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日々の研修の実体験で感じた事(清水勇磨さん)9/27

清水 勇磨さん/ Mr. Yuma Shimizu
(専攻楽器バリトン/baritone)

[ 2020.10.9 ]

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の清水勇磨です。
日頃から多大なるご支援をロームミュージックファンデーション様より賜りまして心より感謝申し上げます。

<Roberto Frontali氏とマスタークラスの後に>

 

私は2019年よりボローニャ歌劇場付設オペラ研修所にて研修をさせて頂いております。

イタリアのボローニャという場所にあるこの歌劇場は、伝統的なイタリアオペラを演奏する劇場として評価されています。

その研修機関としてこの研修所はあります。

研修所では、Lucio Gallo,Chris Meritt,Marcella Devia,Roberto Frontali諸氏のマスタークラスが行われました。

一流の歌手の意見が聞けるというのはとても充実している好機を頂いたと思います。

特にLucio Gallo,Roberto Frontali両氏によるレッスンは、私がバリトンという事もあり、的確にご指導を頂いたように思います。

発声技術はさることながら、歌唱方法、登場人物のキャラクターをどの様に考えれば良いのか、という事をご指導頂いたように思います。

また、研修所は劇場と連動している事からも、総裁、キャスティングマネージャーによる定例の声聞きがあり、的確な研修がなされているかをチェックする機会があります。

これは、客観的に演奏のどこを高めることが良い結果に繋がるのかという指摘と共に、次の舞台に向けて具体的にキャスティングをしている可能性もありますので、常にしっかりと歌唱することが求められます。

 

 

<ボローニャ歌劇場において、定例の声聞き>

 

私はボローニャ歌劇場において「椿姫」ジェルモン役にて出演する機会を得ました。

それは日々のコンサートと共に声聞きで決められるものです。

また、この公演の準備のための個人稽古は多角的に行われました。

ドラマトゥルギーの専門の先生はオペラにも精通しておられますが、楽譜からではなく、いかに台詞から行間を読み取るかが重要かという事を教えて頂きました。

当然、最後は音楽と共に表現する事になるわけですが、そこを切り離していかに役柄の性質を言葉から読み取る事が出来るのか、実現するには徹底的なリブレットの研究が必要であるという事を思い知らされました。

どうして思い知らされた(・・・・・・・)、と書かせて頂いているかを申し上げるかと言いますと、先生の前で来る日も来る日もひたすらリブレットを読み続け、更には足踏みをしながら一音節毎に読むことを反復し続けたからです。

音楽の稽古と並行して練習していると、ある時ふと視界が開けた様になる瞬間があり、その時にオペラの役柄を心の底から理解する事に繋がるのだと感じました。

勉強の先に常に本番がある環境は、自分自身の音楽への献身、また、音楽の根底の様な場所との対話をしっかり自問自答しているかを強く感じるきっかけとなりました。

響きを追い求めるという事は、その事と同時に歌唱時において自己の感情を爆発させるのではなく、どんなに激情的なシーンであろうと、常に歌唱をコントロール出来る範囲内に留めておくという事に他なりません。

日々のコレペティとのレッスンにおいてはテクニックの追及も含まれますが、いかに言葉を自分の感情に近づけていくかを徹底的に学びました。

オペラを演唱する上で核となるその大事な事を、コレペティ、また声楽の歌い手等、ほぼ全てのマエストロが仰っていらした事実からも、登場するシーンにどの様な経緯を経て存在しているのかという事を研究する事は欠かせません。

 

<ガッリ劇場において椿姫の(演奏会形式)の様子>

 

ガッリ劇場で「椿姫」のジェルモンを歌わせて頂いた際も、指揮者との音楽の構築の中で人物をどう存在させるかについての重要性を感じました。

この公演の少し前にボローニャ歌劇場で既にこの役は歌っていたので、より音楽に集中した演奏が出来、客席にもそれが伝わっていた事が何よりも嬉しい収穫でした。

また、ボローニャ歌劇場とアンマンオペラ歌劇場との共同制作公演では、毎日みっちり稽古をし続け、何より、ロッシーニ作曲の「セビリアの理髪師」のタイトルロールをさせて頂いた事が何より良い経験になりました。

フィガロ役は狂言回しの様なレチタティーヴォで緩急を付け歌わなければならず、イタリア人でも早々簡単に手を出せない役柄と稽古時にマエストロが仰っていらした様に思います。

作品としてハードルが高かったのですが、毎日の反復に勝るものは無く、「期待通りの出来であった。」と劇場関係者から講評頂きました。
その後、イタリアはコロナウィルスの影響により、2月中旬から休校になり、コレペティの先生とひたすらオンラインレッスンをしておりました。

4月に予定されていた「愛の妙薬」タイトルロールや、5月の「チェネレントラ」も全て中止を余儀なくされました。

その間は台本研究やレパートリーの拡大、来年日本で予定されている「タンホイザー」ヴォルフラム役を稽古していました。

徐々に研修所も動き始めているので、こらからまた自分の研究と、一回でも多く舞台を踏める事を目標として、日々過ごして行きたいと思っております。
このような研修が行えますのも、ひとえにロームミュージックファンデーション様のお支えがあっての事と心から感謝申し上げます。
引き続き、イタリアオペラの特にヴェルディ作品を中心としたオペラ作品の研究を続けていく所存です。

何卒宜しくお願い申し上げます。

 

<ボローニャ歌劇場にてプログラム掲載のための撮影Photo©Renato Morselli>