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帰国と学期末のせわしなさ(山本明尚さん)8/26

山本 明尚さん/Mr.Akihisa Yamamoto
(専攻楽器音楽学/musicology)

[ 2021.10.22 ]

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の山本明尚です。
こちらモスクワは酷暑だった夏が過ぎ、心地よい……というよりも少し肌寒い風を感じる日々が続いています。

<到着初日のモスクワをタクシーから。味気ない一枚ではありますが、ようやくここにたどり着いたという感慨がありました。>

 

本年の夏は欧米各地が熱波に苦しめられたと聞いていますが、モスクワも同様に記録的な暑さでした。

報道では6月や7月の最高気温に関して、40年ぶり、100年ぶり、120年ぶりの記録など、信じられない数字が並んでいるのを目にしました。

120年前というと、ちょうどラフマニノフやスクリャービンが大活躍した時代、100年前というと、ちょうど私が研究している文化組織「プロレトクリト」が活動していた時代ではありませんか!

このような形で、ロシア文化に思いを馳せるとは思いもよりませんでした。

先日の中間レポートに書かせていただいたとおり、ロシアから学生ビザが発給・延長されず、2020年6月からしばらく日本に帰国しなければならない状況が続いていたのですが、本年4月にようやく新たなビザが発給され、10ヶ月ぶりにモスクワに帰ってくることができました。

これで久々に文書館や図書館での作業ができるぞ……、と意気込んでいたのも束の間、ロシアは6月が学期末。

私を始めとする大学院生は、学位論文提出の必須要件となっている3科目からなる必修試験のうち数科目を受け、同じ科目のレポート(おおよそ20ページほど)を提出しなければならない時期です。

当然、文書館調査よりも喫緊の試験とレポートに時間を割かねばなりませんでした。

 

<7月の試験後、ペテルブルクに資料調査に行きました。右はモスクワの「レニングラード駅」、左はペテルブルクの「モスクワ駅」(ややこしいですが、ロシアでは行き先が駅名になっているのです)。同じ建築家による1840年代の建築で、瓜二つに作られています。>
 
 
本年度私と同級生が受験したのは、英語と哲学の2科目。英語に関しては、自身の研究領域に関する質問がされるらしいと聞いていたので、オンライン英会話の受講以外に特別な準備はする必要がないように思われました。

一方、哲学科目は今一度範囲全体の綿密な復習が求められます。

というのもロシアの期末学科試験というのは原則すべて口頭で行われ、一学期に学習したすべてのトピックから数十枚のくじが作られ、それを受験者が引くことでアト・ランダムに試験官からの質問が決まるシステムになっているからです。

復習に穴があり、その穴の部分のくじを引いてしまっては、どうしようもありません。

1ヶ月半かけて半期16回の講義メモとオンライン講義の録画を繰り返し再生しながら、ロシア語でカント美学の「目的なき合目的性 целесообразность без цели」や、トマス・クーンの『科学革命の構造 Структура научных революций』で定義された有名な概念「パラダイム・シフト смена парадигм」等々の重要用語を理解する日々を送りました。

その甲斐あってか、レポートを含めて無事に最高点の5をいただき、無事に試験に合格することができました。

 

<8月に行われたオンラインの国際学会発表。急に進行を任され、焦りながらぼちぼちの英語で対応している様子です。>

 
 

音楽関係の大学院生でロシアに留学されている方は少なく、私がいるロシア国立芸術学研究所には全学で私以外の留学生は皆無という状況ですが、そうしたなかでも同級生や研究所のスタッフの皆様に助けられながら、この1年度を日本とロシアで無事に過ごすことができました。

今後の目標は、なによりもまず博士論文を完成させることです。

そのためにはロシアで国家的に承認されている雑誌に3本査読論文を掲載し、先述の必修試験をもう一科目(専攻科目)受験しなければなりません。

今のところ、モスクワやペテルブルクでの資料調査や論文の執筆状況などに鑑みれば、博士論文完成に向けた道筋を順調に進めているように思いますので、引き続き努力していきたいと思います。

また、状況が許せばではありますが、積極的に専門的な研究のみならず、美術館や劇場訪問、地方都市への観光など、ロシアでだからこそできる文化学習活動をしっかりとできればと思っています。

10ヶ月日本に留め置かれた日々を糧として、現地で学ぶことのできる喜びを噛み締めながら留学生活を継続していければと思います。