オテッロ)稽古中に大きな声で「こんなところでオテッロがハンカチを触ったらその後に繋がらないでは無いか!」と言いました。

その激高ぶりに皆驚きましたが、彼が考えた通りに演唱した方が説得力があったのです。

また、ある演出家が「横隔膜で人物像を作るんだ!」と興奮していた時も、その言葉が持つ本質は未だに私の心の大事な場所に常にあります。

 

日本での演奏の際も、そのイタリアでの学びを追いかけること、また再度自問する日々が続いていますが、その理由の奥深くには、伝統の秘儀と言っても過言でない事を惜しげもなく伝えて下さった事に対する、音楽文化の懐の深さ、人間の精神的な成熟に対する尊敬と感謝があります。

 

これからも、私におきましては微力ながらオペラの裾野を広げるべく、研究して参る所存でございます。

<オペラBOX「椿姫」 ジェルモン役 歌唱時の様子>