スイスでの初演を終えて(向井航さん)7/2
向井 航さん/Mr.Wataru MUKAI
(専攻楽器作曲/compsition)
[ 2020.08.31 ]
学校名:マンハイム国立音楽舞台芸術大学
ローム ミュージック ファンデーション奨学生の 向井航 です。
常日頃から多大なるご支援を賜り、心より感謝申し上げます。
2020年6月26日スイスの首都ベルンより少し北に位置するビールという都市にて、同じローム ミュージック ファンデーション奨学生の佐藤采香さんと、ベルン芸術大学の共同委嘱による『おどり子—Odoriko(2020)for Euphonium and Orchestra』が初演を迎えました。
オーケストラはシンフォニー・オーケストラ・ビール、指揮者はカスパー・ツェンダー氏、ソロ・ユーフォニウムはもちろん佐藤采香さんです。
佐藤さんとは、昨年私が半年間のスイス交換留学中に大変お世話になり、その際に「ユーフォニアムのソロ楽器としての可能性を広げてほしい」という強い願いから、このオーケストラプロジェクトは発足しました。
作曲にあたり、ユーフォニアム研究と作曲あわせてかなり長い時間を費やし、研究を重ねました。
スイスはブラスバンドの本場であり、ユーフォニアムはその中でも花形であります。
そのため音量も、機動性や表現力もソロ楽器として申し分ないポテンシャルを持っております。
〈①スイスのトップブラスバンドチーム、Brass Band Berner Oberlandのリハーサルを見学しました。〉
ベルン芸術大学の色んな先生を巻き込んで、やっと、実現することになったのですが、コロナの影響で一旦初演は見合わせに。
しかし6月15日、リハーサルの1週間前にドイツからスイスへの入国が許可され、演奏会も可能に。
そのため、指揮者との打ち合わせを含め、全てのリハーサルに参加することができました。
スイスでのオーケストラ初演は初めてだったので、リハーサルはとても緊張しました。
しかしオーケストラの皆さまはとても真面目に、そして、とても好意的に練習に取り組んで下さりました。
指揮者のカスパー先生も協力的にリハーサルを進めて下さり、ソロの佐藤さんと作曲者の私に、曲をどうしたいか、テンポや強弱はどうか等、細かく確認して下さりました。
また佐藤さんとも積極的に作品について意見交換を行い、フレーズの吹き方、曲の持つストーリ展開の確認を綿密に行いました。
〈②リハーサルの様子。コロナ予防対策のため、管楽器の前には透明な板が設置されています。〉
この曲には、交換留学した際にスイスのインターラーケンの大自然の中で聴いたKuhglocken(牛が脱走しないように首つける、カウベルのような形をした鈴)とユーフォニアムの二重奏から始まります。
そしてその旋律は 雅楽やテクノ、様々な音楽を旅し、そこにはスイス-日本-ドイツの繋がりも重なっております。
そして何より、佐藤さんの「ユーフォニアムのレパートリーになりうる、未来を切り拓くような作品になって欲しい」という願いを強く、強く込めました。
この曲が今後のユーフォニアム奏者のレパートリーとなるよう、祈っております。
今回の初演はとても評判がよく、終演後にお客様や学校関係者、またオーケストラ団員の方など様々な方に喜んで頂け、非常に光栄でした。
〈③素晴らしいソロを吹いて頂いた佐藤采香さんと、演奏後に楽屋にて〉
ドイツのメルケル首相が、芸術は生命の維持に必要と発言しました。
私も本当にその通りだと思います。
音楽の可能性を信じ、またこうして勉学を続けられる喜びを噛み締めて、これからも精進いたします。