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ペリフェリックの傍らに(小野田健太さん)1/23

小野田 健太さん/Mr.Kenta Onoda
(専攻楽器作曲/composition)

[ 2022.03.18 ]

学校名:パリ国立高等音楽院

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の小野田健太です。日頃より多大なるご支援を賜り、心より感謝申し上げます。
さて、私は2021 年9 月よりパリ国立高等音楽院作曲科第1 課程にて勉強しています。

 

1 年目は授業数がとても多く、ここ数ヶ月はひたすら作曲と講義に明け暮れる毎日です。特に大きな出来事もありませんので、今回はこのパリという土地について書き連ねてゆこうと思います。

タイトルにある「ペリフェリック」とは、パリをぐるりと取り囲む環状の高速道路の名称で、東京でいえば首都高速の中央環状線にあたるでしょうか。

市内はもちろん他の都市へのアクセスとしても重要であるゆえ、1 日あたりの利用者数は約120 万人と、ヨーロッパで最も交通量の多い道路となっています。
私の住んでいる学生寮はパリの南端に位置しており、ペリフェリックのまさに真隣に建っています。

部屋の一面窓から見えるのはパリの美しい景観ではなく、落書きだらけのコンクリートと行き交う無数の車であるうえ、騒音もなかなかのものです。

車の流れは夜間も絶えることがなく、窓を開けて眠ろうものなら寝付けたものではありません。

 

ふとした瞬間にこの景色が目に入ると、ついとりとめのないことを考えてしまいます。彼らはどこから来てどこへ行くのか……これから仕事に向かうのか、帰宅途中なのか、家族や友人に会いに行くのか、誰かを送っているのか、それとも何か運んでいるのか……。ほんとうに沢山の人々がそれぞれに社会生活を営んでいるのだとあらためて実感し、その果てしなさに圧倒されます。

そして、自分もその中の一人になれているのだろうか?といつも自問してしまうのです。

私が世の中と関わるには、やはり作曲を続けるしかないのだと思います。

いつの間にか作曲というものは私にとって辛く苦しいものになってしまいましたが、それでも現代に潜むさまざまな事物から作品のアイディアを引き出し、それをどう音楽に変換し表現しうるか?とあれこれ考えるのは心踊るものです。

そして、そうやって音楽をつくってきたことが自分を多くの人に引き合わせてくれたこともまた事実。

この異国の地でも、それだけは変わらないのだと信じています。

いつかの夜、作曲に疲れ果てて何気なく外を見たとき、過ぎ去ってゆくテールランプや道路照明のやさしい明かりがなぜだかとても美しく見えて、元気づけられたことをよく覚えています。

そう、結局のところ私はこの景色をとても気に入っているのです。

パリ中心部のおしゃれな街並みもいいけれど、これが自分にとってのパリ。この街で、せっせと作品をつくっていこうと決意を新たにする思いです。