奨学生レポート RMFレポート ミュージックサロン インタビュー

過ぎし日を追いかけて、未来へ(畑野小百合さん)

畑野 小百合さん/Ms.Sayuri Hatano
(専攻楽器音楽学/musicology)

[ 2016.10.6 ]

学校名:ベルリン芸術大学大学院

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の畑野小百合です。ベルリン芸術大学に在籍し、音楽学の博士論文を執筆しています。
今回は、奨学生としてご支援いただいた2年間の締めくくりに、ここ半年の活動について報告させていただきます。

2016年4月ブゾーニ生誕150周年記念演奏会

【2016年4月ブゾーニ生誕150周年記念演奏会】

 

2016年は、20世紀初頭にベルリンを活動の拠点としたフェルッチョ・ブゾーニの生誕150周年でした。
ブゾーニは、一般的にバッハ作品の編曲者としてその名がよく知られていますが、実際はピアノ演奏も作曲も楽譜校訂も執筆も音楽教育もこなした多才な音楽家であり、国際的な視野のもとで前衛の扉を開く位置にあった、20世紀音楽史上重要な人物でもあります。
ブゾーニの活動をバックアップしていたヘルマン・ヴォルフ音楽事務所についての研究の過程で、ブゾーニ自筆の風刺画を所有する幸運に恵まれた私は、2016年4月に東京と京都で、オール・ブゾーニ・プログラムによるレクチャーコンサートを開催しました。
演奏会の詳細については【こちら】をご覧ください。

 

ブゾーニ生誕150周年記念演奏会(ロームシアタ京都ノースホール)

【ブゾーニ生誕150周年記念演奏会(ロームシアター京都ノースホール)】

 

生誕150周年にブゾーニの多面的な魅力を日本でも広く知っていただこうと企画したこの演奏会は、ローム ミュージック ファンデーション2016年度助成事業としてもご支援いただき、ピアニストの井村理子さん、クラリネット奏者の北岡羽衣さん、演奏会開催に向けてご協力くださった方々のお力をお借りして、たくさんのお客様にブゾーニの音楽を聴いていただくことができました。
会場では先述の風刺画の現物も展示し、背景となる当時のベルリンの楽壇についての解説や、ブゾーニの音楽作品の実演と一緒にご鑑賞いただきました。
必ずしも分かりやすい音楽家ではないブゾーニについて、演奏と音楽学研究の成果を融合させたこのような演奏会の開催が、ご来場くださった方々に何らかの印象や関心を喚起するきっかけになったのであれば、公演の目的は達成できたのではないかと思っています。

 

マインツにてライン川を臨む

【マインツにてライン川を臨む】

 

2016年9月には、ドイツの音楽学会Gesellschaft für Musikforschungの大会に参加しました。
ドイツ中西部のマインツで開催された今年の大会で、私は一昨年、昨年に続き、博士論文の一部となる研究成果の発表を行いました。
今回の私の発表は、博士論文のための調査によって新しく発見するに至った一連の資料についての包括的な調査結果を報告するものであったため、人々の関心も高く、たくさんの方が部屋を訪れてくださり、発表後も、時間内に答えきれないほど多くの意欲的な質問をいただきました。
資料の内容や由来について書いた文章も、博士論文に先立って、間もなくドイツ語で出版される予定です。

 

マインツでの学会発表

【マインツでの学会発表】

 

この半年は、ドイツ語、英語、日本語でさまざまな対象や媒体に向けて執筆する機会がありました。
「文は人なり」と言いますが、それは外国語でも同じです。
そして、どのような文章を書こうかと真剣に考えることは、どのような人間であろうかと真剣に考えることに等しいと、身をもって感じることが度々ありました。

こうしたことを実感しながら、私は今、ドイツ語の博士論文執筆の最終段階にあります。
過去を認識することへの挑戦である歴史研究においては、はっきりとした構図を描き出したい、分かりやすい明快な結論へ至りたいとついつい思ってしまうものですが、膨大な資料と情報に晒される中で、現実はそれほど単純ではないこと、簡単に意味づけられない事象を分からないものとして真摯に受け入れるところから勉強が始まるのだということを、博士課程での研究を通して学びました。
古い資料を追いかけ、過去の事象相互の関連を吟味し、そこから歴史というストーリーを導き出すことに全力を傾けてきた数年でしたが、このストーリー自体は未来へのメッセージでもあります。
過去に対しても未来に対しても誠実であることができるように、今の私の位置において描くことのできる歴史的展望を、精一杯描き出したいと思います。

2年間のご支援、本当にありがとうございました。

 

 

 


研究の成果を演奏と共にご紹介いただけるのはわかりやすくて素晴らしい試みですね。 ぜひこれからも頑張ってください!