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この1年を振り返って(久末航さん)6/23

久末 航さん/ Mr.Wataru Hisasue
(専攻楽器ピアノ/piano)

[ 2020.07.27 ]

学校名:ベルリン芸術大学

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の久末航です。
ベルリンもすっかり夏らしい季節となってきました。

去年の今頃は、毎晩そこかしこでコンサートやオペラ、演劇が盛んに上演されていましたが、今年はコンサートホールやオペラ座はみな静まり返っています。

ここ数ヶ月間、違う世界に踏み込んだかのような異様な光景が続いています。


 
今年の3月以降、コロナウイルスの世界的感染の影響を受けて、ドイツと日本で予定していたコンサートは軒並み中止に追い込まれました。

その中には、現代を代表するドイツ人作曲家ヘルムート・ラッヘンマン氏との対談式コンサートや、ベルリン・フィルハーモニーホールでのピアノコンチェルトの演奏依頼、ミュンヘンやベルリンなど各地でのピアノリサイタル・室内楽コンサートなど、心から楽しみにしていた本番が続いていたため、それら全ての中止・延期が決定されたときのショックはとても大きいものでした。

 

突如与えられたこの有り余るほどの自由時間をどう使うべきか、最初は戸惑いがありましたが、今振り返ると、じっくりと腰を据えて音楽そのものと向き合うことのできる、とても意義深い日々だったと感じます。

それまで毎回の本番に向けて曲を仕上げることに集中せざるを得なかった環境から一転、今まで長らく挑戦したくともできずにいた曲や作品と時間にとらわれずゆっくり対峙したり、音楽とは全く関係のないことに心行くまで挑戦してみたりすることができました。

周囲の友人の中には、この時間を利用して自動車免許に挑戦する人もいました。

 

6月ごろからベルリンでも段々と規制が緩和され始め、小規模のコンサートの開催が可能になりました。ヴァイオリニスト アーニャ・フィロホフスカさんとのデュオで行ったベルリン・マタイ教会でのコンサートは、入場規制により30人ほどのお客様を前にしてのこじんまりとしたコンサートでしたが、およそ3か月ぶりに聴き手の方々の前で実際に演奏できる喜びとともに、新鮮なような懐かしいような感覚を覚えました。

 

<マタイ教会でのデュオコンサートの様子>

 

無観客の状況でただカメラやマイクに向けて演奏するライブ配信と、実際に目の前に座ってじっと耳を傾けてくれている人々に向けて演奏する時では、自ずと感情の持ち方や伝え方は変わります。

コロナの期間を経て、人前で演奏できることのありがたみを痛感させられる機会となりました。

 

<ベルリン・フィルハーモニー室内楽ホールでのライブ配信コンサートの様子>

 

ロームミュージックファンデーション奨学生として過ごさせていただいた2年間、様々な経験を通し、音楽の面でも、人としての面でも色々な発見を得られたことに対して、心からの感謝の念に堪えません。

この2年間に吸収したものをこれからの音楽生活に活かせるよう、さらに貪欲に精進していきたいと思います。