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いくつかの成果(中橋祐紀さん)6/29

中橋 祐紀さん/Mr.Yuki Nakahashi
(専攻楽器作曲/compsition)

[ 2021.09.24 ]

学校名:パリ国立高等音楽院

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の中橋祐紀です。

フランスでは昨年秋以来厳しい移動制限が続き、演奏会は長い間中止となりました。

学校の授業もオンラインが中心となり、自宅で過ごす時間が長かったように思います。

 

しかしながらこの間、2つの作品を制作する機会に恵まれました。

ひとつは電子音響作品です。入学以来、電子音楽の理論や実践を週8時間程度の授業で学んできましたが、それと並行して制作した電子音響作品を、アクースモニウムというシステムを用いてコンサートホールのなかで演奏する機会が与えられました。

通常なら演奏会形式で、直に聴衆に聴いてもらうことができるのですが、残念ながら観客なしでの録音となりました。

とはいえ、私にとってこれは初めての経験で、刺激的な体験でした。

ホール内に設置された23個のスピーカーの位置と特性を理解し、作品の進行に合わせてミキシングコンソールをリアルタイムで操作する作業は、想像以上に難しいものでしたが、先生方からの指導のおかげで基本的な技術や考え方を学ぶことができ、また演奏空間をいかに活用するかということについて理解を深められたように思います。

それから、室内楽作品を録音する機会も得られました。

 

今回録音したのはソプラノ、フルート、2つのチェロ、パーカッションのための作品で、昨年秋から今年の初めごろにかけて作曲したものです。

器楽作曲についてはもちろん、これまでにも多くの経験を積んできましたが、作曲をする環境がこれまでとは違うこと、コロナ禍で多くの活動が制限されていることなどから、作曲の際にストレスを多少感じることはありました。

しかしそれでも、なんとか作品を形にすることができたことに満足しています。
声を用いた、演劇的身振りの要求される少し変わった作品だったのですが、演奏家の方々の献身的な取り組みに感謝しています。

 

また、音楽分析の授業では約90分の発表を行いました。

レベッカ・サンダースの《バイト》というバス・フルートソロの作品を主な題材として選び、フルート作品における声やテクストの使用について話しました。

全体を通して声楽的な書法が徹底されているこの作品は、フルートと声の協働について多くの示唆を与えてくれるもので、準備の過程で様々な発見がありました。

またフランス語で長いプレゼンをするのは初めてのことで、苦労しましたが、大きな経験となりました。


このように、コロナ禍にありながらも様々な経験を積むことができました。

1年間全体を振り返ってみると、昨年秋から今年の春にかけては、飲食店もコンサートホールも美術館も閉鎖された味気ない時間が続きましたが、レッスンや授業のなかで、多くの学びを得ることができました。

また5月中旬ごろからはコンサートホールや美術館が再開し、様々な音楽や展示を生で楽しめるようになりました。

通常の生活が戻ってくるなかで改めて感じたのは、パリで展開される創作・表現活動の豊かさです。

様々な同時代の表現に触れられることは楽しく、また自分自身で創作をすることを勇気づけてくれます。

困難の多い留学1年目ではありましたが、充実していたと感じています。

来年度の作曲予定もある程度決まっており、今年度以上に充実した成果が得られるのではと期待しています。

引き続き勉強を続けてまいります。

そして、このような活動を可能にしてくださった、ローム ミュージック ファンデーションの皆様のご支援に最大限の感謝を申し上げます。