幸せな経験(吉田南さん)
吉田 南さん/Ms.Minami Yoshida
(専攻楽器ヴァイオリン/violin)
[ 2016.05.30 ]
学校名:桐朋女子高等学校音楽科
ローム ミュージック ファンデーション奨学生の吉田南です。
あたたかいご支援を受けて元気に毎日ヴァイオリンと向き合うことが出来ています!
<自然豊かなエスポーの町(ホームステイ先のお家の前で)>
今回の報告では、昨年11月~12月にかけて行われたシベリウス国際ヴァイオリンコンクールでの経験を中心にお伝えしたいと思います。
シベリウス国際ヴァイオリンコンクールは5年に1度、シベリウスの故郷フィンランド(ヘルシンキ)で行われる大変規模の大きいコンクールです。
そして、昨年はシベリウス生誕150年の記念イヤーだったこともあり、世界29カ国からコンクール史上最多の234人が応募、その中から45名が事前審査を通過し本番へと進みました。
私は幸運にも45名の中に入ることができ、ヘルシンキの郊外エスポーという町でホームステイをしながらコンクールに参加することになりました。
<日本のお母さんとフィンランドのママ>
ヘルシンキでお世話になったのは、ハッカライネンさんのお宅です。
パパのマルコは音楽好きの会社員、ママのサンナは教会専属のオルガニスト、19才のトッティはシベリウス音楽院でヴァイオリンを学ぶ学生です。とてもおおらかで温かいお家にお世話になれて幸運でした。それにこのお家には毎日沢山の美しい小鳥やリスやウサギがやってきて、私を喜ばせてくれました。
私はそこからバス→電車→地下鉄にのって、1時間かけて毎日会場まで通いました。
1次・2次予選は緊張することなく安定した演奏が出来、無事ファイナリスト6人に残れました。
ラウンドが進むごとにフィンランドの皆さんは小さい日本の女の子のことを(私は最年少参加者でした)覚えて下さり、「みなみん、みなみん」と声をかけてくれるようになりました。
それに、シベリウス音楽院のトッティの沢山のお友達応援してくれ、私のお友達にもなってくれました。
ステイ先のパパとママも仕事で忙しい中、精一杯応援してくれました。
<国営放送の収録>
ファイナルはコンチェルト2曲を演奏です。
全演奏をフィンランドの国営放送が生放送します。
はじめのシベリウスのコンチェルトはとてもうまくいきました。ところが、次の日のチャイコフスキーのコンチェルト前半で事件が起きました。
スポットライトがとても熱く弦がゆるみ始めてしまったところに、強くアタックをして音を出してしまい、大きく調弦を狂わせてしまいました。
一旦調弦が狂ってしまった弦は、その楽章が終わらないと修正することが出来ません。
私は普段、舞台上で緊張することはほとんどないのですが、この時ばかりは頭が真っ白になって汗が噴き出しました。
「音楽を停めてはいけない・・・」それだけを考えて1楽章を乗り切り、一所懸命ベストは尽くしたけれど、自分の思い描いた演奏にはほど遠い出来で全楽章が終了しました。
「みんなガッカリしてるだろうな・・・」そう思いながら外に出ると、沢山の人が笑顔や泣き顔で私を抱きしめてくれて、その後、フィンランド全土で行われた視聴者投票で1位を頂いたと知りました。
トップ3には入ることが出来なかったけれど、「もしかしたら、私のつたない演奏でもフィンランドの人たちは喜んでくれたのかな・・・」と感じました。
びっくりするほどの多くの人が私を覚えて応援してくださり、私に声をかけてくださり、音楽が繋いでくれたご縁で私はとても幸せな気持ちになりました。
コンクールは勝ち上がって上位に入賞することも大切なことです。
でもそればかりではとてもつまらないと思います。私は初めての大きな国際コンクールで、たくさんの愛情や友情をうけて2週間を過ごすことが出来ました。
上位入賞は叶わなかったけれど、先生や両親、応援して下さる日本やフィンランドの方々に感謝しながら、音の一つ一つに心を込めて弾くことが出来ました。そのことがとても嬉しかったし、きっとこれからの私のヴァイオリン生活にプラスにはたらくのではないかと思います。
たった17才で、こんなにも素晴らしい経験をさせていただけて、私はとても恵まれているなぁと思います。
もうしばらくは日本でしっかりと研鑽を積んで自分を磨き、また世界の人々に演奏を聴いていただける機会を得られるように頑張ります。
<お世話になったピアニストの市橋先生>