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ベートーヴェンイヤーとCovid19(阪田知樹さん)5/1

阪田 知樹 さん/Mr.Tomoki Sakata
(専攻楽器ピアノ/piano)

[ 2021.08.24 ]

学校名:ハノーファー音楽演劇メディア大学

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の阪田知樹です。
2020年の奨学生期間が始まった頃には、コロナ禍からゆっくりながらも確かに先に進んでいける一筋の光が見えたと信じていました。

しかし、秋に再開の兆しが見えた演奏会も再び冬にかけて厳しい状況となり、春になっても依然として事態は収束を迎えるどころか、今後も心配は尽きません。

 

<トリプル・コンチェルトのリハーサル 2020年12月>

 

2020年にはベートーヴェン生誕250周年を記念して多くのベートーヴェンに纏わる演奏会が予定されていました。

我々クラシック音楽を志す者にとって特別な存在となるベートーヴェンの記念年、この機会にと特にその楽曲に取り組んでいましたが、残念ながらその多くが中止、延期を余儀なくされました。

これほどまでにCovid19が世界中の人々に影響を及ぼし続けるとは誰が想像したでしょうか。

この未曾有の事態のなか、12月には大阪交響楽団さんとのベートーヴェンのトリプルコンチェルトを演奏させて頂けたことはほとんど奇跡的でした。

トリプルコンチェルトは私にとって初めて演奏する機会でしたが、リハーサルを重ねる毎にそれまでの様々な雑念は取り払われ、本番の舞台では純粋に音楽の中に浸りながら、舞台に立てる喜び、有り難み、そして音楽を奏で届けられることに感激を覚えた忘れられない時間となりました。

(当日演奏会は無事開催されるのだろうか、、、)などと考えながらの準備がこれまでの1年間には幾度となくあり、気持ちの持って行き方を常に問われる難行も強いられてきました。

この期間中に自身がどれほど音楽への思いを持っているのか、再確認できたとも言えますし、今後への思いも新たにしたとも言えます。

そんな中でも、2021年3月には東京都交響楽団さんとの共演や、4月にはNHK交響楽団さんとの共演にも恵まれました。

リハーサルも全てマスク着用ということがもう当たり前の光景になっています。

このような状況下でしたが、指揮者の方々、オーケストラの皆様とご一緒に音楽をさせて頂けて、いずれの公演もお客さまに会場でお聴き頂けたことは本当に有り難く貴重なことで、感謝の意は言葉にできません。

 

<マスクでのリハーサル 2021年3月>

 

2020年2月に聴きに行く予定だったドイツ・ハノーファーでのトリプルコンチェルト公演がコロナ禍により突然キャンセルとなり、その後間もなく正にそこで予定されていた演奏者のコロナ感染ニュースに衝撃を受けた日々が、つい最近のことのような、遠い昔のような、今は何とも不思議な気持ちです。

思えば、あの瞬間から全てが変わりました。

ドイツの大学では対面授業はなくなり、キャンパスは閉鎖され、勉強も生活も内外での演奏機会も何もかもが変わってしまいました。

必死に楽譜や本を読み漁っては心の平穏を探し求めました。

現在世の中の恐らく全ての人々にとってそうであるように、我々音楽を志す留学生にとってもその生活に落とした陰はあまりにも暗く長く大きなものとなっています。

 

<マスクでのGP 2021年4月>

 

このような状況だからより一層でしょうか、「ハーモニーの中で生きられたら幸せだ」という、恩師の言葉が胸にしみます。

当時何となくわかったつもりでいましたが、今正にどういうことか分かったような気がしています。

今でなければなかなか意識できない心の奥に秘めたる思いが強く燃え上がるようとでも申しましょうか。

これから音楽を志そうと思っていらっしゃる方々もきっと心から強い意思を再確認なさっていることと思います。

厳しい状況は否めませんが、この世の中に音楽を絶やさぬよう、能動的にも受動的にも生きる活力として、真摯にそして謙虚に精進し続けて参りましょう。

貴財団の皆様にはこのような特に厳しい期間に支えて頂きまして、本当にありがとうございました。

心より感謝申し上げます。この貴重な経験を今後還元していけるように更なる研鑽に励みたいと思います。

ありがとうございました。