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飛行機雲のない空の下で(菅沼起一さん)5/28

菅沼 起一さん/Mr.Kiichi Suganuma
(専攻楽器音楽学/musicology)

[ 2020.07.17 ]

学校名:バーゼル・スコラ・カントルム

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の菅沼起一です。
多くの学校が休校になり、オンラインで続けられる授業、再開の見通しの立たない演奏会、帰国を選択する留学生。

かつてないほど特殊な状況に置かれている中で、奨学生としての1年を終えようとしていることに、複雑な気持ちを抱かずに入られません。

まず、このような状況下においても、勉学を続けられるようご支援を続けてくださったことに感謝申し上げます。

 

<指導教官のオンライン授業で楽曲分析を行う筆者>


 
他地域の学校の例に漏れず、私が在籍するバーゼル・スコラ・カントルムも、3月の中旬から、今ゼメスターの残り全ての期間をオンライン授業で行うことが決まりました。

所属校は、1週間のインターヴァルの後に多くの授業が再開し、特に、研究専攻の私の場合は、履修している週11コマの授業が全てロックダウン以前と変わらぬ内容で継続されました。

このような厳しい状況でも、何とか授業を継続しようと心を砕いてくださった先生方の、教育者としての姿勢には背筋が伸びる思いで、ロックダウン後も変わらぬ勉学が継続できたことは本当に喜ばしいことでした。

 

今ゼメスターは、丁度、現課程修了のタイミングでした。

5月の中旬に修士論文を提出し、1ヶ月後には修了試験がありました。

授業を受け、研究を行い、論文を書く。

ロックダウン以前と大差ない生活のように思われますし、家にずっといることで、より集中し、時間を割いて修士論文の執筆ができるね、と周りにも言われました。

しかし、異国に一人、決して安全とは言えない状況、加えて帰国も難しい状況で、日本にいる家族の心配をしながら自分のやるべきことに集中することはやはり難しく、稀に人気のない郊外の森で散歩をすることが唯一の気分転換でした(スイスは、ロックダウン中も外出禁止にはなりませんでした)。

交通の要所であるバーゼルは、普段、多くの飛行機雲が空に伸びているのですが、それがぱったりと止み、晴れた何も無い青空を虚しく見上げる日々が続きました。

 

 

<修士論文(オンライン)提出の日>

 

<バーゼル郊外の森にて>

 

夏に向けて、スイスのロックダウンは緩和の方向へ進んでおり、少しずつ日常が戻りつつあります。

今は、引き続き現地で研究を続けられるよう準備をしています。

奨学生としてのこの1年、そして、これまでの留学生活を振り返って、全く違う人間になったように、そして、見える世界が変わったように思います。

今までと比べ、視野は広くなり、自分を取り巻く様々な物事・情報に流されることなく、自分自身で考えて選択・決断するようになり、社会の中での自分という存在について、さらには自分の人生、自分のやりたい事・すべき事について深く思いを巡らし、より鮮やかな像を描くようになりました。

それが、奨学生期間中に得た、最も大きな、自分が成長したと感じられる手応えでした。

月並みですが、これは、異国という未知の環境で専門の勉強を行う最も大きな目的であると、これまで多くの先輩方の体験談で耳にした言葉を、自分がそれを経験する番になった今、改めて強く思い出す次第です。

音楽は、間違いなく人間の営みに必須のものであり、自分と世界・社会を結ぶ「アクセスキー」のようなものだと思っています。

これから音楽を深く学ぼうと考えている方には、音楽を通して素敵な出会いを沢山見つけて、そして、音楽を通して自分の人生を豊かなものにしていただきたいと考えております。

そして、それには、未知の世界に飛び込む、少しだけの思い切りが必要であると、留学して改めて実感しています。

私も、今後も常に新しい自分であるために、音楽の勉学を通して多くの知見を貪欲に得て、新しい世界に飛び込んでいきたいと考えております。